前の晩兄貴が帰ってきてて、酒盛りして失恋のグチ聞いてもらってたら、思いっきり二日酔い+寝坊した。
兄貴はとっとと、朝起きて大学近くの1人暮らしの部屋に戻っていったらしい。
あの野郎・・・・隣の部屋にいたんだから起こしてくれたっていいだろ!!
「やっべぇぇぇ! 遅刻する〜〜!! ・・・くそ兄貴!見た目オタクのクセに、憶えとけ!」
などとまったく関係のない悪態をつきながら辰則はブレザーを羽織って慌てて家を飛び出した。
家から学校までは、走って10分。運動部だった俺にとっては楽勝の距離。
ダッシュでいつもの角を曲がり、校門までたどり着いてセーフか?!って思ったところで左腕に誰かとぶつかった感触がした。
玄関にしか目がいってなくってつい見落としてたんだ。
ぼふっ、って軽い感触があって、ん?って見たらその子は校門のカドに思いっきりガツン!って頭をぶつけてその場にバサッと倒れた。
「げっ!!・・・だっ大丈夫か?!ごめんっ!!」
って言ったけど時すでに遅し。
その子は気を失ってて、何度肩をたたいて呼びかけてもビクともしない。
やっべぇぇ・・・・これは遅刻どころの騒ぎじゃないかもっっ。
テンパった俺はとにかく保健室まで抱えていこうと思って、抱き上げた。
(確かこういうときは、あんまり体揺らしちゃいけないんだよな・・・)
うつ伏せになって倒れている身体をそぉっと仰向けにして体勢を変えてから、
持ち上げようと今度は首の裏に腕を入れて力を入れ「よいしょ」のよ、って言いかけたところでまたビビった。
「うわっ、かっ軽っ・・・・・!」
ふわっ・・・とあっさり持ち上がってしまった。
むしろ一緒に持ち上げてるカバンのほうが重く感じるほどの重量に、思わず声が出た。
元カノの奈保だってそんな太ってるほうじゃなかったけど、持ってないみたいに軽い。
なんだこりゃ・・・って、驚いてる場合じゃねぇっ。
俺はその羽根のように軽い女の子と、カバン二つを保健室へとそっと運んだ。
慌てて駆け込んだ保健室で先生は軽く「う〜ん・・・貧血、みたい?」って判断を下した。
「え・・・頭ぶつけたからじゃないの?」
「うん。スースー寝息立ててるし、たぶん違うと思うわぁ。 でも一応病院には行ってもらったほうがいいわね」
「あっ、俺ついていきます!」
「あら? 授業サボりたいのぉ? それとも下心?」
「違いますよ! あんなカドに思いっきりぶつけるの見たら責任感じちゃいますよ・・・」
「そんなにヒドかったの?んじゃあ早めに行ったほうがいいわね。
担任の先生と親御さんに確認とってから、病院に予約してくるから待ってて」
「はい」
ガラガラガラ・・・パタン。
ぷりぷりとケツを振りながら、保健の先生は職員室へと消えていった。
なんともないって言われてとりあえずホッ・・・
しかし先生が行ってしまい、俺は話す相手もなくベッドの中の女の子を覗き込んだ。
(色、白いな〜・・・・)
貧血で倒れただけあって顔色は心配なほど青白くて、透き通ってるみたいだった。
つか、よく見っと・・・わりとかわいいな。この子。
閉じられた瞼に縁取られた睫毛。
ちょこんと上向きの鼻。
小さいけど、ぷるっと美味しそうな唇。
髪の色が栗色に近い茶色なのも輪をかけて白さを強調させている。
(耳、ちっこいなぁ・・・)
なんか、全てのパーツがちっちゃいんだなぁ。顔の面積も俺の手の平くらいじゃないの?これ。
辰則は顔の前に手をかざして大きさを確かめる。
思ったとおり、身長178cmで横幅も大きい辰則の手の平の中に、彼女の顔はすっぽりと収まりそうだ。
「んっ・・・」
そこで彼女は顔の前に異変を感じたのか、布団から手が出てきて目の前を払う仕草をする。
慌てて辰則は手を引っ込めた。
うっすらと、瞼が開いていく。
(え・・・・・)
瞬間、辰則は釘付けになった。
人が起きるところを目の当たりにしたのはきっと初めてじゃないと思う。
けれど、ゆっくりと目が開いてほわん、とした表情のまま天井を見つめているその横顔はまるで・・・人じゃないみたいだった。
今にもふうっと消えてしまいそうな・・・
・・・っていやいや、俺なに考えてんだ。
人間だってば。俺がここまで運んだんだ。異常に軽かったけど、確かに人だった。
辰則はあわてて夢みたいな自分の考えを否定する。
彼女はほやん、としてたのが、ここはどこだろう?という不思議そうな表情に変わっていく。
俺はいつの間にか「保健室」と声をかけていた。
とたんに納得した表情になり、それから声の主が気になったんだろう、
また不思議そうな表情になってゆっくり顔がこちら側に傾いた。