「遠慮せず、食べなさい」
「は、はいっ」
初詣の後。
俺は何故か、茅代の家でメシを食べることになってた。
お参りが終わってお守りも買って、さてどこか空いてる店にでも入ろうかと考えていたら、
鳥居をくぐって、すぐ目の前に停車してたシルバーのセダンに向かって茅代が手を振った。
「・・・あ、叔父さん」
なっ、なにーっ???!!!
マジでっ?!
つい、慌てて手を振りほどいてしまった・・・しかもそんな慌てた俺に対して、茅代の一言。
「叔父が、この間の約束通りうちでご飯を食べないかって、言ってます」
・・・そうならそうと最初から言っておいてくれてれば、ココロの準備なんかも出来てたとゆーのに。
はぁ。
もう少し二人でいろいろ遊んだり・・・とか思ってたんだけど。
とはいえ断るなんてもっと無理、なわけで。
俺は内心渋々で、叔父さんに正月の挨拶。
叔父さんは運転席に座ったまま鷹揚に頷き、俺に後部座席に乗るよう促してきた。
(あー、拉致られる〜・・・)
って、彼女の父親代わりの人に対してそりゃ失礼か・・・。
車内で茅代が着物の袖が引っかかって多少座りづらそうにしてるのを助けたりしてるうちに、あっという間に家についていた。
・・・
「すっげぇ・・・・・」
で、連れて来られた茅代の家。
案内されたダイニングテーブルの上に並べられた正月料理は、うちのそれとはまるで大違いだ。
うちは適当に大皿に料理が細々並べられていて『さ、好きなもん食べて』だけど、
よく、デパートとかで売ってる正月料理の詰め合わせの重箱、あれみたいなのが大皿3枚くらいにずらっと並べられてる。
「この栗きんとんは茅代が作ったんだ」
叔父さんが箸でつまみながら、珍しく俺に笑顔を見せた。
「あ、そうなんですか」
「あとこのごまめも、黒豆も・・・」
ごまめってなんだ?
でもとにかく、この豪華な正月料理の三分の一くらいを茅代が作るなり手伝うなりしてるらしいことが分かってめちゃめちゃ驚いた。
「茅代は料理が得意なんだよ。一緒に住んでたうちの母親が毎日仕込んでいたらしくてね」
はい。料理が得意なのは知ってました。
時々一緒に食べる茅代の弁当、正直俺のオカンのより旨いときあります。
と、心の中で返事をして黙って頷く。口元は微笑みの形のまま。
自分で言うのも何だけど、中学のときからガチガチの体育会系で来てるから意外に
年上の、おじさんおばさんの話を聞くのは得意なほうで。
この叔父さんに会うまでは、緊張するとか考えられなかったんだけど・・・だめだ、何か気ぃ抜けないんだよな。
「学校の成績も、小学校のときから申し分なくてね。1度だけ授業参観に出席したときも・・・」
「叔父さん、もう・・・」
「まぁまぁいいじゃないか。その授業参観で、誰にも解けなかった数学の問題をな、こう、すら〜っと・・・」
・・・・その後、"うちの茅代は・・・"から始まる自慢話は延々、1時間ほど続いた・・・・。
「すっ、すみませんでした・・・ほんとに」
「いいよ、大丈夫」
相槌打つのが精一杯ですげー疲れたけど・・・よっぽど愛されているんだな、というのがよく分かった。
いくら血が繋がってるとはいえあそこまでの溺愛ぶりは結構すごいと思う。
「もう、誰にでもあぁいう感じで・・・まさか、先輩にまで・・・」
でも茅代からしたら恥ずかしい以外のナニモンでもないんだろうな。
穴があったら入りたい風情の茅代の、いつもよりさらさらしてる前髪に何気なく手を伸ばした。
「大丈夫だって」
「・・・・・は、いっ・・・・」
茅代の髪は少しクセがあって、完全なストレートヘアーじゃない。
けど、今日は少しまっすぐに目の上で揃えられたようになってる。
パーマ・・・?
いや、これくらいならドライヤーとかでもできんのかな。
急に触られてビックリしてる茅代に聞いてみた。
「前髪まっすぐなのって、セットしてもらったの?」
「・・・・へ、あ、あぁ・・・はいっ、あの、沙里ちゃんのお姉さんに」
「ふーん。可愛いな」
意識なくすらっと出た誉め言葉に茅代が真っ赤になった。
「あ、あっ、あり、がとございます・・・・」
でもまだ、肝心な着物姿については何も言えない。
本当に思ってることは、意外とすんなりと出てこないものなんだなって強く実感。
豪華なおせち料理と自慢話を散々ご馳走になった後、「お邪魔しました」と玄関を出たところで、
茅代が「沙里ちゃん家に行くから、いっしょに」と俺の後を追ってきてくれた。
着物はとっくに脱いでて、いつもの私服姿。
グレーのコートに白いマフラーをくるくる巻きにして、今日はロングスカートを履いてる。
髪の毛だけは着物のときのまま、頭のてっぺんでひとつにまとめてある。
・・・なんか寒そうだ。さっきも寒そうだったのに、外出ばっかで大丈夫なのかな。
「ところで何で沙里ちゃん家に行くの?」
「・・・あ、これを返しに行くんです」
そっと口を広げて見せてもらった小さな紙袋の中身は、大きい赤い花。
「さっき頭についてたやつ?」
「はい、洋子さんに借りたんです」
「洋子さん?」
「あ、はい・・・沙里ちゃんのお姉さんです」
「へぇ〜、姉ちゃんいるんだ。まぁ、そんな感じかな」
こう、家族におもちゃにされて育った末っ子って感じ。
そう言うと、茅代がふふ、と笑って3姉妹の1番下なんだって教えてくれた。
「やっぱりか」
「はい」
沙里ちゃん家はお母さんと1番上のお姉さんが美容室をしてるんだとか。
お父さんは出張の多い仕事で滅多に家にいなくって、
「オンナノソノ?だって、よく千晶ちゃんが言ってます」
と。
女の園ね・・・男兄弟で育ってきた俺としてはちょっと気になるけど、まずそれよりも。
「今日はまだ時間ある?」
沙里ちゃん家に行ったあとの予定のほうが、俺には重要だ。