おれのひよこ・9 【理由】





「そらお前、嫉妬でしょーよ」

今日の体育は男子はバスケットボール。
一クラス3チームに別れて、他の2チームが戦っている合間、壁に寄りかかって休憩しながら
きっぱり金山に言い切られた。

「なんでフラれた俺が嫉妬されなきゃなんねーの」
「つか、なんでお前フラれたわけ? さすがにそこまでは公崎もおおっぴらには言わないんだよなー」
「・・・言いたくねぇ」
「言えよ〜。その理由にもよるぞ〜?」

フラれた理由。
情けないので、こいつにだけは言えない。
兄貴にはそれはどう考えてもお前のほうが悪いと呆れられ、

『これからまた付き合うかどうかは別にして、とりあえず、ちゃんと謝ったほうがいいんじゃないの?』

と言われ。
でも実際本人目の前にすると、もう謝るとかそんな空気じゃないし。シカトされまくりだし。

んなこといったってよー・・・・シたかったんだから、仕方ねぇじゃん!!!

奈保の部屋で一緒に勉強してて。
目の前にずっと憧れてた女がいるのに、キスだけでやめられるわけねぇじゃん。
でもそんときはまだ付き合って1週間とかだったし。 いくらなんでも早いってゆーのは分かったし。
正直、奈保が「ヤダ」つって止めてくれて、俺はホッとしてたんだけど。

付き合いだしてすぐちょうどテスト期間に突入して。
クラスでもいいほうの成績をとってる奈保と比べて、ささやか過ぎる俺の成績を心配してくれてたのもよっく分かってる。
でもさすがに毎週毎週それじゃさ・・・向こうは「体しか見てないのっ?!」ってキレるし。

分かってるよ。俺がバカだって。けどさ、めちゃくちゃ!!好きなんだもんよ。
奈保が・・・もろ、タイプなんだよ。
部屋帰っても妄想でムラムラしちゃってどーしようもねぇくらいなんだから。

そんなんだったら部屋誘わないでくれって。
俺は絶対にガマンできねぇって。

そう言ったらものすっげキレられて。
「そんな彼氏はいらない」とまで言われて。それで頭きて「じゃあもういい」つって飛び出して・・・
そのまま、たまたま帰ってきてた兄貴にグチって酒付き合ってもらった。

こっちから連絡は一度もしなかった。
奈保からも何にもなくて、「あぁもうダメなんだな」ってだけ思った。
―――あれ以来しゃべってなかったんだよな、まともに。つってもまだ4日くらいだけど、すっげー長く感じる。

っていうか朝の会話もイマイチよくわかんねぇし。
いきなり嫉妬とか言われても、全然ピンと来ねぇよ。こんな彼氏はいらないんじゃなかったのかよ?

「おい、おーい。」
「・・・あ?」
「次、俺らだぞ」
「あぁ・・・」
「あんま、落ち込むなよ〜」

珍しく金山に励まされ気味悪く感じつつも、俺はどっからか飛んで来たボールを受け取ってコートの中心に立った。
審判役をしている先生にボールを渡し、クラスメイトと向かい合う。
ラグビーのおかげでやや横幅があって重量級で、そのわりにジャンプ力のある俺はこういうときたいがい最初のボール争いに借り出される。

「・・・・っちくしょ!!」

俺は全ての苛立ちをぶつけるように、無理矢理空を舞ってる茶色のボールを床に叩き落とした。
バヂーン!という音と共にボールが床に弾かれて左側に反れて飛んで行き、金山たちがそれを追う後ろから俺はだらだらやる気なく歩いた。

(あ〜・・・もう、だりぃ。めんどくせ〜〜〜)

俺の目線の先には、ボールじゃなくて奈保がいた。
体育館を半分に仕切っている忌々しい緑色のネットの向こう、壁に寄りかかって女友達とダベりながら笑ってる。
悔しいけど、やっぱり見惚れてしまう。

