小雨が降り出した。
次の駅で降りろといわれ素直に降りた駅は、住宅街の中の何もない小さな駅だった。
本数も格段に減りそろそろ終電に近付いていく駅。
シー・・・ン、と静まり返ってる。
そんな中でしかも夜中の12時を過ぎているところにただ突っ立っていると、奇妙に寂しさが沸いてくる。
またナンパとかされたら困るなと降りるときに一瞬思ったけれど、実際はナンパしてくる人はおろか、人自体がいない。
・・・・パッパー!
軽いクラクションの音とともに駅の小さなロータリーに入り込んできたネイビーブルーのセダン。
小柄な春ちゃんが助手席に埋まっているのを確認して、近付く。
ブゥィン・・・とかすかな音を立てて運転席の窓が開き、見覚えのある天パの頭がひょこ、と飛び出してきた。
「悪ぃ、遅くなった」
「遅いっ!」
「だから悪ぃって。こんな駅来た事ねぇし迷ったんだよ。寒かったろ、早く入れよ」
岡村。下の名前は知らない。
倉橋と仲が良くて、倉橋が春ちゃんと付き合う前に何度か軽口を叩き合ったことがあるくらい。
外面がいいというか、どこかさらっとした人当たりで不もなく可もない感じ。
っていうか、掴みどころがない。
へらっ、と笑われるとこれ以上何か悪態をつく気もなれないような、そういうヤツ。
後部座席のドアを開けて乗り込む。
古臭いボディと対照的に、意外と整頓されいい香りのする車内。
「春ちゃん」
心配そうにこちらを振り返って見つめる瞳に、微笑みかけた。
春ちゃんはそれに曖昧に答えた後、運転席の岡村のほうを向いて
「克彦、あたし後ろの席行ってもいい?」
と言った。
「あぁーどうぞー」
「かつひこ・・・」
岡村が返事すると同時に呟いた私の声に、あ、と春ちゃんが頬を染めた。
(・・・え。)
訝しげな私の視線を避けるように助手席を抜け出し後部座席のドアを開け、あっという間に私の横に滑りこんできた。
「ちょっ・・・笑ってないで、早く出してよ!」
「はいはい」
横にいるからよく分かるけれど、ちょっと顔が赤い。
まるでそれが見えているかのように岡村がにやにやしているのも、何か・・・。
「・・・いい雰囲気、なんですけど」
認めたくないけど。というか脳みそが理解してないけど。
この場の雰囲気は・・・まるで私が邪魔?なくらいのいいムード。
「・・・・・・・・うん」
小さくなって俯いて、ただ頷くだけの春ちゃん。
「・・・ま、そーゆーこと、です」
肩をすくめ、それでもそれなりに反省しているような声色の岡村。
え、えぇぇ・・・・
「えーーーーーーーーーーっ???!!!!」
「・・・っちょ!西森、うるせっ・・・」
「なんでっ?どして??なにがっ???!!」
「落ち着けよ」
「落ち着いていられるかぁっ!!」
何よその展開の早さっ!
「あ、あゆちゃん、ごめん・・・。私が悪いの・・・だから、落ち着いて」
それでも何とか私がそれ以上怒鳴らずに済んだのは隣に座る春ちゃんが、まるで恐縮してしまっているから。
こちらの感情を伺うような視線。
常に強気でまっすぐで凛とした春ちゃんの、そんな姿は初めてだったから。
「春ちゃん・・・。ほんと、に?」
本当の、ことなんだ・・・・・。
質問系のセリフが口をついて出たけれど、聞く前に答えはもう分かってしまっている。
それくらい目の前の二人は分かりやすく"恋人同士"で、春ちゃんは恋する乙女・・・みたいで。
「うん」
「・・・そっ、か」
「私も、こんなに早くこうなるとは、思ってなかったんだけど」
「そ、そうだよね」
早すぎじゃない?という言葉は心に仕舞う。
「でね、私。私、歩美に謝らなきゃいけないことがあるの」
「え?」
謝る・・・
何かを覚悟した真剣な瞳の春ちゃんにつられて、私もその綺麗なアーモンド形の瞳をじっと見つめ返した。
「あの、ね・・・」
説明し辛そうなことなのだろうか、一度言い掛けて口ごもる。
「なぁに?」
こんな風に、ハッキリしない春ちゃんは本当に珍しい。
自分の声が妙に空々しく響いた。何故かは分からないけど。
「わたし・・・倉橋くんとは、・・・・なにも、」
なにも、なかったんだよ。
