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大和 5

レンタルショップから自宅までの車中。
それと自宅から大学までの短い距離を、きぃきぃ音のする古臭いチャリを漕ぎながらいろいろ考えていた。

16歳の鞠ちゃんは、すっげー、必死だったんだろうなぁ。
あの子、今でも何かどっか、必死だもんなぁ。
それが妙に色っぽいっていうか。
悪く言うとソソられる感じ、よく言うと・・・抱きしめてしまいたくなる感じなんだよな。

あんまり気にしてはいないようだったけど・・・・俺、言い過ぎてねぇか、あれ。
ただ単に涙に動揺してしまっただけなんだけど。

大学に着き駐輪場にチャリをとめると、研究室に向かって俺は歩き出した。

が、少し気が変わった。
・・・なんか、すぐ研究って気分じゃねぇや今日は。
そして研究室のある校舎のほうではなく、反対方向である人気のない中庭のほうへ歩き出す。 

女の子が泣くのを見るのは、もちろん初めてではなかった。
しかも一番印象的な涙の記憶はあまりいいものではない。

高校へ入学したとき、大学へ入学したとき、と調子こいていろんな子と付き合う時期が二回あった。
けれど高校のときはせいぜいキスどまり、それが大学のときは体の関係まで行くことも珍しくはなかった。
それが一人にバレて公衆の面前でオンオン泣かれ、そこから二人、三人・・・といもづる式にどんどんバレていって・・・いつの間にか学内でちょっとした有名人になってしまった。

『向こうから誘ってきたのもあったじゃねーか、まさか本気で付き合ってってこととは思わなかったぞ』

と何気なくヒカルに文句を言ったら、

『何も考えずに欲望に走ってしまったわけだから、大和だって悪いんじゃない?少しは自重しなよ』

珍しく真剣に怒られてしまった。
自分には非がないと思い込んでいた俺は最初面食らったが、それ以来気をつけるようにしている。

それからも、いやその前からも告白をされたり言い寄られてたとしても相手を気に入らなかったり、彼女がいてその子にひと筋なときは断っていた。
もちろん、フリーのときや彼女に飽きてきたときは誘いに乗ることだってあったのだが・・・。

学食でメシを食ってると、ツツツ、と横に寄ってきて誘ってくる同級生の女子。
まさか本気で俺の彼女になりたいんだとは思わなかった。
が、後にその子がもて遊ばれたと言って泣き、学内に言いふらして歩いた。





中途半端に手入れされている中庭と、少し古ぼけたベンチ。
そこに腰掛けて両手を組み、頭を抱えるようにして髪の毛をくしゃくしゃ、と遊ばせた。

研究員生になる前、まだ金があった頃は絶対茶髪だった、今は黒髪に無造作ヘアーの髪。
でも長くするのはイヤなので、襟足や耳元は短めに刈り上げトップ部分は長めに残し自然に流してある。
右耳の上部分、ちょうど曲線を描いている薄い部分には目立たない輪っかのピアスがついている。

常に4,5個はついていたピアスを、就職活動やその他もろもろあって外したのだが、これだけは金具がさび付いていてどうしても取れない。
今度工学部のヤツにでも切ってもらおうと思いながら、つけたまま。
そのシルバーのピアスが中庭の街灯に反射してキラリ、と光った。

それからは本気で好きになれる子もその後何人か現れたし、完全に浮気として誘ってくる女、というものの区別もついた。
でも大学入学のその一件以来、女の涙はあまり信用したことがない。
なんかの手段として泣いてる感じで、心から泣いてるようにはなんだか思えなかったのだ。

けど、仲山鞠の涙はそういうのとは、まったく違った。
まぁ、当然だ。
俺が泣かしたわけではないんだし、あんなヘンな親父にとっつかまっちまってちょっとかわいそうすぎた。
けどそれだけじゃなくってあれは・・・なんか、何か言ってやらなきゃ壊れちまう、そういう気持ちにさせる涙だった。
だからつい、強い口調で思ったことをぶちまけてしまった。

(マズかったかな〜・・・ちょっと、余計なお世話だったんじゃねーの?)