でも、もう彼氏じゃないし、彼女じゃないし。・・・いいんだ、俺には樋口さんがいるんだから。



「はじめましてー!」
「あ・・どうも」

静かな図書館で、好奇心いっぱいのギラギラした瞳が痛い・・・。
「ともだち、です・・・先輩に、会いたいっていうので」
そのすこぉしだけ恥ずかしそうな感じが可愛いから黙って見てたいのに、新垣って子は俺を質問攻めにする。

「先輩、何組ですかっ?」
「あ、2組だけど」
「部活は何かしてたんですか?」
「・・・ら、ラグビー」

・・・勢い、すげーんだけど・・・。ツバ飛んで来そう。芸能リポーターみてぇ。
俺があまりの勢いに引きはじめたのを察したのか、
もう1人の美人・・・確か磯山、とか言った子が「沙里、がっつきすぎ」と間に入ってくれる。
ん、磯山・・・って。

「樋口さんたちは何組だったっけ?」
「1組ですっ!」
「あぁ〜やっぱし! 磯山さんって、夏休み前に俺のクラスの奴にコクられなかった?」

新垣って子が目を丸くする。
「千晶、有名人っっ!!!」
磯山さんは怪訝な顔つきのまま、それでも丁寧な態度をくずさない。

「あ、はい・・・知ってるんですか?」
「うん、ヤマ・・・山岡が教室でめちゃめちゃうるさかったから、なんか耳に残ってて。」
「そうなんですか・・・なんか、いきなりのことでビックリしてお断りしちゃったんですけど・・・」
「あ、いいのいいの、あいつ年中フラれてるから気にしなくて大丈夫」

ヤマが夏休みの補修授業のときにフラれたって騒いでたのは、この子の事か〜。
確かに美人だよなぁ。
ヤマの話聞いたときはもっとツンとしてんのかと思ったけどそんなことないし、落ち着いた雰囲気だし。
樋口さんと同級生には、というより1年生って感じがそもそもしない。大人びてんな〜。

もう1人のこの勢いのすごい新垣さんも、よく見ると小柄で動きがクルクルしててハムスターみたいで、
見ようによってはかわいい感じだし、樋口茅代の周りは本人含めて豊作だな〜。って俺はおっさんか・・・。

「3人ともこれからヒマ? マックくらいならゴチできるけど、どう?」
「行きますぅー!」
「じゃあ私も。あ、ひよちゃんは?」
「・・・うん、行こうかな」

樋口さんがのんびりと返事をする。
今日はまだ時間あるし、って小さくひとりごとを言ってるけど、それはもう他の子の耳には届いていない。

「ねぇ、"ひよちゃん"って、樋口さんのこと?」
「はいそうですっ! ひぐちちよ、の頭とお尻を取って、ひよ、ちゃん♪」
「へぇ」
「あと、お菓子のひよこに似てるから、私が命名しましたっ♪」

あ、確かに似てるな。
目鼻の作りが小さめな感じとか。ぶ。

「・・・先輩、今笑いました?」
「あ、バレた? 似てるかもって思って。ごめん」
「・・・も、いいです」

あれっ、ちょっと頬が膨れてる?スネてる?
そんな顔もするんだな。・・・かわい〜じゃ〜ん。

「いいじゃん、俺ひよこ好きだよ?」
「・・・え・・・」
「そうだ。男が俺1人っていうのも恥ずかしいから、ダチ呼んでもいい?」
「はぁい、いいですよー! わーい、コンパコンパ♪」
「いやいや、ただのマックだし」
「沙里、はしゃぎすぎ」

苦笑する磯山さんの横で、樋口さんが胸を両手で押さえていつもよりちっちゃくなってるのがちょっと気になったけど
俺はたぶん教室に残ってダレてるだろうなと予想して、やっぱり予想通りだった金山をケータイで呼び出して、
駅前のマックで待ち合わせることにした。