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輝 3

「でさ、店長は言ったわけ!『マリはお前にまかせた!』ってね」
「大和・・・その話もう3回目。それに段々大げさになってる」
「うるせーなー! 俺は、店長と男と男の約束を交わしたんだよ〜、もうお前の入る余地はないっ!」
「だから最初から入るなんていってないって・・・」

バイトを終え研究室に来た大和は、自分の机には行かずまっすぐ俺のところに来た。
そしてうだうだと世間話を始めた。

「大和、悪いけど俺今はこれに集中したいんだけど」

PCを指差しそう告げると、それからようやく今日一日あった出来事を俺に話してきた。
多分本当はそれを一番誰かに話したくてたまらなかったんだろう。

仲山さんがあのバイトを始めた理由も、「お前、言うなよ」と言いながら全て話してきた。

(って、早速俺に言ってるじゃんか。 まぁ誰にも言わないけどさ・・・)

そう思いながらも、初めてちゃんと聞く仲山さんの事情にちょっと興味をそそられてしまった。
恩人に頼まれたから・・・
義理堅い店長があそこまで彼女に目をかけ可愛がっている理由がようやく分かった、と思った。

とにかく、住所録作るときあの人酒飲んじゃってて鞠ちゃん鞠ちゃんってうるさかったからなぁ。
俺は数年前店長に

「店閉めたあと、皆には内緒の仕事があるんだ、手伝ってくれんか?」

と言われて手伝った住所録作りの仕事のときを思い出していた。


最初履歴書からパソコンにデータを打ち込み、それからあ〜だこ〜だとバイトをしている一人ひとりについて店長は聞いてきた。
履歴書の住所は実家になってるけど、あいつは一人暮らしじゃないのか?とか、
そこに書いてある携帯番号にかけてもつながらん、あいつにはわからんよううまいこと新しい番号入手してくれだとか、

(一人二人ならまだともかく、全員だよ? そんなことしていいのか?)

と少し尻ごむほど全てのバイトの人について立ち入ったことを聞いてきたり、頼まれたりしたので

「それってちょっと、俺に頼むのは職権乱用・・・」

と思わず言い掛けただけで、店長はムキになって言い返してきた。

「いーのっ! 俺はね、ここのバイトの子はみ〜〜んな、俺のガキだと思ってんだから!」
「はっ・・・? でもそれ、勝手な思い込みじゃ?」
「ぁぁ勝手だよ、いいじゃん、勝手なんだから俺が何してもいいでしょ? ね、いーでしょっ?」

本日5本目のビールを開けながら店長はご機嫌でこっちにもたれかかってくる。
それをかわしながら、

「それ、つじつま全然合ってませんよ・・・」
「うるせー、俺は今酔っ払ってる。 私用だ。 だからこれは職権乱用では、決してない」
「・・・はい、もういいです」

呆れて返事をする気にならなくなった俺に、店長はようやくマジモードで話し始めた。

「・・・わーってるよ、俺だってさ。 これが個人情報?プライバシー?ってことくらいさ。
 けどお前、あんな簡単にポンポンサボられてみ? 俺だって意地にもならぁな。」
「それは、すごく分かります」
「だろ? さっきも言ったように。俺は、ここのバイトに来てる子はみんな俺の子供だと思って面倒見ようと思ってるの。
 その子供がさ、連絡もせずに約束を破るってゆー、道に外れたことしてるってなったら親は怒らないわけにはいかんだろ?
 だーかーら、俺は、ちゃん!と叱ってやりたいわけ。 出来うる限り追いかけて人の道ってものを説きたいわけ!」

調子に乗ってきた店長(大体、酔い始めるとこうやって弁舌豊かに語りだすんだ)を、俺は少したしなめた。

「でもそれは気持ちの問題でしょう? 実際同じように相手が思っていなかったらその相手にはしんどいだけじゃないんですか?」
「う・・・」

酔っ払っててもさすがに職場だからだろうか、こちらの話を聞く理性は残っていたようだ。
俺の言ったことも間違いじゃないと思うのか即意気消沈してしまった。
がく、と落ちてしまった肩とテンション。
なんだか、可哀想な気分になりもう一言付け足すことにした。

「でも・・・」
「でも?」
「俺は、店長の意見好きですよ、そう思ってもらえてるのうれしいです」
「ぉっ!やっぱお前は話が分かる! 俺はお前のことが好きだ!」

見る見るうちに元気になり、ニマッ、と笑った顔は完璧酔っ払いのそれだ。

「・・・ありがとうございます」
「なんだよ〜、うれしくないのかよぉ〜?」
「だって男に好きって言われても」
「おまえ〜、そんな趣味あるの?」
「どっちが!」

一瞬立場を忘れて強めに突っ込むと、ばちっと目が合った。
少し笑えてきて、お互いの顔を見合わせ、ぶぶぶ、と吹き出した。

「あ〜、おもしれ。 おもしれ〜けど、色気ないな〜。 男二人で冴えない話ばっか。 こんな素敵な星降る夜にさ」
「確かに、今日はすごく星がキレイですよね」

休憩室の小さい窓から見える星空は、いつもにましてキラキラ輝いているように見えた。

「お前って、彼女はいないの?」
「いないですよ」
「やっぱ、そっちの趣味?ぷぷっ」
「・・・違いますよ、どっちにも興味ありませんから」
「あ〜、そういうの嘘ウソ!モテないやつが一番最初にする言い訳。そんなのはさ」
「・・・ほっといて、ください」

