前髪、可愛い、って。
触られちゃった・・・・・。
すごーく、ドキドキした。今もまだちょっと触られたとこが熱い。
この間、・・・キスしたことも思い出しちゃった。
ぎゅ、って抱きしめられたこととか、色々・・・。
「・・・は、時間ある?」
「・・・・・え?」
「いやだから、このあと」
このあと?
「時間、あるんならどっか寄っていこうか、って話してたんだけど」
あ・・・また、話聞いてなかった。
「すみ、ません・・・」
やだなぁ。なんで私ってばいつもこうなんだろう。
せっかく先輩と一緒にいるのに、また違うこと・・・(といっても先輩のことなんだけど)考えてたらもったいないのに。
「何考えてたの?」
「・・・え、あ・・・なんにも」
「ホントに?」
「・・・・・・・・はい」
嘘をつくのって、苦手。
ううん、正確に言うと、先輩に嘘をつくのが苦手。
たいしたことじゃないけど、前に適当にごまかして先輩の質問にちゃんと答えなかったとき、
先輩はそれに対してものすごく怒ったことがあって。
それ以来、先輩にはいつもちゃんと本当のことを言わなくちゃ、って心に力が入ってしまって。
「ふ〜ん」
ほら、やっぱり先輩は何か気にしたままこっちを見てる。
うー・・・。どうしよう。
困ったなぁ。
考えてたことは恥ずかしいから言いづらいけど・・・。
「まぁいいけど。で、時間ある?」
迷ってたら、急に、諦めたみたいに先輩は話を変えた。よ、よかったぁ・・・。
「・・・・あ、はい、ちょっとくらいなら平気です」
「んじゃマックでも行こうか?俺、新発売のヤツ食いたいんだ」
えぇ・・・。
さっきまでうちのおせち料理を美味しい美味しいってたっくさん食べてたのに・・・そんなにどこに入るんだろう。
これも付き合い始めて分かったことだけど、先輩はものすっごくたくさんご飯を食べる。
時々圧倒されてしまうほどの、食欲旺盛ぶり。
大きいと、その分いっぱい食べないともたないのかなぁ・・・・。
そんなことをぼんやり思っていたら、ふいにひょい、と右手を繋がれた。
「んじゃ早くその用事済ませちゃおうぜー」
嬉しそうな笑顔。
(あ・・・)
そっか。
先輩も、私に会いたいって。もう少し一緒にいたいって、思ってくれてたんだ。
「はい・・・」
顔が、自然ににや〜って、しちゃう。
うれしいな。そういうの。
「茅代」
「はい」
「・・・さっき、かわ・・・かった」
「え?」
「いや、なんでもねー」
なんだろう。
先輩が言いかけてやめることってわりあい珍しい。
「あ、先輩、ここ右です」
「うん」
でももう一度聞く前に、沙里ちゃんのお家がもうすぐだったから、そっちに気を取られちゃった。
顔を見たいけど、先輩は背が高いからその上向こうを向かれちゃうとどんな顔してるか分かんないんだよね・・・。
・・・
「遅くなっちまったな・・・」
「あ、ううん。だいじょうぶ、です」
「いいの?」
「はい。・・・遅くなる、って言ってきたから平気です」
「そっか・・・」
沙里ちゃんはいなかったからお姉さんに髪飾りを返してお礼に、とお正月用に焼いたカップケーキを渡したらすごく喜んでくれた。
そのあと先輩とお茶を飲んで(先輩はたくさんハンバーガーを食べてたけど)本屋さんで欲しかった新刊を見つけて・・・
デート、した。
こんな風に街を歩くのもわりと久しぶりで。
楽しくて、早めに帰ったほうがいいかな、なんて出かけたときに思ってたことも忘れてしまってた。
叔母さんが『お正月なんだしゆっくりしてらっしゃい』って言ってくれてたから、結局その言葉に甘えさせてもらうことになっちゃった。
でも、叔父さんはちょっと機嫌悪いかもなぁ・・・
最近特に、『先輩と一緒にいる』って言うと機嫌が悪くなっちゃう。
でも先輩のことが嫌いだとか、そういうのでもないみたい。それが『父親』ってことなんだって、叔母さんは言ってた。
お父、さん。
高校に入学する2、3日前、茅代宛に荷物が届いた。
送り主はいつも不明。
何も書いてないか、もしくはこの世に存在しない、ものすごく適当な住所と名前が書いてあるだけ。
まるで足長おじさんのように年に何度か定期的に送られてくる荷物は、
茅代が祖母の家に預けられるようになってから、届くようになっていた。
真新しいハンカチが何枚か、文庫本が1冊、とぼけた顔をした犬のぬいぐるみが一匹。
ぬいぐるみの種類と、本の内容だけがまるでそのときの茅代に合わせたかのように難解になっていくだけで、
茅代が小学校のときからあまり代わり映えしない荷物の中身。
それでも茅代はそのぬいぐるみを大切に保管して、本も大事に大事に読む。
ハンカチは、とっておきのお出かけのときにしか使わない。
だから、そのハンカチは今、鞄の中に沈んでる。
「茅代」
「はい」
名前を呼ばれ、高い顔の位置にあわせ首を振り仰ぐと、そっと、先輩の指先がまた前髪に触れた。