14.





気合注入、気合注入。

『元気になるといいですね』

そーですね。

「おーい、タツ、顔緩みすぎじゃね」
「・・・あ?なんだ金田か」
「お前さー、何でも顔に出すぎだろ。彼女との登校時間がそんなに幸せか?」
「うん」
「否定しろっっ!」

だってしょうかねぇじゃん。マジで幸せなんだもん。
この幸せが放課後に訪れないと思うと、それだけで凹む。

茅代と付き合っていることは、昼休みの教室でやらかした派手なケンカのこともあってすっかりクラス中が知ってる。
モトカノだった奈保に同情した女子達に最初の頃は冷たい反応をされたけど、人の噂も何とやらで。
今は別に普通の扱い。

と、いうより。
その後1学年下の下級生と付き合いだした奈保が、か〜〜なり幸せそうで、誰も文句を言う理由がなくなっちまったんだ。
俺とのことはなかったことに、とまではいかなくても表面的には既に忘れ去られているような感じ。

「まだ手も出せてねぇくせに」
「・・・うるせぇ」

くそ、にやにやしてんじゃねぇよ。気持ち悪りぃんだって。

結局、同じくらいの時期に沙里ちゃんと付き合いだした金田に先を越されたというのもあって、毎回これでからかわれる。
いい加減辟易だけど、それ以上に・・・

「あれー、まだなんだ?」
「まだみたいだよー」

奈保。なんでお前まで、そんなに嬉しそうにこの会話に参加してくるんだ?

「早くしないと取られちゃうよー」
「・・・茅代はそんな子じゃねぇの」
「周りが違うかもしれないじゃーん」

にひひ、って幸せオーラがんがん出しまくり。
相変わらずお綺麗なことで。でも不思議なことに今はそれに魅入られることがない。

「茅代は、周りには流されねぇよ」
「そうかなぁ〜」
「そうなの」

言葉は違えど、ほぼ毎回同じような会話をしてる。
いい加減に終わらせたくてそう言い切った俺の頭を奈保はよしよし、と撫でた。

「なーんか、ホント好き〜、って感じねぇ。良かった良かった」

そこにあるのは、色気ゼロのすっかり姉と弟的な関係のみ。
・・・元に戻りたいなんて全っ然思ってないけど、この関係性も、全っ然腑に落ちてない。
ただ、気まずいまま毎日同じクラスにいるより、誰とも付き合っていない寂しげな奈保を眺めているよりそうなって良かったとは思うけど。




『朝 言うのを忘れてたんですが お弁当持ってきてたんです もうお昼ご飯は用意しちゃいましたか?』

三時間目後の休み、あと3分ってところに飛び込んできた茅代からのメール。

『いや、してない。昼休みに弁当いただきます』

『わかりました(^−^)』

遠慮がちに入る絵文字に茅代らしさを感じて、ひっそりバレないように俺は笑んだ。

週一、うちのオカンが仕事が休みの日は弁当も休みで、小遣いを貰って自分で見繕うことになっている。
無論父親も同じ。
まぁ週に一度だし、こっちは手持ちの小遣いが減るわけじゃないから文句もない。

それを聞いた茅代が自分の分を作るついでに、ってたまに俺の分も作ってくれるようになった。
ハッキリ言って、オカンが作るもんより豪華。
しかも凝ってるし、ハートだのが飛び交ってないし、何より旨い。

出来れば毎日でもいいくらいなんだけど何故か茅代のほうが遠慮して月一くらいのペース。
俺も茅代の家族の人に(と言うか叔父さんに)遠慮して『毎週作ってきて』とは言えてない。

(そっかー、今日の昼飯楽しみだな)

バレないようにそっと教室を抜け出さないとな。
ジャマが入るのはゴメンだ。



「やっぱり寒い、ですね」
「だな〜・・・」
「・・・あ。でも、お茶は温かいですよ」

ほら、って。
湯気の出る水筒のコップを俺に差し出して、にっこり。
死ぬほど寒がりのくせにそんな風に言うあたりが、茅代だ。

「俺はまだいい。茅代が先飲んだら?」

そう言うと「ハイ」と素直に湯気の立つコップに口をつけて温かいお茶を飲んでいる。
それを見つめながら、俺からしたら小さめの(けど茅代にはデカい)シャケのおにぎりを頬張った。旨い。

