おれのひよこ・8 【こいばな】





「ひ〜よ〜ちゃん♪」
「あ・・・おはよ、沙里ちゃん」
「みーちゃった♪ ねねっ、一緒に来てた人だぁれ??」
「あ・・・青木、先輩。昨日、頭ぶつけて・・・心配だから1週間くらいは送り迎えしたいって・・・」
「えっ、頭ぶつけたってどーゆーこと?いったい何が起こったのっ?オネーサンに説明してみなっ」

・・・沙里ちゃん、同い年なのにオネーサンって・・・。

新垣沙里ちゃん。この高校に入学して1番に仲良くなった女の子。
身長順に並んで私が1番目、沙里ちゃんが2番目で、

「私、自分よりちっちゃい子にあったの初めて! すっごいうれしい! 仲良くしよ〜♪」

そう声をかけられたときにはちょっと驚いたけど、悪気がないのはすぐに分かったのでその言葉通りずっと仲良くしている。
小さい体にパワーをたくさん詰め込んでいて、元気いっぱいでいつもニコニコしてる女の子。
沙里ちゃんが落ち込んで沈んでいるのなんて一度も見たことがない。

「沙里〜? あんまテンポ早すぎるとまたひよちゃんフリーズしちゃうじゃん」

横で苦笑いしながら私の頭を撫でてくれているのは、磯山千晶ちゃん。
沙里ちゃんと中学が一緒で仲良しで、いつも3人で一緒にいる。

「あ、ごめんごめんっ。だってひよちゃんが男の人と一緒にいるなんてさ〜」
「・・・えーと。とりあえず先生が来たから、また後でもいい?」
「おっけー♪ じゃあ次の休みのときに聞かせてねっ、ひよちゃんの恋バナ♪」

飛び跳ねるように前から2番目の自分の席に戻っていく沙里ちゃん。
・・・ところで。こいばな・・・ってなんですか?

「ひよちゃん、またなんか悩んでる?」
「・・・うん、こいばな、ってなぁに? 千晶ちゃん」
「恋の話ってことよ」
「あ、・・・なるほど」

・・・って、こい・・・鯉?恋?・・・・・恋、かな?

「まぁあんまり深くは考えなくていいから。あったことだけ教えてね」

千晶ちゃんはクスクス笑いながら、前から4番目の窓際の席に座った。私の隣の席。
軽く天然パーマっぽいゆるウェーブが風になびいて・・・あぁ、美人サンだなぁ。


樋口、茅代。
平仮名に直すと、ひぐち、ちよ。

頭の"ひ"と最後の"よ"だけとって、クラスの中では"ひよちゃん"って呼ばれてる。
命名は沙里ちゃん。

「なんか〜、ヒグチさんって"ひよこ"みたいじゃない? お菓子の」

白い和紙みたいな紙に包まれた、東京名物「ひよこ」。
つるんとした茶色いフォルムに、目とくちばしがちょんちょん、と描かれていて、中身は白あん。
頭から食べようかお尻から食べようかいつも迷ってしまう、あのお菓子。

「ちょうど昨日、お父さんがお土産で買ってきてくれたの食べたんだよねー。で、なんか似てる!って思ってて」
「あ〜、似てるかも〜。目鼻ちょんちょん、つるん、だよね。 手のひらサイズだし」
「かわい〜感じだよねぇ。これから"ひよこ"って呼ぼうかなぁ〜」

呼ばれるのはかまわないけど、私、手のひらサイズじゃないよ?
いくらなんでも、そんなにちっちゃくないもんっ。
少しだけ落ち込んでいたら、いつもは1番いっぱいしゃべってる沙里ちゃんが、ブツブツ何事かをつぶやいてて。

「ひぐち、ちよ・・・・・・あ、"ひ" ぐちち "よ"!」
「・・・沙里、あんた何言ってんの? 1人でブツブツしゃべっててキモいんですけど・・・」
「茅代ちゃんの名前だよっ、「ひぐちちよ」、頭とお尻だけもじって"ひ・よ"ちゃん! これどうよ?」
「あ、いいじゃん!」
「ひよちゃ〜ん♪ぽいぽい!」
「じゃあこれから茅代ちゃんは"ひよちゃん"だね〜!」
「決定っ!」

それ以来、あっという間に"ひよちゃん"って呼ばれるようになっちゃった。

女の子の間ではすっかり馴染んでしまったあだ名。
最近は男の子からもそう呼ばれるようになって、学校では時々、本名を忘れそうになっちゃう。
だから先輩に聞かれたときもすぐ『樋口茅代です』って出てこなかったんだよね・・・・自分の名前なのに。
樋口さん、って呼ばれるのも本当は・・・ほんの少し緊張しちゃうんだ。



「へぇ〜。それで昨日お休みだったんだぁ。何ともなくてよかったねっ」
「うん」
「お姫様ダッコで保健室まで・・・いやぁ〜んすご〜い!」
「でもまぁ、その場にいたらそうせざるを得ないよね、女の子なら先生呼びに行くだろうけど」
「・・・うん」

休み時間に昨日あったことだけを忠実に説明すると、沙里ちゃんは感心しまくりで、千晶ちゃんは納得顔。

「でも、保健室にずっといてくれて、なおかつ病院まで付き添ってくれたなんてさ〜・・・」
「余程のお人よしか、ひよちゃんのこと・・・・、だろうね」
「・・・?」
「ひよちゃんって可愛いし守ってあげたいキャラだもんね。いつかはこんな日が、と思ってたけど」
「意外と遅かったよねぇ。入学して半年かかったかぁ〜」

・・・話が、見えないよ。

「ひよちゃん、青木先輩ってどんな人?」
「・・・えぇ・・・と。優しい、よ。」
「ほぉほぉ。で?」
「・・・で、笑った顔が、優しくてホッとする」
「イイ感じ?」
「・・・いい、感じ? うん・・・いい、人」
「今日、一緒に帰るの?」
「うん・・・図書室で、待ち合わせてて」
「紹介してぇー!!」
「・・・うん、いいよ?」

・・・紹介って、どーゆーことかな?

「ひよちゃんがお世話になってる先輩を、一目見たいってこと、だよ」

そう言ってにこにこ微笑んでいる千晶ちゃんと、にまにま企み顔の沙里ちゃん。
・・・なんか、それだけって感じがしないんだけど・・・気のせい?