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大和 2

まぁ、そんな事情があって俺はヒカルの部屋に厄介になることになった。

研究生になる、というのは正直その場の思いつき。
ただバイトに明け暮れているよりはそのほうがいい、という簡単な発想だった。

大体、俺は好きでこの大学に来たのだ。
大学卒業は出来ましたけど只今プーです、ダチの家に寄生してバイトしながら就職活動中です、でも目的見失いかけてます、では納得が行かない。
せめて、好きなことして頑張ってたいじゃないか。

そう思ってダメモトでヒカルに教授に研究生として推薦してくれるように頼んだ。
岩井教授には授業でしか会ったことがなかったがヒカルは相当気に入られてるみたいだし、大丈夫だろう。
ヒカルはあからさまに(えぇ・・・そんなことまで俺に頼むの?)という顔をしたけれど無視してやった。
俺に手段を選んでる余裕はなかった。

そして数日後、俺が一人暮らしの部屋の荷物をあらかた片付けて、家電製品を売って入る金と売れなかった家電製品の処分代金がほぼ同じだという事実に落ち込んでいるとき。
ヒカルは教授がとにかく一度顔を見たいといっているということと、自分が今まで勤めていたレンタルビデオショップのアルバイトの話を持ってきた。

「お金なかったら、生活できないでしょ?」

確かに。
今まで単発のバイトしか入れてこなかった俺だがそれでは生活も難しい。
何より

「日程がわからないバイトは研究のさまたげになる。研究生になるのなら、まずそっちをちゃんと極めなきゃダメだ」

そう、ヒカルは言った。

「ここの店長さんは話せば分かってくれるし面倒見のいい人だから、大学の都合に合わせたシフトでもいいって言ってくれるんだ。
 時給はまぁ、そんなに高くはないけど、シフトに融通が利くほうがこれからはいいと思うよ。
 大和から家賃や水道代を取る気はないし、元々二人ともコンビニや学食ばっかで自炊しないし。 そんなに変わらないと思うんだ。
 夜5時間くらいを週4、5日も入れば食費くらいはどうにかなるんじゃないかな?
 あ、でも駐車場代は払ってね。 8000円。 俺の車じゃないんだし」

ヒカルはしっかりしてる。
地元のヒカルマンセーも納得がいく。
そんな俺の心の中のヒカルマンセー嵐ぶりをよそに、ボソボソと、淡々とヒカルは説明を終え

「じゃ、今度の日曜には部屋空けておくから」

といって去っていった。



大学で再会した時はその変わりように驚きはしたものの、相変わらずヒカルは頭が良かった。
わりと県内でも全国でも優秀なほうの大学で、ヒカルはほぼ学部でも学内でもトップだった。

「相変わらずね、ヒカルちゃん」
「大和くんもね」

そう言い合って、お互い何故かニンマリ笑いあった。
不思議なことだが、二人で話しているとあっという間に時が戻っていく。
田んぼのあぜ道を走って追いかけっこをしていたヒカルちゃんと大和くん、になる。

ヒカルは正直見た目はオタクっぽいし、一見陰気なんだが話しているとそうでもない。
自分のことをかっこよく見せるということに多少気後れしているだけだ。
自分の見た目、ルックスにまったく自信がないのだ。

俺だったらそれでも何とか磨いていこうとするが、ヒカルにはそれがない。
何度俺が身だしなみを整えろと忠告しても、

『そんな時間があるくらいなら、大好きな研究をずっとやっていたい』
とか言うのだ。
俺から見るとただ逃げてるようにしか見えないんだが、本人は研究さえしていられれば幸せなんだとのたまう。

あと研究が大詰めになるとそれ以外のことにはまったくもって無頓着で、風呂にも入らないしヒゲもそらない。
ヒカルの周りにはそうでなくても人が少ないのに、その何日も着ているTシャツや洗っていない髪からの臭いに耐え切れない同級生が部屋から出て行ってしまい、 気がつくと、夏場にクーラーの効いた広い部屋をヒカル一人で占領していることも多かった。

(だから、モテねーんだっつの)

女に興味がないわけじゃないくせに。
一緒に暮らして分かったが、お気に入りのエロビデオだって持ってたし。好きなアイドルが出てるドラマはしっかり録画してるし。
大学でいいな、と思った女だっているはずだ。

あと俺から見て、ヒカルはそんなにマズい顔立ちでもないし、背も高い。
183cmあると言ってた。 まだ伸びてるかも、とあんまり淡々と言うのでウソかと思ったら本当らしい。
一体いつそんなに背が伸びやがったのか。 小学生のときは俺と同じくらいだったのに。

