―――・・・いつか、さ。そう、なれたらいいかな。と。
いつか。
そのいつかが、いつなのかは分からないけれど。
そんな風に言われて、そして先輩が困ったように頭を掻きながらたどたどしく言葉を綴るのを見て、
先輩と自分の気持ちが一緒なんだ、って思えて、嬉しかった。
キス、されても・・・いやじゃないです、とは。
さすがに言えなかったけど・・・。
と言うか、きっと一生そんなこと、言えない。
「うー・・・・。恥ずかし、かったよぅ・・・」
先輩の手が、手のひら以外に触れるとき。
すごくすごく、ドキドキする。
こんなの、皆が本当に普通にしてるの?
ドキドキが身体の中で走り回って、とてもじゃないけど・・・それだけで、無理。
これ、以上。
例えばキス以上のことを、いつか、先輩と・・・・?
想像しただけで、ぶわっと、身体中が熱くなった。
「む、り・・・・・だ」
がく。
勉強机の、読みかけで広げたままのハードカバーの本の上に顔をうつぶせる。
そんなことになったら、ドキドキしすぎて、本当に心臓が止まってしまうかもしれない・・・・・。
・・・
「おっす」
「おはようございます」
顔を見るのは何日ぶりかな。
電話で2日おきくらいに話していたから、あんまり久しぶりな感じはしないけれど。
「あ〜、眠みぃわ〜」
「・・・昨日も、遅かったんですよね」
「んー、まぁなぁ。追い込みってやつだし」
「・・・あの」
「なに?」
冬休み明けの、登校初日。
先輩は私と一緒に登下校をするのが当たり前になってる。
先輩のおうちは学校を挟んで私の家のちょうど向こう側で、だから先輩は、うちに迎えに来るのに普通の何倍も早起きしなきゃいけなくて。
センター試験も近いから、絶対に遅くまで勉強してるのに・・・。
「・・・これからは私が、お迎えにいったほうが、良くないですか?」
「なんで?」
「だって、先輩は・・・」
「女の子に迎えに来てもらうのって、なんかなー。いいよ、このままで」
「でも」
「いいって」
頭をくしゃくしゃっ、って。
ワンちゃんにするみたいに撫でられた。
「せめてこれくらいは、したいし」
――・・・彼氏だからね。
次の言葉は言わないけど、そういうことなんだって、思う。
先輩は自分が受験生で、もうすぐ卒業しちゃうってことを、すごく気にしていて。
だから、ちょっとしたことだけれど、時々そんな風に無理をしてくれる。
そんなの、別に、いいのに。
先輩と一緒にいれたら私はそれで。
「せんぱい・・・でも」
「ん?」
やっぱりそんなの、よくない。
ちょっとでも休めるときは休んで欲しい。
「おはようございまーーす!!」
「どぁっ?!」
そう言いかけたところに、後ろからすごい勢いで先輩に誰かが飛びついてきた。
「あ、亜矢ちゃん?びっくりしたーっ。急になに?」
「えー、先輩見かけたから嬉しくってー」
あ・・・、マネージャー、さんだ。
「・・・おはよ、ございます」
「あ。おはよー。ねぇねぇ先輩、今日部活顔出してくださいよぅ〜」
「は?何で?」
「最近みんなたるんでるんですよー。喝入れに来てくださいっ」
「敷島先輩に頼んだら?あの人のほうがよっぽど向いてると思うけどな」
挨拶をしたけど、マネージャーさんは返事もそこそこ、と言った様子で先輩と話し込み始めた。
「兄ですか?あんなの卒業して随分経っちゃってるじゃないですか。だめですよ、青木先輩でないと!」
「うーん・・・そう言われても俺、けっこう忙し・・・」
「彼女と登下校する時間はあるのに〜?そんなのズルいですよ〜、ね、お願いしますっ!」
マネージャーさんは、お願い、のポーズを作ってなんだかとっても必死そう。
部員の士気を高める、そういうのもマネージャーさんの仕事なのかな。大変なんだろうな。
「・・・先輩、今日は私、一人で帰りますし、行ってあげてください」
「へ?いや、いいって茅代」
「いやーん、ひよちゃんありがとう♪じゃあ先輩、今日待ってますね!ちゃ〜お〜っ」