好きな人の誕生日の月と日にちを足した数の赤いビーズと、
あなたの誕生日の月と日にちをたした数の青いビーズを交互に白い糸に通して輪にします。
これを持ち歩いていると両思いになれるでしょう。
最初っから上手くいかないことなんて、分かってる。
それでもやっぱり、その"おまじない"をしようと思ったのは、心の端っこのほうで、いつか・・・って期待してたから。
けどたくさんある"両思いになれるおまじない"の中からそれを選んだのは。
「あれ、その携帯ストラップ手作り?」
「あー、うん。ちょっと思い立って作ってみたの。でも上手くいかなくって。なんかヘンでしょ?数も半端だし」
「あはは、でも可愛いんじゃない?赤と青で、白の携帯についてるとけっこういい感じ」
「・・・ありがと」
この思いが、絶対にバレることがないように。
「うぃーっす」
・・・とくん。
声を聞いただけで、分かる。だから、あえて振り向かない。
「おはよーっ。もう、また徹夜?すっごく眠そう」
「んあ?」
「昨日何度も電話したのに」
「だから頑張って来たんだよ。ありがとな、教えてくれて。今日タニーの授業落としたら留年モノだったわ」
「うん、そのかわりあとでお買い物付き合って?」
「はいよ。・・・西森、おっす」
「・・・オス」
そこで初めているのを気がついたように、声のほうに顔を向けた。
案の定、寝不足でどこか間の抜けた顔をした想いビトが、そこにいる。
「倉橋、超寝ぐせ」
「うるせー。治んなかったんだよ」
「春ちゃん。これのどこがいいのー?」
「えー、そんなの言えないってば」
頬を赤らめてそっと彼を見やる、ブラウンのロングヘアーに愛らしい顔立ち。
とてもじゃないけど敵う女の子なんていない。
春ちゃんは可愛い。
「寝ぐせつけて学校来るのも平気なオトコなんて、あたしはイヤー」
「ったく、西森は相変わらず細かいな」
あたしと倉橋の口先だけに近いやりとりを、黙って笑顔で見つめてる春ちゃんが、憎らしくてうらやましい。
でもそんな春ちゃんと、倉橋を繋ぎ合わせたのは自分。
そして、今あたしは、どうしようもないほど哀れだ。
『にーしーもーりー』
『なによ』
『お前と仲いい、ロングヘアーのおとなしそうな子、あの子可愛いな』
『春ちゃん?倉橋あぁいうタイプが好み?』
『そうかも』
『じゃあ、紹介してあげようか?』
・・・・親切顔して、心とは真逆の提案。
そして今の状況はその真逆の方向へまっしぐら、だ。
倉橋とは、入学してすぐに親しくなった。
入学してしょっぱなの授業で、40人足らずのクラスにまとめ役、悪く言えば雑用係が必要だと言いはなった、必修科目を二つ受け持つ(つまりこの先頻繁に会わなきゃいけない予定の)教授。
その人が何の意図も持たずに手元の名簿から指名したのが、あたしと倉橋で。
『この二人は、授業終わったら課題のレポート渡すからついてきて』
と言っておきながら、授業が終わると教授は一言もなくさっさと教室から消えていった。
こっちは新入生だよ?一言声かけるくらいしたらいいと思わない?
どうやら、相当自己チューなキャラらしい。
その自己チューにあやかってこちらも聞かなかったことにしようと席を立ちかけたときに、
『おい、行こうぜ。たぶんここの3階の研究室だろうから』
といつの間にか隣に立ち、あたしの名前も呼ばず真面目な顔で促してきたのが倉橋だった。
『あたしの名前は、おい、じゃないんだけど?』
『あぁ?西森、でいいか?』
『様、をつけてよね』
『なんだそれー?じゃあお前も俺を倉橋様と呼べよ』
初対面の挨拶にしてはキツイ返答だった、他にもっと相応しいセリフはいくらでもあったはずと、今でも思う。
極度の人見知りでプライドが高いあたしは、初対面で常に損をする。
性格はそう簡単には変えられない。
文句がこぼれる相手とは、最初っから友達になれない!とまで思ってる。
それでも・・・まったく悩んでなかったわけじゃない。
自分でも上手く折り合いがつけられなくて、イライラした鬱屈した気分を吐き出すようにまたキツイ言葉をぶつけてしまう。
半分は確実に八つ当たりだろうそのセリフをなんでもなくあっさり受け流すこのイケメンに、
私は簡単すぎるくらい簡単に、あっけなく恋に落ちてしまった。
『呼ばないわよ。絶対に呼ばない』
『んな真面目に完璧に否定すんなよ。想像してみろ。お互い様つきで呼び合ってたらそっちのほうがおかしいだろ』
『・・・確かに』
そこで気持ちが緩んで笑ってしまったのが、ますます良くなかった。・・・今となっては。
自分の気持ちを、自分で肯定してしまった瞬間。
オトコマエで、適当に言い渡された雑用係でもキチンとこなす、責任感の強い倉橋。
彼をいいと言う女子は他にもたくさんいる。春ちゃんもそうだった。
『倉橋くんが・・・私と?本当?』
そう言って頬を染めて喜ぶ春ちゃんに、それ以上は何も言えなかった。
そして、倉橋にも。
二人が、二人だけで会うようになって、『付き合うことになったの』と報告を受けるまでに時間はかからなかった。
自分の気持ちをなかったことにするには、その時間はあまりにも短すぎて。
今更叶うわけもない恋のために、あたしはおまじないをしてる。
―――もしこのストラップが切れたら、そのときにすっぱり諦めよう。
なんて、おまじないとは真逆の冴えない願掛けまでして、未練たらしい自分を戒めながら。
・・・
「あれ・・・」
「歩ちゃんどうしたの?」
「ケイタイが、ない」
「えぇ?!よく探した?」
「うん・・・いつもここに入れておくのに、入ってないの。どこで落としたんだろう・・・」
お気に入りのカバンの中をいくらあさっても、不恰好なストラップつきの白い携帯は見当たらない。
ロックもなにもしてないのに、どうしよう。
「歩ちゃん、鳴らしてみる?」
「ううん、いいよ。もしかしたら学食かなって気もするし」
「そうだね、行ってみようよ」
うん、と言いかけて、あることを思い出して慌ててあたしは首を振った。
「えーっ、いいよっ。今日デートでしょう?大丈夫よ、自分で探せるから」
「でも・・・」
「行っといでよ、楽しみにしてたじゃない」
「わかった、ありがとう」
優しい春ちゃん。
不器用で無愛想なあたしをいつも救ってくれる、大事な友達。
だからあたしは笑って送り出すことが出来るし、だからあたしは、この恋が叶わなくっても全然大丈夫なんだ。
ちらりと腕時計を確認して、あたしに可愛く微笑んでから小走りで教室を出て行く春ちゃんの、小さな後姿を最後まで見送った。
「大丈夫」
大丈夫。平気。
ちょっと苦しいけど、ぎゅっ、と胸が痛むけどそれだけだもの。
・・・・それでも、探しに行くのは携帯よりもあの、青と赤の中途半端な数のビーズで作った不恰好なストラップ。
不器用で素直じゃないあたしには、お似合いだ。
わざと足取りを強くして、食堂へと向かう。
大丈夫、平気。
だいじょうぶ、へいき・・・・・・。
心の中で何度も何度も念じるように、どうかそうなるようにと願いをこめながら、あたしは呟いていた。
このお話はあなたの忘れ物・ちょっとだけそばにいさせてと繋がっています。
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