おれのひよこ・10 【どきどき】





『いいじゃん、俺ひよこ好きだよ?』

・・・ドキドキ、しちゃった。
先輩が好きなのはきっと、お菓子のひよこのこと。
けど学校で言われると、それはまるで自分に言われてるみたいだった。

ひよちゃんってあだな、悪くないかも。

そう言ってもらえただけで、そんな風に思えるなんてすごいなぁ、青木先輩って。


4人で20分ほどしゃべりながら歩いて(主に沙里ちゃんがしゃべってたけど)、
駅前のマックにつくとすでに金山先輩、という人がニコニコして手を振っていた。

「おっそいよー」
「お前はチャリだからだろ〜が」
「はは、まーな。どーも! 金山っていいます。で、どの子がタツに助けられたの?」
「・・・あ、私、です。」
「お〜、可愛いじゃ〜ん。名前は?」
「・・・樋口、といいます」

ニコニコ、というよりニマニマ、微笑んでいる金山先輩。
・・・うぅ。なんかいっぱい見られてる。
なに?ちょっとだけ・・・怖い。
そう感じた瞬間、金山先輩は青木先輩にぺしーん!といい音を立てて頭を叩かれて「いってぇーな!」と口を尖らせた。

「こぉらっ、お前に話しかられたら樋口さんが腐るんだよ」
「はぁっ?? 俺はバイキンかっ? んでお前はナニサマなんだよっ??」
「オレ様。せっかく誘ってやったんだからもっと爽やかなスマイルを見せてみろっつの。ビビらせてどーするよ?」

ねー、と同意を求めるように私を見た青木先輩は、優しくにこっと笑った。
それでようやくホッと一息・・・。
ちぇっという顔をした金山先輩は「席取っておいたので、みなさまどーぞー」と不服げに唇を尖らせながらも、
今度は千晶ちゃんの美貌に目を奪われて、またうれしそうにニマッ、と笑った。

「君は?何て名前?」
「い、磯山千晶です」

いつも冷静な千晶ちゃんも、その切り替えの早さにやや驚いたみたい。
けど金山先輩はそんなこと気にも留めないで、イソヤマ?と青木先輩と同じところにクエスチョンマークをつけた。

「いそやま・・・あっ、1組の磯山って自分のこと?? あー、こりゃヤマが凹むはずだね〜」
「さっき、青木先輩にも言われました・・・そんなに有名な話になってるんですか?」
「うーん、めちゃめちゃ騒いでたしねぇ。あ、でも気にしなくていいよぉ?
 うちのクラスってなんか知んないけどみーんな仲良しこよしで、隠し事できないクラスなの。だから知ってるだけ」
「そうなんですか・・・」

ホッと安心したようになった千晶ちゃん。
千晶ちゃんは美人で大人っぽくて、すごく周りに気を使う人。
だから、今まで知らなかった先輩二人が自分のことを知ってるのがすごく気になってたみたい。

「あ、・・・この子は新垣沙里っていって、私と同中なんです」
「こんばんわー♪ あのー、金山先輩って、柔道部じゃなかったですか??」
「え、なんで知ってんの?」
「私が中学のとき好きだった人がここの柔道部で、一度試合で見かけたことがあるかな〜?って」
「へぇ、誰好きだったの??」
「えーとぉ・・・」

沙里ちゃんは金山先輩の耳元でごにょごにょ、と「・・・さん」とつぶやいている。
千晶ちゃんが横で苦笑している。

「・・・マジっ?うわ〜っあいつにはもったいねー!俺にしときなよ〜?」
「あはははっ、金山先輩、ノリ軽すぎでしょー?」
「いやいや自分には負けるっしょー?」
「そぉんなことないっしょー?」
「そぉんなことあるっしょー?」

ぎゃははは!!何これ面白れー!、とそのまま言葉遊びみたいに掛け合って笑いあう二人に
「君たちうるさいから、そのまま一緒にレジ行って何でもいいから買ってきてくれる?」と青木先輩が頼むと、
二人はそのまま「あいよー」「テキトーに注文してくるっしょー!」と言ってレジカウンターのほうへ去っていった。

歩いてる途中でもぎゃはは、と二人で笑い合ってる声が響いている。
・・・なんか、よく分からないけど、気が合ってる?

「なんだろあの異様な盛り上がり・・・ホントに初対面??」
「う〜ん、沙里は人見知りってしないので・・・でもあのハイテンションについていってる人は私も初めて見ました・・・」
「でもお互い本音が見えない感じがすんだけど」
「探り合いって感じですね」
「だね〜。ところで適当に注文しちゃってよかった?」
「はい、私はいいです。ひよちゃんは?」
「あ・・・うん、平気」

向かい側の席に座った青木先輩は千晶ちゃんと話したあと、ちっとトイレ行ってくるわ、と席を立った。
小さすぎるテーブルの向こう側、大きい身体が目の前からいなくなるとポッカリ穴が空いたみたい・・・。
何だか落ち着かなくて、天井から足元までの大きいガラス窓の外の、駅に出入りしていくせわしない人の流れを眺めていた。

「ひよちゃん、青木先輩、いい人だね」

隣の千晶ちゃんに声をかけられる。
あ、まだぼ〜っとしちゃってた・・・いけないいけない。

「・・・うん」
「ひよちゃんの表情、読める人ってなかなかいないもの」
「・・・・・・?」

・・・どういうこと?
知らず知らず、頭が左側に傾く。分からないことがあるときの、茅代のクセ。

「さっきね、金山先輩が怖いな、って思わなかった?」
「・・・あ・・・うん、思ったかも」
「そしたらすぐに頭叩いて間に入ってたでしょ、青木先輩。そうじゃなかった?」

・・・・あ。そーかも。

「まだ出会って少ししか経ってないんだよね? なのにそれしてくれるのって、私、すごいことだと思うの。
 きっとね、青木先輩は・・・ひよちゃんが好きなんだよ」
「・・・好き?」
「うん。・・・分かんない?」
「・・・うん・・・うぅん。・・・えっと・・・。こい、ばな?」
「ぷ。そうそう、恋バナ」

くすくすと千晶ちゃんが笑ってる。
・・・・そっか。そうなんだ。恋、なんだ。
えぇっと、えっと・・・・青木先輩が、私を、好きで、それは"恋"で・・・、え、え、え・・・・と。えとえと。

脳みそ、パンクしそう。
心臓がぎゅ、って掴まれたみたいに苦しい。・・・わたし、心臓の病気になったの?
ううん、それより、それより青木先輩のこと。

「・・・・・・・・・・・・・千晶ちゃん、どうしたら、・・・ぃぃ?」
「う〜ん。ひよちゃんは、青木先輩は好き?」
「・・・わ。わわわから、ない・・・」
「そっかぁ。だったらまだ時間はあるしゆっくり考えてみたら?好きかどうか。キライではないでしょ?」

うん、と頭を傾けて頷いたものの。

好きかどうか。
それって・・・どうやったら分かるの?

うぅ〜〜〜ん・・・・・・。

先輩の笑顔は、見ているだけでとてもホッとする。
好き、といえば好きだけど・・・でも、恋って言われても・・・。
好き嫌いで言えば、好き。好き、嫌いで言えば・・・・・あ。そういえば。

『俺のことは、好き?嫌い?』

あれって・・・あれって・・・そういう意味なの?
だったら私、何て答えた?
うわ、うわうわ・・・恥ずかしいこと言っちゃったかも・・・