あと、足が長いんだよな。
ジーンズの裾切らなくてもそのままはけるってどういうことだよ?!
むしろ時々足らないんだよね、とか言いやがる。
身長172で股下は・・・の俺としては非常に腹ただしい。

これでもうちょい見た目を変えれば、女なんて向こうから寄ってくるだろうに。
入学当初から俺はそればっかりヒカルに言い続けていたが、ヒカルはまったく自分を変えようとしなかった。



まぁ、そんなこんなで。
変わったやつだけどしっかりもの。
「マンセーヒカル」のおかげで、俺は無事、研究生として新たに1年間キャンパスライフを送ることとなった。

岩井教授はキビしいけど、思っていたよりも面白い人で、与えられた研究テーマも俺向きで入り込みやすかった。

「先生授業より言うこと面白いし、いい人っすね」

と言ったら殴られたが。

そして、レンタルビデオショップのバイト。
ヒカルが「すごくいい人だよ」と言う店長は、昔は族のヘッドだったんだよ?という社員の噂話が嘘か誠かは知らないが、 もしそうであってもおかしくないかも、と思えるような人情派で仁義に熱い人だった。
それはちょっと道それてたら極道だったんじゃ?と思えるような仁義ぶりで、俺はここでもヒカルマンセーの嵐に巻き込まれた。

「いや〜、青木はほんっとうにいい奴だよな! 幼なじみなんだって? じゃあきっとお前もいい奴だ!」
「ありがとうございます」

って。おいおい大丈夫かよ。
俺まだここ来て5分もたってないし、「はい」と「そうですね」しか言ってねーんだけど・・・

「とにかく青木が『僕の代わり』つって君を紹介してくれたんだ、きっといい奴に決まっている!」

ヒカルの代わり・・・
あぁ、ヒカルは4月からは大学のほうに専念したいといってこのバイトをやめるといってたな。
まぁ印象が悪いよりは、いいか。
そう思っていると、横のドアが開いて小柄な女子が顔を覗かせた。

「あっ・・・面接中、ですか?」
「あ、マリちゃん。 いいよいいよ、もう終わるから! 休憩しちゃって。
 あと彼、明日から入ってもらう新しいバイトくん。 えぇと・・・伊藤くん、だったよね?」
「はい」
「夜のバイトなんだけど、しばらくは仕事覚えるのに5時くらいから入ってもらうから、マリちゃん仕事教えてあげてね」

マリちゃん、と呼ばれたその女子はそろ〜っと部屋に入ってきて俺に会釈をした。

「初めまして、ナカヤマです。 よろしくお願いします」
「あ、はい、よろしくお願いします」

(うっわ〜・・・超可愛くねぇ?)

"ナカヤママリ"は、モロに俺好みの美少女だった。
ちっこくて、目はクリっとしてて色も白い。人見知りする性質なのか警戒したような表情、でも小首をかしげる仕草にグッと心を掴まれた。

(やった、この子に仕事教えてもらえるなんて、めちゃめちゃラッキー!)

「んじゃ、伊藤くん。ロッカールーム案内するからこっち来て」
「あ、はい」

休憩室だったらしいその部屋を出て、続けて隣の男子用ロッカールームに案内される。

「このロッカー空いてるからこれからはここ使って。 カギも一応かけれるようになってるけど不安だったら言って。
 俺の部屋に金庫があって、俺に言ってくれればそこで貴重品は預かるから」
「はい」
「あと・・・」
「はい?」
「マリちゃん、可愛いって思ったろ〜?」

(げ。)

「えっ・・・は、はい」
「ダメだよー、うちの看板娘なんだから。 手ぇ出すなよ〜」
「ははっ。やだなぁ、そんなことしませんよ」

気取られて少し焦ったけど、俺は普通のテンションでそのジャブを打ち返した。

「ふ〜ん、ならいいけどね。 んじゃ、明日からよろしく!」
「はい!」

早速店長に俺のことは見抜かれた感じがしたものの、これでバイトに行く楽しみができた。
ナカヤマ、マリちゃん。
こんときはまだ、め〜っけ、という気持ちのほうが強い気がした。
ガキの頃、なんでもなく道を歩いてて草の陰からピカピカした石を見つけたときみたいな。

"ラッキー、いいもんみっけ"

そんな程度の、気持ちだった。

 

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