おれのひよこ・1 【低血圧】





「茅代〜! おきなさぁい!」
「・・・・・・ん・・・・・」

茅代はかなりの低血圧。
他の人になったことがないからわからないけれどたぶん、人の3倍は気合を入れないと身体を起こすことができない。

けれど今日はそれに運悪く生理通が重なって体調は最悪だった。

「も・・・・嫌・・・・」

引き剥がしたくてもはがせない下腹部の鈍痛、意識は半分ほど遠くかすんでいる。
それでも茅代はがんばって身体を起こした。・・・・いつもの、何十倍も気合を入れて。

「あぁ、起きてきた起きてきた。もう、寝ちゃったのかと思ったじゃないの」
「・・・ごめんなさい。」
「体調悪いなら仕方ないけどねぇ。学校、行けるの?」
「頑張って、行ってみる」
「そう。無理しないでね」
「うん」

無理なら起きるときにもうだいぶしたし、学校にいてもどこにいても、ツライのはおんなじ。
ぼ〜っとした頭でそれを思い、茅代はお得意のかぶりを振った。
ご飯とお味噌汁を半分だけ食べてしばらく休んでから、ゆっくりゆっくりローファーを履いて、玄関を抜け出した。



ぽて、ぽて、ぽて、ぽて・・・・・・・・。ふぅ・・・。ぽて、ぽて、ぽて、・・・・はふぅ・・・・。

(・・・・・このペースで歩いてたら、1限目はじまっちゃうかも・・・・・)

でもどうしても足幅は少しづつしか動かなくて、ふらふらしながらもようやく校門をくぐろうとしたときに、
誰かに後ろからドン!とぶつかられた。

うちの学校の校門は創立当時のまんまで変わっていなくて、だからだと思うんだけど、普通の学校より幅が少し狭い。
3人並んで通るのがやっとくらいの幅しかない。
そんなところで後ろからドン!とぶつかられてどうなったか・・・
よろよろ、とした瞬間おでこに衝撃が走り、目の前にチカチカとお星様が2,3個散った。 ―――そのままそこで記憶は真っ白になった。




次に気がついたときには、グラフみたいな四角が並ぶ白い天井がばばーん、と目の前に見えた。

・・・・ここ、どこ・・・・?

「保健室」

横から男の人の声がして、納得した。

そっか・・・保健室か・・・ ん、はにゃ?誰が返事してくれたの?

声のしたほうに首を傾けると、そこにはクラスメイトよりも大人っぽい、短めの茶髪の男の人。
心配そうにこっちを見ている。

「気がついた?」
「・・・・はい」

・・・・どなた?

「何があったか憶えてる?」
「え〜と・・・、玄関で・・・転んだ?」
「ん〜〜〜、ビミョーに正解。 俺が急いでて気がつかなくて後ろからぶつかっちゃったんだ。それで門に頭ぶつけたまま気絶」

・・・・そういや、オデコがヒリヒリ痛いかも。

「俺、青木辰則。3年3組」
「あ・・・・はい。私は、樋口茅代、1年・・・です」
「ヒグチ、さん。先生が病院に行ったほうがいいって言って、今近くの総合病院に予約に行ってる。俺と一緒に行こうか?」
「あ・・・・はい」
「って、付き添いは俺じゃなくてもいいんだけど、なんかあったらと思うと、心配で。頭だし」

そう言って青木先輩、は困ったように微笑んでくれた。
なんか・・・やさしい、笑顔だなぁ。
つられて茅代も、ニコ、ってなった。

その瞬間、青木さんの目が点になってしまった。
目を見開いたまま、ぽかーんとした顔で、じーっと茅代を見つめたまんま、フリーズ。
茅代もなんとなく目をそらせないまま、ニコ、の形を崩せないまま・・・。

・・・ぅ、顔の筋肉が・・・ぴくぴくしてきちゃうっ・・・

少しの間そのままだったけれど、先輩が「あ・・・ごめん」って言って目をそらしてくれたので
茅代はやっと、ニコ、の形をくずしていつもの顔になれた。
ほっぺをぐるぐるとマッサージしてほぐしているところに保健の先生が帰ってきて同じ説明を受け、
先輩と二人で病院へ行くことになった。

けど、そのあと青木先輩は茅代とあまり目を合わせてくれなくなった。
かなり体調を気遣ってもらっているのは分かったが、目が合うとふっと困ったように脇に視線をそらされる。

・・・・なんか、ついてるかな。 歯に海苔とか・・・・

そのうち保健室の先生が戻ってきて、二人は病院へと向かうことになった。
茅代はその前にトイレに行かせてもらって、前歯のチェックをしたけれどそこには何にもついてはいなかった。

なんだろ・・・。
茅代は鏡の前の自分を見つめた。鏡の中の自分は、首を左側に傾け、いつもと変わらない様子。

そしてもうひとつ謎なことに、茅代の中からはもう重苦しい鈍痛は消え去っていた。
けれど、病院に行って検査をしてもらうことを目的に設定していた茅代はそこまで頭が回らず、
登校してきたときとはまったく違う、軽い足取りで先輩の待つ玄関へと向かっていた。





 
Copyright(c)erika.All right reseaved.