言い当てられて悔しくなり、わざと言葉を会話を断ち切るように発声すると店長はニヤリと笑った。

「紹介してやってもいいぞ〜、一人、俺が大事にしている秘蔵っ子がいる」

そのしたり顔にも見える笑みが軽く、憎らしくなった。

「隠し子ですか?」
「違うわ! 俺は嫁を愛してる! ここのバイトの子だよ。仲山鞠ちゃん!」

10歳以上年下であろうヒカルにサラリとかわされムキになったのか、店長は机の上にあった履歴書のファイルを開き彼女の履歴書のページを開くと俺に見せた。
その履歴書の写真を覗き込むと、今よりやや幼い彼女が硬い表情でこちらを見つめていた。
思わず、ポロッと呟いた。

「・・・あぁ・・・。この間井上先輩がフラれてた」
「何ィ?!井上がぁ?? あいついつの間に・・・」

今度は父親モードだ。忙しい人だなぁもう・・・。

「食事に誘って、すぐ断られたって言ってましたから大丈夫だと思いますよ」
「そうか。 ならまぁいいか・・・、で、お前はどう思う?」
「何をですか?」
「鞠ちゃん♪」
「あぁ・・・可愛いですよね。 すれ違ったことしかないですけど」

流れから予想してた質問だった。はずなのに、俺の気持ちは少し波打った。
そしてそれを隠すべく、必要以上に落ち着いたトーンで返事を返していた。
何故かは分からないけれど。

「おまえクールね〜。あんな可愛い子を、俺の秘蔵っ子を紹介してやろうって言ってるのよ?も〜ちょっとホットな反応できないの?」
「あんな可愛い子・・・」
「んん??」
「俺には、もったいないですよ」

思わず、つぶやくような小さい声になって俺は言っていた。

「おー、やっと本音が出たね。 それでよし。 本音で語る男はいつの時代もかっこいいぞぉ」
「・・・と、いうわけで、お断りします」
「なにー?!断るぅ?!」
「他に、もっといい男いますよ」
「そうかねぇ〜・・・俺は、お前は優しくていい男だと思うよ?」
「ありがとう、ございます。 でも俺自身はそんなふうに考えたこともないし」
「自分で自分のこといい男だって思ってるやつにいい男はいないと思うけどな・・・ 
 まぁ、気が向いたらいつでも言えや。 俺はお前ならいつっでも!いいぞ」
「はい・・・」

その後話は何度もめぐり、そのたび"鞠ちゃん"を紹介するぞ!と言われたけど俺はそのたびに断り続けた。
もしも、あの時。
彼女を紹介してもらっていたら・・・。

「おっ、メール、メール♪ いやったぁ!仲山さんから!
 俺はトイレに行って来る! そしてゆっくり、このメールへの返信を考える!」
「・・・」

俺はそのときのことを考えていて、ボンヤリとして大和のほうを見ていなかった。
大和は俺の目の前で手を振り「ぉぃ、ぉ〜ぃ、聞いてるか? 嫉妬で耳が膿んだか?」などとふざけて聞いてきた。
ハッと我に返り

「・・・聞いてるよ、行ってこいよ、大事にしてあげなよ」

と言うと、目をそらした。 まさか"俺も紹介するって言われたことがある"とは言えなかった。

「わーってるって! んじゃいってきます!」

酒も飲んでないのによく分からないハイテンションで弾けまくって出て行った大和を見送った。

もしあの時紹介してもらっていたら、少なくとも、大和からこれだけ延々と語られてイライラするようなことはなかったかもしんない・・・。
作業がちっとも進まねぇし・・・などと心の中でグチった。

ようやく部屋が静かになり、ヒカルはレポートに神経を集中させ、やがて、その作業に夢中になっていた。
集中してシャーペンを走らせていると、廊下から、ドタドタドタ!!!と人が駆け寄ってくるのが聞こえる。

(やれやれ、また大和か?)

そう思って顔を上げるのと、大和が部屋に飛び込んできて「携帯壊したぁ!!」と叫ぶのはほぼ同時だった。

「はぁ? 携帯壊れたの?」
「トイレに落としちまって・・・」
「あ〜あ・・・」

大和の手の中の携帯は水滴がついたままだ。せめてティッシュか何かで拭いてくればいいのに・・・。

「これもう治んないのかな?」
「さぁ・・・ あ、木下さんに聞いてみれば?」
「木下さん・・・あ、あのいっつもバイトで余ったっつって、ドーナツばっか食べてるデブ?」
「余計だよ、それは。まぁそうなんだけどさ・・・。 あの人も確か一回トイレに落とした携帯自力で治してたと思う。
 聞いてきたら?実験室Uにいると思うよ」
「分かった! ヒカルさんきゅ〜!」

そういうと、大和は部屋を飛び出し、廊下の突き当たりにある実験室へ向かってまたドタバタと走っていった。

(騒がしいやつだなぁ・・・。 そこだけは、昔からちっとも変わってないや。)

 

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