ちょっとだけそばにいさせて


「・・・さん、山本さん?」
「・・・え?」

ふいに声をかけられて振り向くと、そこにはクラスメイトの男の子が立っていた。

「倉橋ん家からの帰り?」
「あ、うん」

ちょっとパーマがかった髪は見事、無造作に見せて丁寧にセットしてある。
少し垂れ目がちの目元と、ごつい感じの肩のラインが特徴的。
確か倉橋くんとはわりと仲のいい人で、えぇと・・・名前なんだったっけ・・・

「俺、岡村」
「あぁ・・・ごめんなさい」

苦笑いと残念そうなのが混ざった感情を浮かべた彼に申し訳ないと思いつつ、けれどほとんどまともに話したこともないので、急に話しかけられたことに訝しさを覚えた。

「その感じだと、あいつとうとう言ったんだね」
「え・・・」
「ずっと悩んでたから。優柔不断にもほどがあるなというくらい」
「くっ、倉橋くんは優しいのよ、悪いのは、私だから。彼を責めないで」

思わず、強く言い返していた。
ほとんど話したこともない男の子に今の状況をズバリと言い当てられてうろたえて、さらに自分の好きな人を悪く言うような発言をされて、つい感情を露にしてしまった。
途端に恥ずかしくなって「ごめんなさい」と、顔を合わせられず横を向いたまま謝る。

「いや、山本さんが謝ることなんかないよ。・・・ずっと、偉いなって思ってた」
「・・・なにそれ、偉くなんか・・・」
「好きだったんでしょ?友達を傷つけてもいいって思っちゃうくらい。辛い道を選んでたね」
「・・・私の、わがままだから」

何この人・・・?
友達の好きな人を横取りしようとしてた私を誉めるなんて、変な人だ。
普通だったらもっと責めるでしょう?

それでもその優しい言い方に、心の底のほうの、本音の部分が開く感じがした。
迂闊にも瞳を涙が覆って、零れ落ちそうになる。

やだ、だめ。泣くにしても、1人で泣きたいの。ここじゃ嫌。

「すげ頑張ってたじゃん」
「・・・うっ」
「他のヤツはどうか知らないけど、俺は、すごいと思ってたよ」
「も、もう止めてっ・・・」

最後の言葉はもう、涙で分からなくなってしまった。

「・・・うっ、ったしは、」
「うん」
「・・・倉橋くん、がすき、だったの・・・」
「そうだね」
「歩美のことだって、大事だったの・・・でも、っく、好きだったの、しょうがなかったのぉ・・・」

涙がぼろぼろとこぼれて頬を伝うと同時に、ものすごい感情の渦に巻き込まれて立っていられなくなってその場にしゃがみこんでしまう。
私はとうとう、住宅街の往来で泣き崩れてしまった。
けどそんなこと気にしないように、岡村くんはかがみ込んでいる私に合わせてしゃがんだ。

「頑張ったね。泣いちゃえ泣いちゃえ。溜めててもしょーもないよ」
「・・・うっ、ひっく・・・うぅっ・・・」

口元に微笑を乗せて、大きい手のひらで私の頭を撫でて。
しばらく二人でそのままでいた。
撫でられている頭が暖かくて、道端にいるのを少し忘れてしまいそう・・・。

「まいごのまいごの子猫ちゃん、ってこんな感じなのかな?」

けど岡村くんは突然そう言うと、撫でていた手を引っ込めてしまった。
なんだか残念な気持ちになり・・・慌てて否定した。それからようやく、彼の言ったことが頭の中に入ってきた。


まいごのまいごの子猫ちゃん あなたのおうちはどこですか?
おうちをきいても わからない なまえをきいても わからない

泣いてばかりいる 子猫ちゃん・・・


子供の頃、姉とよく歌っていた童謡。
幼かった自分と姉の歌声が記憶の中でよみがえった。

「・・・そう、かもね。犬のおまわりさん、でしょう」
「それってタイトル?」
「知らなかったの?」

涙はまだ少し残っていたけど、幾分か落ち着いたので何気なく聞くと、
「うん、だって猫メインだし、おまわりさん困ってるだけじゃん。まさか犬メインって思わなくねぇ?」
って。そんなに真剣な顔で言われても。

「でも・・・それだと、岡村くんは困ってしまってるってことになっちゃうか」
「あ、うーん、そうだな、そうなるな」
「でもそうよね。こんなとこで泣いてる女を慰めるのって重労働だよね」
「重労働・・・」

