あなたの忘れ物

※ このお話は両思いになれるおまじないから先に読んでいただくことをおすすめします。


言わなきゃいけないことがある。
それは、とても残酷なことになるけれど、このままではもっと残酷だと思うから。
どうしても俺はそれを言わなきゃいけない。

「わーったよもう、じゃあ早く言えよ」

簡単に言うなよ。
これでどれだけ相手を傷つけると思ってんだ。

「んなのお前が悪いんじゃねーか」

そうだ。
俺が悪いんだ、全部。
だから全ての罪は俺が引っ被るとしても・・・

「西森が傷つくのが怖いならそのままでいろや。
 山本さんだって可愛いし大体すっげーいじらしい・・・ってオイ!寝るなよここで!倉橋っ!」

友人のブツクサ言う声がどんどん遠くなり、俺は夢の中へとゆっくり移動した。




・・・・アタマが、割れるように痛む。

また昨日も呑んじまった。
べろべろに酔っ払っても、自分の中の後悔が蛇のようににゅるにゅると這い出てきて余計苦しいだけなのに。
毎度のことながら付き合ってくれるダチには感謝しなきゃいけないとも思う。

周囲は俺のことを頼れる男だと思ってることが多いけれど、実際はただ断れないだけだ。

断れなくて何でも引き受けてるうちになぜかそんな風にクラス内で位置づけられてしまっただけで、本当の俺は、素直になれなくてただの片思いを三角関係にしてしまった大馬鹿野郎だ。

第一志望に落っこちて、適当に決めた第二志望の大学。
だけど、西森を初めて見たとき。
ここにきてよかったと本当に思った。

ミディアムで襟足のスッキリしたヘアスタイルに、真っ直ぐな視線。
潔いほどすうっと伸びた背筋。
大体俺は昔から女の子らしい子よりも、そういう一見女フェロモンが少なそうなタイプが好きで。
そういう女の子が時おり見せる柔らかい仕草や身体のラインに、めちゃめちゃ弱いんだ。

だから、いかにもやる気がなさそうな、
仕事を生徒に押し付けて楽しようと目論んでる教授の口から女の名前がこぼれ、
彼女が面倒そうなアルトの声ではいと返事をして、そのあとに俺の名前が出てきた時は、きっと神様はいるに違いないとさえ思ったんだ。

『おい、行こうぜ。たぶんここの3階の研究室だろうから』
『あたしの名前は、おい、じゃないんだけど?』

間髪いれず返ってくる可愛くない反応と、そのわりには強張った不安そうな表情が俺を見上げてきて、ゾクゾク、と俺の男心を乱した。
・・・あ〜、これは、相当好みのタイプかも。

『あぁ?西森、でいいか?』
『様、をつけてよね』
『なんだそれー?じゃあお前も俺を倉橋様と呼べよ』

そう言ったらカチカチだった眉根の辺りがほどけて、ふわっ、と少しだけ目元が笑った気がした。
けどそれは一瞬で、またすぐに元の硬い表情に戻る。

『呼ばないわよ。絶対に呼ばない』
『んな真面目に否定すんなよ。想像してみろ。お互い様つきで呼び合ってたらそっちのほうがおかしいだろ』
『・・・確かに』

今度こそ、彼女は笑った。完全に。
そしてそれが、俺が完璧に彼女に落ちた瞬間。

それから俺らは当たり前のように(見せて俺がどんどん話しかけて)仲良くなり、
彼女、西森歩美のこともよく分かるようになった。

極端に人見知りで臆病なこと。
無表情に見えてよく観察していると、考えてることが丸見えなこと。
一度知り合いになれば、必要以上に相手に寄りかからないように頑張ってしまうこと。

けど、普段はそんな面を見せないようにしていてかーなーり、努力して強気に振舞っていること。

どれをとっても俺にはたまらないほど魅力的だった。
面倒そうだ、何がいいんだというダチの視線をものともせずに話しかけていたのだけど、これが一向に進展しない。
俺のことも明らかに意識していると思うんだけど、時おりそれは自惚れなのか?って凹むほどに辛辣な態度を見せる。

・・・要するに、めちゃめちゃ振り回されてたんだ。
西森の態度に一喜一憂して、そのくせ肝心の本心は何一つ伝えられず。
まるで中坊の初恋のようにうろたえる毎日。

どうしても西森の真意を確かめたくて本当は高校からのダチである岡村に頼まれてたことを、自分に置き換えてみた。

『お前と仲いい、ロングヘアーのおとなしそうな子、あの子可愛いな』
『春ちゃん?倉橋あぁいうタイプが好み?』
『・・・そうかも』
『じゃあ、紹介してあげようか?』

なんであのとき、俺は頷いてしまったのか。
結局西森はヤキモチを焼くどころかあっさり親友を俺に紹介して、なおかつオススメまでした。

『春ちゃんは私の友達の中で1番なんだから、感謝しなさいよ〜』

そのくせ、俺とその1番の友達を見る目はものすごく切なそうで。

ムカついた。
俺の1番はお前なんだよ!・・・そう言ってやろうと思ってたのに。

――・・・・倉橋くん、お願い、今だけでいいの。私と付き合ってほしい。

西森とは正反対の女の子チックなビジュアルの山本春は思いのほかハキハキしたタイプで、押しも強くて。

『ずっと倉橋くんが好きだったの。倉橋くんじゃないと、イヤなの』
『・・・スマン、俺は、その』
『分かってる』
『へ?』

なにが?
そう聞くより先に山本は悲しそうに微笑んだ。

『好きな人、いるんだもんね。分かってる。けど・・・私それでも、倉橋くんが好き』

その表情を見てるだけだったら、きっと彼女は儚げに映るに違いない。
結局断りきれずに、どこか冷めた視点でそんなことだけを思った。

それ以来、俺と春(そう呼べと言われたので呼んでる)との奇妙な付き合いが続いている。
惚れて付き合ってるわけじゃないから、手は出してない。
というより・・・俺は付き合うことにOKと言ったわけじゃないので、そういうことは出来ないなと思う。

けれど周囲はすっかり俺達が付き合ってると思っていて、春は照れたように可愛く微笑んで俺を見る。
春の心境を思うとあらたまって否定することも憚られて・・・でも西森の切なそうな様子は、痛い。

春はひとり暮らしの俺の部屋にメシを作りに来たり、今日みたいにバイトの次の日は電話やメールで起こしてくれたりする。
部屋に泊まっていった事は一度もない。
無論泊めるつもりもないので、夜遅くなったから送る、と言うが1人で帰ってしまう。

どんな男が見ても魅力的に思えるような品のいい笑みや柔らかい物腰のまま、自分の意志を貫く態度。
気弱な俺はそれにすっかり気圧されてしまって、今に至る。

けど・・・このまま惚れた女に嘘をつき続けているのは、もう限界だ。



続く >>>>>>