――分かってた。
「もう、・・・自分に嘘つくのは、イヤなんだ」
「・・・」
「今まで何にも言わずにおいて、今更こんなこと言うのは反則かもしれないけど・・・オレ」
「分かったよ」
「春・・・」
「無理言ってたのは私のほうだもん。気持ち知ってたのに、残酷なことさせてたのも私だもん」
――いつかはこんな日が来るって、ちゃんと分かってたよ。
「ごめんね。歩美には、ちゃんと話しておく。
あの子のことだからきっとすごく遠慮しちゃうと思うけど、そうさせないようにするから」
「・・・春、ごめん」
「謝らないで。倉橋くん優しすぎるんだよ。私みたいなズルい女、放っておけばいいの」
――だから、それまでは、ちょっとだけでもいいからそばにいたかったの。
よく。見た目と性格が違うって言われる。
私はよく見も知らない人から告白をされる。
同じ時間の電車なんですとか、隣のクラスですとか何かしら共通点をアピールされるけれど、私にとってはやっぱり知らない人。
でも、そのとき彼氏がいなければとりあえずデートくらいはしてみることにしている。
断るにしても、理由がいると思うから。
・・・とここまではきっと、普通なんじゃないかと思う。
けれど1日一緒に過ごすと、告白してくれた男の子達は揃いもそろってこう言うの。
『思ってた子と違う』
おとなしめに見えるらしい風貌と、何事も白黒ハッキリさせたいサバサバ系の性格とのギャップに驚くみたい。
それで傷つくことも過去にはあったけど、今は告白された段階で『あぁ、この人は見た目しか見ていないな』って分かってしまう。
歩美とは高校から仲良くしてる友達だけど、歩美もすごく女の子らしい子だと思ってたって言っていた。
『じゃあ実際は女の子らしくないみたいじゃない』
そう拗ねてみせると歩美は困り顔半分、笑顔半分になった。
『そんな意味じゃないよー。思ってたよりハキハキしてたからってこと』
『なによそれー。結局はマイナスイメージって感じなんだけど』
『ううん。私、春のそういうとこすっごくうらやましい』
思いのほか真面目な返答だったので『えぇ?』と驚くと、『本当だよ?』とちょっとむくれたように(後で分かったんだけど、それは恥ずかしいときの顔みたい)歩美はそう言ってくれた。
性格はわりと正反対なとこがあるけど、歩美といるとすごく楽しい。
ボーイッシュで中性的なイメージの歩美は内面はとてもナイーブで、人に気を使いすぎるくらい使っちゃう。
私はどちらかと言うと自分の気持ち優先なのに、歩美はいつも他人優先で損ばかりしてる。
けど、周囲にはそんな風に見られないように必死で強気の女の子を装っていて。
素直じゃないんだけど私なんかよりもずっと、素敵な子。
歩美も私と同じで、見た目と性格のギャップに悩んだあげくそうなってしまったんだと思う。
倉橋くんが歩美に興味を持ったのも、歩美のどこか少年のようなたたずまいに惹かれたのだとただ単純に思っていた。
入学式のときに初めて倉橋くんを見た。
そのときは名前なんてもちろん知らなくて、ただすらっと背の高いバランスのとれた身体つきや颯爽とした身のこなしが目に付いただけ。
顔立ちもまぁまぁ整っているほうで、純粋に『あ、かっこいいな、話をしてみたいな』と思った。
もちろんそう思ったのはきっと私だけじゃなくて、クラスの女子のほとんどが、この何気に目立ってイケメン風の男子を心の中で"カッコイイ男の子"のフォルダにインしたはず。
そんな彼が、入学して初めての授業で最初に声をかけたのが歩美だった。
あのときは誰もが何でもないフリをしながらも、集中してその様子を見守っていたと私は確信してる。
けど私は知ってるの。
教室に歩美が入ってきたときから、倉橋くんが歩美しか見ていなかったことを。
そして声をかけられた歩美がそのときにやっと初めて倉橋くんの存在を知って、恋に落ちちゃったことも。
お互いがお互いをとても意識してるって分かってて、どうして私が引かなかったのか、って?