は〜っ、と小さめのため息をついて研究室へ行き、何とはなしにヒカルに今日のことを打ち明けた。
もちろん店長から彼女を託された、ことも含めて全部。
彼女の涙に動揺してしまったことも話し

「言い過ぎてないか、俺?」

と聞いてみる。
するとヒカルは「う〜ん・・・多分、大丈夫だと思うけど」と首をかしげながら答えた。

「多分、だと思う、って何だよ?自信はねーのかよ?」
「だって女の子の気持ちは俺、分からないし」
「まぁ・・・そうだな」

パソコンのキーボードから手を離し、アゴをしゃくってみせる。
もう一度考えを巡らせているようだ。

「でももし自分だったら、その状況でそう言われてもイヤな気持ちにはならないかな、とは思う」
「そ、そうか?」
「うん」
「ならいいんだ。俺、失敗してないよな?」
「うん、そう思うよ」
「・・・ま、気にしてない感じだったし、大丈夫だ。うん、うん・・・」

なぜか昔から、ヒカルに言われるとそうかも、という気がしてきてしまうから不思議だ。
沈んでいた気がぱ〜っと晴れていく。
俺もたいがい単純な男だとは思うけど、これは地だから仕方ねぇ。

「いや〜、でも、まさか店長から"鞠ちゃんよろしく"的な空気になるとは思わなかったよ〜!やっぱ店長、見る目あるよね〜!」
「見る目あるかどうかは、わかんないけど」
「うるせぇ!いちいちつっこむな。せっかくこれからまたテンションあげて頑張ろうとしてるのに!」
「その頑張りは研究に向けたら。教授がレポートまだかってブツブツ言ってたよ」
「へっ!今の俺には鞠ちゃんのことしか目に入ってこない!」

冗談だけど、半分くらいは本気。
生真面目なヒカルはもう相手にしてられない、とでも言うように呆れて首を振った。

「・・・知らないよ、この一年棒に振っても」
「今!今だけ!浸らせてくれ、許しを得たこの感動にさぁ・・・」
「はいはい、俺はもう助けないからね」

その後、ヒカルに店長から言われた話をするたびに元気になってきた。
元気になりすぎて今度はヘンなテンションになってしまい、かなりヒカルに迷惑そうにされたが気にせず俺は語り続けた。

そしていよいよヒカルに部屋から追い出されそうな空気になったそのとき、メールの着信音が鳴った。

「おっ、メール、メール♪いやったぁ!仲山さんから!
 友よ、俺はトイレに行って来る!そしてゆっくり、このメールへの返信を考えるよ!」
「・・・」

ヒカルは何かを考え込んでいるように、一点を見つめて真剣な表情になっている。
顔の前で手をブンブンふって、

「ぉぃ、ぉ〜ぃ、聞いてるか?嫉妬で耳が膿んだか?」

と聞いてみた。
ヒカルはハッ、と気付き、それから難しい顔をして邪魔くさそうに、
「・・・聞いてるよ、行ってこいよ、大事にしてあげなよ」
と言って水槽のほうに目をそむけた。

「わーってるって!んじゃ、いってきます!」

俺はそういい残し研究室を出て階段を駆け下り、2階下の新設されたばかりの洋式トイレにかけこんだ。
この時間ならこのトイレに誰か来ることはほぼないしじっくりとメールが打てる。
ワクワクしながら彼女からのメールを開いた。


こんばんわ、今日は、いろいろごめんなさい

私があんなことで泣いてしまったせいで、伊藤くんに迷惑をかけてしまいました。

本当に、ごめんね。

でも、うれしかった。

あんなふうに、叱ってくれたこと、うれしかったです。

叱られたのに、うれしいってヘンだけど、思われてる、と思いました。

ありがとう、では、またね ☆鞠☆



(よかった、言い過ぎではなかったみたいだ。
 それに何でこんなに可愛いのコイツ?くぅぅぅ・・・もう、俺のツボにヒットしまくりじゃん!)

すぐメールを返信した。


いやいや俺のほうこそ、急に怒鳴ったりして本当にごめん

それにしても、ゴミ親父キョーレツ!あんなん、そのへんの女の子だったら確実に大泣きだったはず。

それをあそこまで耐えた仲山さんはすげーよ!

俺は、正直、惚れなおしました。

何度もこんなこと言ってると、どんどん真実味がなくなってくるかもしれないけど、俺は本気だから。

最初はちょっと、つまずいちゃったけど、よかったらまた、デートしてくれ・・・


待て。ちょっとプッシュし過ぎか?もう少し、まだもう少し、控えめにいったほうが・・・
落ち着け、俺。
ピピピピピ、と慣れた手つきで前の文を消して書き直す。


・・・何度もこんなこと言ってると、どんどん真実味がなくなってくるかもしれないけど、俺は本気だから。

では、もう寝ちゃったよね。夜遅くにごめんね。明日も仕事頑張ってください


これで、よし!、とつぶやき送信ボタンを押す。
しばらくして画面に"送信されました"の文字が浮かび、ふ〜、と息をつく。

(メールくらいで思ってる以上に焦ってんな・・・落ち着け。オレ!)

 

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