なんでよ・・・ひよちゃん、なんで?ねぇ、なんでっ??
沙里ちゃんの甲高い声が幾度となく責め立ててくる。苦しい。
「沙里・・・やめなよ」
ため息交じりの千晶ちゃん。
「千晶はいつも冷静過ぎるんだよっ!!
なんでよ。だって、ひよちゃんが嘘つくわけわけないじゃんっ!!どう考えたってあいつが悪いのにっ」
「じゃあ。ひよちゃんが、あんな騒ぎ起こすこと望んでたと思うの?」
「・・・だって」
「だってじゃないよ。何でもかんでも突っ走ったらいいってものじゃないでしょう。解決方法はひとつじゃない」
「でも!私にはあれしか出来なかった!!」
ぽろぽろと、両目から頬を伝う涙。
(あぁ・・・泣かないで。沙里ちゃん)
そう思うのに、言葉がでない。かわりに涙が出た。一筋、ふた筋。
「ひよちゃんは、いつだって優しくって!正直で真っ直ぐで!いやなことなんか考えないの!
敷島みたいな姑息なこともしない!そんなひよちゃんだから私は好きなの!」
「沙里・・・」
「そんなひよちゃんのこと、馬鹿にしたり理解しようとしない奴らが私は許せないっ!」
ぎゅ。
「・・・ひ、よちゃん?」
沙里ちゃんのブレザーの袖口をつかんだ。
「さり、ちゃん。も、いいよぉ・・・」
その気持だけで。あなたの、その真っ直ぐな思いだけで。
「・・・ありがと・・・ぉ、あり。あとぅ・・・」
「ひよちゃん・・・やだぁ、泣かないでぇ。泣かれるのはもっとイヤだぁ!うわぁ〜〜〜〜んん!!!」
周囲のクラスメイトが怪訝な顔で見守る中、千晶ちゃんは涙ぐみつつも深いため息をついた。
「世話が焼け過ぎるのも程度があるわ・・・」
・・・
俺がその騒ぎのことを聞いたのは、既に3日位は経ってたんじゃないかと思う。
“一年の女子が派手にモメたらしい”
というクラスの女子達の噂話が隣で展開し始めた時は、眠気も相まって何も興味が湧かなかったが
「ラグビー部のマネしてる子?」
「相手は金山と付き合ってる子だよね、あの小っちゃい子」
これで覚醒した。
「え、なにそれ」
「あ、青木が起きた」
「いや起きるわ。どうゆうことなの?マジな話?」
「マジらしいよー。何か友達を庇ってケンカになったんだけど、最終的にはその友達がが悪かったから謝ってた、ってゆー話」
庇う…沙里ちゃんが噂になるほど大騒ぎして庇う相手は、間違いなく茅代しかいない。
でも茅代が悪いことしてそれを亜矢ちゃんに謝った、っていうのは見当がつかない。
それにそんな話…
「聞いてねぇぞ、それ」
最後に話したのは昨日だった。
たわいない話ばかりだった。
以前よりTVを見るようになった茅代が最近ハマってみてるドラマのこととか。
教室で誰それが面白かったとか。
(…いや。待て)
そうでもなかった。そうだ。
最初『ラグビーの練習を見に行くのはもうやめます』って言われたんだ。
"なんだか、ご迷惑な気がします"
いつもそうなんだけど。
茅代は一旦こう、と決めたら覆さない。
やんわりしてるように見せて、実はすごく意志が固くて揺らがない。崩せない。
でも、それも茅代のいい所だっていつもなら思えるのに、この時はなぜかちょっと引っかかる感じで。
「なんで、そんな頑固なの?」
「…え」
「俺はいつだって茅代に会いたいから言ってるのに。迷惑なんかじゃない」
「…」
無言が、長い。言い方マズかったかな。
ちょっと心配になったけれど、次の返答はやっぱり頑固なままだった。
「…でも。先輩が、迷惑じゃなくっても。他の方からは、違うかもしれません」
そう言われてしまったら、こっちもそれ以上は何も言えなくて。
あぁ、仕方ないかって諦めたんだけど。
でも今思えば、いつもより押し通す感じが強かった。
茅代っぽくない、というか。
なんかあった?なんか、あったんだよな、多分。
「……うー…」
(なんで。言ってくれないのかな〜)
それはいつも、いつも思ってる事。
茅代は、我慢し過ぎるというか。あまり自分の思いをはっきりとは口にしない。
『先輩は、言う前にもう分ってくれるから』なんてニコニコ笑ってるけれど。
俺には『何か』悩んでる事は分かっても、『何を』悩んでるかは分からない。
(言ってもらわなきゃ、そんなの分るわけないっつーの!)
どちらかと言えば周囲に鈍感呼ばわりされ、気を遣えと叱られるタイプの俺なのに。
「青木、なんか凹んでる?」
「なんかあったの?」
変なうなり声を上げたままフリーズした俺を、クラスの女子達が不思議そうに見つめている。
「んー…彼女がさー、素直に何でも言ってくれたらいいのにな、と」
「何、突然の悩み告白。ウケんだけどっ」
きゃはははっ。
俺の深刻な思いは、軽やかに笑い飛ばされる。
このクラス内での俺の扱いは大体、こんなもん。
自分でももう諦めてる、この若干のいじられキャラ。
こんな俺に全信頼を置いててくれるのは多分、この学校では茅代くらいだと思う。
「ひよちゃんって隠し事とかすんの?意外〜」
「つか悩む事がそもそもなさそうなんだけど」
「確かに〜。ふわふわ〜って世の中渡っていけそう」
そう言いながら、腕を体の横で羽のように動かしてみせる。
「いや。俺だって最初はそういう感じの子だと思ってたけどさ。んなことはねぇよ茅代は」
今までの彼女の苦労は、ここにいる奴らにはきっと想像もつかないだろうな。
もちろん俺だって想像ついてない。
だからこそ、力になれたらとこっちは思うわけで。
「ふ〜ん…じゃあそれってさぁ、青木が頼りないんじゃない?」
(え?)
「悩み話しても答えがもらえないだろな〜って思うから、話さないとかじゃない?」
「あ〜、そうかも」
「そーゆーとこあるかもね、青木って」
「いやあんたは青木の何知ってんのよ」
ぎゃはははっ。マジでウケる〜!
俺の深い悩みは、女子に笑い飛ばされ、奈落に落ちた…。