だって二人とも鈍感で・・・ううん、歩美のほうが超!鈍感で。
倉橋くんが自分に興味を抱いてることに、1ミクロンも気がついてないんだもの。
気がついていないのなら、まだ私が入る余地はあると思ったの。
倉橋くんが歩美に興味を持ったのも、歩美が『気の強い、ハキハキした子』だと勘違いしてるからで、本当に倉橋くんが追い求めてる女の子は歩美ではなくって、すぐ近くにいる。きっといつか分かるはず。
そう、思ってた。
『倉橋がね、春ちゃんのことタイプなんだって』
沈んでいる気持ちを無理に引き上げるようにわざとキッパリと歩美が私に言ってきたとき、
私は自分が正しかったことを知って、すごく喜んだ。
歩美が失恋しているというのに、私は自分の幸福を手放しで喜んでいた。
きっと、その報いなんだ。
付き合って、って自信満々に告げた私に倉橋くんはとても困った顔をした。
彼が、困り果てながらも断りの言葉を口にしようとしたとき、思わず私は言っていた。
『ずっと倉橋くんが好きだったの。倉橋くんじゃないと、イヤなの』
『・・・スマン、俺は、その』
『分かってる』
『へ?』
『好きな人、いるんだもんね。分かってる。けど・・・私それでも、倉橋くんが好き』
私はいったい何を言っているんだろう。
大好きな友達、歩美の好きな人なのに。その人も、歩美のことが好きなのに。
倉橋くんは、歩美が見かけどおりの男勝りな性質じゃないってことを見抜いていた。
そのことがとてもショックだった。
そして・・・自分がありえないくらい、倉橋くんに惹かれていたこともそのとき初めて知った。
『私だけが好きでもいいの、付き合ってくれなくてもいいの。そばに、いさせて』
『・・・山本』
『倉橋くんの恋が実るまでの間だけ、私のことを彼女にして』
倉橋くんの返事も聞かずに『じゃあ、また明日ね』とその場を去った。
そして次の日もその次の日も私は倉橋くんに親しげに話しかけて、食堂では隣に座り、バイトで忙しい彼を気遣い続けた。
周囲から『付き合ってるの?』と聞かれたら『うん・・・?』と恥ずかしそうに言葉を濁した。
ここぞとばかりに、自分の見た目を利用した。
・・・歩美にだけははっきりと『付き合うことになったの』と告げた。
私の恋が実ったことを、手放しで喜んでくれた歩美。
そこには私を嫉む感情は一つもなかったと言い切れる。
そんな歩美が人知れず辛そうに倉橋くんを見つめているときが、最も心が苦しい。
自分がそんな意地の汚い女だったことにも、嫌気がさす。
いつでも倉橋くんは優しすぎるくらい優しかった。
勝手に押しかけて彼女ヅラしている私を責めたりはしなかった。
私の必死すぎる思いと私を傷つけることに尻込みしていた彼は、ただ普通の友人として私を扱っていた。
周囲に何か聞かれても、何も言わずに通してくれていたようだった。
それに、どれだけ部屋に二人きりでいようとも、男と女になろうとはしなかった。
そんな彼をどうこうしようなんてほど私も悪い女にはなれずにいて、決して部屋に泊まったり1人暮らしの自分の部屋に送ってもらうようなことはしなかった。
私なりの、けじめだった。・・・けど、それは違ったのかもしれない。
例え好きな人でも、自分のことを愛してくれていない人に抱かれるのが嫌だった。
そんな惨めな思いをしたくなかった。もっと言えば、誘うのは彼からであってほしかった。
私はどこまでプライドが高くて嫌な女なんだろう。
いっそのこと抱かれてしまえばこの気持ちも昇華できたかもしれないのに。
素直になればよかったのに。
彼の部屋を出て、ぼんやりと歩いている。
足が向かう駅への方向と、気持ちの方向がまったく噛み合わなくて、ますますぼんやりしてしまう。
・・・私、フラれたんだなぁ・・・。
でも、仕方ないよね。
こんな日が来ることは最初から分かってたんだもん。
だからかな。なんか、涙すら出てこないや。
大学に入学して、倉橋くんに恋をして、友達を差し置いてまで手に入れようとして・・・
失恋の感情まで失くすほど私は冷たくなってしまったのかな。
続く >>>>>
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