「・・・どう、ですか?」

上目遣いで心配そうに聞いてくるのが、申し訳ないけど面白い。

「旨いよ」
「よかった・・・」
「つか毎回旨いって。そんな心配しなくて大丈夫だから」

心配されるほど口は肥えてないし。と心の中だけでゴチる。

「・・・でもっ。お口に合わなかったら、って思うと・・・」
「今までハズレなかったじゃん」
「・・・そうですけど、やっぱり、心配しちゃいます」

先輩はたくさん食べてくれるから、うれしい。
でも、そんなにたくさんのおかずを一気に作ったことはこれまでにないし。
それでなくても朝はバタついているから、味付けを間違っていたらどうしよう、とか。

そこまでをかなりの早口で(茅代にしては)一気にまくし立てて、ふぅ、と一息ついてお茶を一口。

「・・・いろいろ、気になります」
「ふ〜ん」

料理なんて出来ない俺にはそういうのはよく分からない。
そんな俺の態度に、ぷぅ、と音が出そうなほどの膨れっ面。

「ははっ、ごめんごめん。でも、マジで旨いから」

いろいろな表情をしてくれるようになったことが嬉しい。
感情がないだなんて思ったことはなかったけど、最初の頃の、あまりに淡々とした受け答えから思えばかなりの変化だ。

「なぁ、今日は茅代もおいでよ」
「・・・?」
「ラグビー。茅代もおいで」
「・・・え」

目を丸くして10秒くらいたってから。
茅代は小さな声で言った。

「でも、私、タックルされたら飛ばされちゃいますよ?」


――誰が茅代にラグビー教えるなんて言った?
――違うんですか?
――んなわけないじゃん。ヒマだったら覗いていってよ。
――でも、いいんですか?お邪魔じゃないですか?
――ジャマじゃないよ。


「今日は彼女連れですか、先輩」
「おー」

ニヤニヤしながら後輩が俺の目の前を駆け抜けていく。
どの部員も興味深げに、プラス遠慮なく茅代を観察。・・・しまった、逆にやる気を削いでないか?これじゃ。

「せんぱーい」

タオルを何枚か持った亜矢ちゃんが背後から近付いてくる。
俺の横に立つと、こそこそ、と俺にしか聞こえないような声で話してきた。

「・・・樋口さん、目立ちすぎですー」
「やっぱそう思う?」
「申し訳ないですけど、帰ってもらったほうが良くないですか?これじゃ逆効果ですよー」

寒そうに、白いマフラーに顔をうずめ。
ベンチにちょこんと座って山形とちょいちょいしゃべりながら、時々ちょっと微笑んだり頷いたり。
それがまたでっかいグラウンドには似つかわしくない儚さで、図体だけデカくて頭の中は・・・な男連中の庇護欲(及び妄想)をかきたてるような雰囲気を醸し出している。

「一時期みーんな、噂してましたからね。先輩たちのこと」
「なんで?」
「だって、かなり目立つ別れ方だったそうじゃないですか?前の彼女」

まぁ、そうだけど。
それを何故後輩の亜矢ちゃんまで知ってんだ?

「それに樋口さんて、ひそかに1年の間で人気あるんですよー」
「・・・あー」
「あー、じゃないですよ。先輩はけっこうライバル多いんですからね」

知ってる。
知ってることだけど、他人に言われると妙にカチンと来る。

「・・・あぁ」

むっとした感情を隠せずにそのままで言い返した瞬間。
右腕に重みが加わった。それと柔らかい感触。・・・え?

「先輩」

亜矢ちゃんが、俺の腕に抱きつくようにして両腕を絡めてきている。

「いやちょっと亜矢ちゃん?何してんの?」
「先輩、今度デートしましょ?」
「はっ???」
「ねっ♪」

(ねっ、って・・・・・・)

力強く絡められた細い腕をどうにか解きながら、かなり頭を巡らせたけれど、ちっとも現状を把握できずにいた。