ぽかん、とした顔になんだかおかしくなってくる。
ちょっと人見知りしていたけれど、すっかり張り詰めていたものが抜けちゃった。

「ごめんね、つき合わせちゃって。今から倉橋くんとこに行く予定だった?」
「あ、いや・・・俺の家もこの近くで」
「じゃあ通りすがりだったんだ。余計にごめんね。今度何か奢る。何がいい?」
「えっ、あ、あぁ・・・なんでも、いいけど」
「って言っても今月ちょっとピンチだから、学食程度しか奢れそうもないんだけど、いいかな?」
「うん・・・。あのさ、なんか、山本って」

来た。
戸惑い顔の岡村くんに、気がついたら早いペースでしゃべっていたことを後悔した。
あーもう、また言われるのかな。『イメージと違う』って・・・。

「倉橋に聞いてはいたけど、思ってた以上に飛んでるな」

は?
飛ん、でる?
意味分からないんだけど・・・。

「テンポ早いってゆーか、なんてゆーか」
「イメージじゃないと言いたい?」
「イメージ?いや、倉橋から結構キャピキャピしてるぞっては言われてたけど、予想以上だったってこと」

倉橋くん、私のことキャピキャピって思ってたの・・・?
それってすごく、ショックだ。沈黙が怖いから頑張ってただけなのに・・・。

「面白い」
「・・・は?」

岡村くんは何だかご機嫌そうに私を眺めた。
「キャピキャピっていうと誤解を生むなー。天然?キャラ濃い目?」
それもなんだか・・・イヤなんですけど。

「見た目落ち着いて見えるのになー」

へらっと笑って言われて、ブチン!とキレた。

「わっ、悪かったわねっ!どーぜ見た目と違って雑ですよっ!
 ご飯食べてても大口開けて笑うし、胡坐だってガンガンかくし風呂上りにはビール一気飲みだしっっ」
「ちょちょ、待て待て」
「みんなして見た目と違うだのイメージと違うって何なのよ、なんか文句あんのっ?しょーがないじゃないのよっ!!!」
「だから悪い意味で言ってないって、落ち着けよー」

どうどうどう、って言いながら私の肩を叩く。

「私は馬じゃないっ」
「馬だなんて思ってねーけど、鼻息は荒いな」
「・・・」

一気にまくし立てすぎたんですよっ。
と言いたいけど再びここが路上だってことを思い出して、感情を引っ込めた。
けどこれだけ出しちゃった後だし意味ないか・・・。

「忙しいなぁー、さっきまで泣いてたのに」
「うるさい。気が立ってるのよ、ほっといて」
「あぁ、そういうことね。じゃあ、甘いものでも食いに行く?」
「なにそれ」
「甘いもの食べたら幸せな気持ちにならない?」
「ならない」
「そっかぁー、じゃあ付き合ってよ、俺が食べたいし。奢ってくれるんでしょ?」
「はぁっ?」
「さっき言ってたじゃん。学食程度ならいいって。ハーゲンダッツで手を打とうじゃないの」

そういえば、そんなことを言った記憶が・・・。
つい数分前のことなのに、なんだかものすごく昔の出来事のような。

「ま、そんな顔しないで、ちょっとだけ・・・山本春さんのそばにいさせてよ。楽しいし」

・・・へぇっ?

「あー、さん付け面倒だな、春って呼んでもいい?」
「・・・いいけど」

そばにいさせて、って言い方おかしくない?
って聞こうと思ったら完全に出鼻をくじかれ言えなくなった。・・・なぜなら、もう1度言われてしまったからだ。


――・・・ちょっとだけでも、春のそばにいたいんだ・・・好きだから。









あとがき

すいません、なんか。最後は「甘−−−−い!!」で逃げた感じですw

岡村くんのイメージは、なんとなーく、大泉洋さんです。
洋さん大好き・・・。でも洋さん自体は全然こんなキャラじゃなさそうだけど。
つか無造作パーマっていうより強力天パだけどw

見かけと性格のギャップってありますよね。
今回は、見た目は大人しくて可愛くて落ち着いてるけどキャラの強い子と、
見た目はツンとしてて男性っぽいのにすごく女の子らしい優しい子、
という二つの真逆ギャップを描いてみました。
上手く書けたかなー。

あと、倉橋くんはやたらウジウジしてますけど許してあげてねw