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鞠 5

伊藤くんは、鞠の顔を見て黙ったまま、ものすごい顔をしている。

「何言っちゃってんの! プライド売っちゃダメだよ!」
「・・・え」

そして突然、きっぱりとそう言い切った。
その表情は見たことがないほど真剣で怒りが篭っているのが分かる。
何故そんなに怒っているのか分からず、ぽかんと伊藤くんを見つめていると、

「今、あんましちゃんとよく聞こえなかったけど、すっごいバカにされてたろ??
 あいつは、月一でここにゴミを置いてってエラそうにしているのだけが生き甲斐のキレた親父だろ?
 そんな人生まともに歩いてないやつに、バカにされて悔しくないの??
 我慢しちゃダメだろ! ちゃんと言いたいこと言い返してぶっ飛ばさなきゃダメだろ!」

ものすごい勢いで感情のまま、思ったまま、まくし立てられて。

(我慢・・・しちゃダメ? でもこれは仕事だし、あのおじさんは一応お客さんだし・・・)

ぐるぐると悩みが回りだしてしまった頭の中を一生懸命整理していると、外仕事がちょうど終わった様子の店長が店内に戻ってきた。
そして涙目の鞠を見るなり、ぎゅん!と音が聞こえそうなほど逆上した。

「伊藤・・・! お前、鞠ちゃん泣かしたのかぁぁ???」
「へっっ??? ち、ちがっ、違うよ!! 今、今出てったゴミ親父がさ!!」
「うるせ〜! 言い訳無用だ! 休憩室に来い!!」

店長は、その昔暴走族のリーダーだったから・・・一度怒ってしまうと本当に怖くて手がつけられない。
怒鳴り声も決して大きい声じゃないのにドスが聞いていて、慌てて周囲にお客さんがいないか確かめたけどちょうどレジの辺りには店員以外は誰もいなかった。

「店長違いますっ、私が勝手に泣いてただけで・・・伊藤くんは悪くないんです!!」

慌てて間に入って言い訳をしたんだけど聞き入れてはもらえない。
社員の羽場さんが「まぁまぁまぁ」と取り成そうとしても店長は一向に構うこともなく・・・伊藤くんはズルズルと休憩室のほうに引っ張っていかれてしまった。

(どうしよう・・・)

そのあと羽場さんに、しどろもどろになりながらもそれまでの経緯を説明した。
落ち着いてゆっくり話して、と何度も宥められながら話していくうちに、少しづつ気分が落ち着いてくる。

「・・・だから、伊藤くんは全然悪くないんです」

そう締めくくると、羽場さんはホッとしたように笑った。
普段騒いだりしない鞠の慌てように、もっとヒドいことが起きていたのかと思っていたらしい。

「そうかぁ、ごめんねぇ。 俺らがもっとちゃんと店内見とけばよかったよ」
「いいえ、それはもういいんです」

社員さんの中でも、羽場さんは話しやすくて優しい、本当にお兄さんのような人。
こんなことがあったから、余計に今日は羽場さんと一緒な日でよかったと思った。

「まぁでもさ、そういうことだったら大丈夫じゃない? 店長だって相手の話聞かずに殴ったりはしないでしょ」
「な、殴るって!」
「あははは、大丈夫だって。店長は伊藤のこと気に入ってるんだよ。仲山さん泣かすような奴じゃないってことくらい分かってるって」

あぁ見えて結構、伊藤のこと好きなんだよ。と羽場さんは言ってくれた。

「そうなんですか・・・」
「それより、今日はすごい一日だね〜。 1年365日営業してると、本当いろんな日があるわ」
「・・・確かに」

その後やっと戻ってきた伊藤くんは「大丈夫、店長分かってくれたし」というだけで詳しい話を教えてくれようとはしなかった。
仕事が終わってもそそくさと帰ってしまった・・・・何だか余計怪しい。

(普段、すっごいおしゃべりなのに・・・何も話さないなんて、ヘン)

そんな態度を取られると、余計になにがあったか気になってしまう。

その日の夜、何か一言どうしても伝えたくなって伊藤くんの携帯にメールをした。自分から。
今までは向こうからのメールを待つだけだったから、何だかとても緊張してしまう。

こんばんわ、今日は、いろいろごめんなさい

私があんなことで泣いてしまったせいで、伊藤くんに迷惑をかけてしまいました。

本当に、ごめんね。

でも、・・・



・・・ここで、メールを打つ手が止まった。
どう言っていいか、どう言ったら伝わるのか。
真剣に考え言葉をつむいだ。


 でも、うれしかった。

 あんなふうに、叱ってくれたこと、うれしかったです。

 叱られたのに、うれしいってヘンだけど、思われてる、と思いました。

 ありがとう、では、またね ☆鞠☆



送信して、ピンクの丸っこい携帯をパタン、と閉じた。
携帯を充電器に差し込んで、部屋の電気を消す。瞳を閉じて眠りについた。
ちょっと今のメール、ドキドキしちゃったなぁ、と思いながら。

 

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