6.





「先輩っ!!」

背後から、すごく元気な女の子の声がして驚いて振り向くと、声の印象どおりのハツラツとした子がニコニコしていた。

「・・・あれ、渡瀬くん。あけましておめでとう」

隣には、・・・なんだか機嫌の悪そうな渡瀬くん。
それでも年始の挨拶をしたら、いつもみたいにきれいな微笑が口元に浮かんだ。

「おめでとう、着物なんだ」
「・・・うん」
「かわいいね」
「・・・ありがとう」

なんか・・・、先輩と手を繋いだ状態で渡瀬くんと話しているのはどこか、恥ずかしいんだけど・・・。
先輩は手を離すばかりかさっきよりちょっとだけ強くきゅっと握ってきてて、手を離すことはできないみたい。

う〜ん、困った・・・。

「茅代、この子ラグビー部のマネージャーしてる子なんだ」

どうしたものかと考え込んでいたら、助け舟のごとく先輩から話しかけられる。
そこでようやく、先輩と渡瀬くんの隣にいた女の子とが知り合いだったんだって私は気がついた。

女の子は私のほうを見てにこっと笑ってぴょこん、と頭を下げた。

「・・・あ、そうなんですか、はじめまして」

マネージャーさんかぁ。
先輩みたいな大きい男の人達に囲まれて、とっても大変そうなお仕事。
こんな風に明るくって元気でないと、やっていけなさそう。

「やだなー、たまにそっちのクラス遊びに行ってるから初めましてじゃないんだけど?」
「・・・え。ごめんなさい、知らなくて・・・」
「ま、話したことないから仕方ないか。ねぇ着物可愛いね!いいなぁ、私も着ればよかったかな〜?」

あと、こんな風にテンポ良くて、弾むようにお話できる子じゃないと。
なんだか、イメージにピッタリだなぁ。

「・・・着物、持ってるの?」
「お姉ちゃんのがあるんだけど、動くの大変そうだからやめちゃったんだぁ。うーん、失敗したかな?ねぇ、渡瀬くん?」

呼びかけられて、それまで先輩と話していてまたもやブスッとした顔だった渡瀬くんが、面倒そうに彼女のほうを向いた。

「なに?」
「私も着物着てたら良かったかな?」
「別にどっちでもいーよ」
「もー、いい加減その無関心な返事をやめてよー。ちょっとは興味持ってってば」

カラカラカラッ、と笑って彼女が渡瀬くんの袖をぐいっとつまんだ。
渡瀬くんは変わらない表情のままで、それを静かに振り払った。

「1回だけデートして、って言うから来ただけだし」
「まぁまぁ、そんな固いこと言わないでよ」

なんだか。
いつもの渡瀬くんらしくない冷たい態度だな、とヒヤッとする。
けど亜矢ちゃん・・?というこの女の子は、ちっともそれに気がついていないみたいにニコニコしている。

ふと足元を見ると、フリルのミニスカートから見える膝が少し青ざめていて寒そうだった。
それに、全体的に見て可愛い服装だけど、こんな寒い日にはとても薄着すぎる感じがする。
元気そうにしてるけど、実はすごく寒いんじゃないのかな・・・大丈夫なのかな。

「ねね、ひよちゃん、だったよね?確か」
「あ・・・うん」
「私と渡瀬くん、どぉ?」
「え、どう、って・・・」

それは、"お似合い"かどうか?ってことかな・・・・。
思わず先輩の顔を確認すると、ちょっと目を細めてこちらを見下ろしたまま、ちょっとだけ頷いてくれる。
うん、間違っていないみたい。

でも・・・難しいな。どう返事をしたらいいのかな。
お似合い、というには何だか、二人の間の気持ちの距離が遠そうな・・・でも、違う、っても言えないし・・・。

う〜ん・・・・・。

「いいよ、ひよちゃん。そこまで考えなくていい。お似合いなワケねぇし」
「ちょっとぉ、それってヒドいーっ!」

迷っているうちに、またどうやら、時間がすごくたっちゃってたみたい・・・。

渡瀬くんが言ったキツイ言葉にさすがに傷ついたのか、亜矢ちゃんが眉間に皺をよせ渡瀬くんに噛み付く。
それをほぼ無視する形で、渡瀬くんは茅代に微笑んだ。

「ひよちゃん。また学校でね」
「・・・うん」
「着物、すごくカワイかった。ここに来てよかった。じゃーね」

普通の、会話だったと思うんだけど。
亜矢ちゃんは突然目をむいて、じろ、と私を眺めた。
その視線はそれまでの親しげなものとは正反対で、何かを探るような、ちょっと怖い視線。

「・・・うん、じゃあね」

ビックリしてそれでも返事をすると、亜矢ちゃんは私からついっと顔を背けて、先輩のほうにだけ笑顔を向けた。

「じゃあ、また部にも遊びに来てくださいね!」
「おう」

・・・いまの、なんだったんだろう。

「茅代」

無視、された気がする。私、何か悪いことしたかな・・・。

「茅代ってば」

悩みすぎて間が空いたのが失礼だったのかな・・・。

「ちーよー」
「・・・・・・」
「茅代〜〜〜?」
「ひゃっ!」

突然視界に入ってきた、先輩のドアップ。

「お参り、しよ」
「・・・え」

そして目の前には、色とりどりの紐とともにブラブラしている白いしめ縄。
古びた木目のお賽銭箱があちこちから投げられるお金を、カツンカツンと音を立てて吸い込んでいる。

もう・・・着いてたんだ。いつの間に?

「ほら、後ろ詰まってるし早くしないと」
「・・・あ、はいっ」

慌てて、でもしっかりとお祈りをする。
"先輩が大学に合格しますように" そして "ずっと、一緒にいられますように"。

「さて。お守り買おっかなー」

さっさと自分の分のお祈りを済ませていた先輩がひょいとまた私の手をとって、脇にある社務所へ歩き出す。
私は後ろにいた人に謝ってから、せっつかれるように手を引かれるがまま先輩と一緒に歩き出した。