「なんだよー、生理かよー。先月もそうじゃなかった?」
「・・・毎月あるのが普通だもん」
「ちぇ〜」
口先だけでそう言い、勢いよく芝生に寝っ転がった。
服を着ていない部分に刈りたての芝が刺さってちくちくする。
10月でやや肌寒い感じもしたけれど、今日は天気が良くて日差しが暖かく気持ちがいい。
昼間の公園で二人で日向ぼっこをしていた。
鞠の作る弁当は美味いし、もちろん金がないからとというのもあるけれど、こういうのんびりした場所が二人には合っている気がする。
(う〜ん、これでHできたらすっげ〜最高の日になったな、今日)
「そんなこと言われても、生理来なかったら困るよ」
鞠はそんな俺の態度にちょっとムクれた顔をしている。なので正直に話すことにした。
「俺は困らねー」
「なんで?!」
「俺は子供が大好きだ!」
「・・・そんな簡単に言わないでよ」
明らかに冗談だと思われてるらしい。
ため息混じり、大きな瞳から(呆れちゃう)と言ってるのが聞こえてくるようだ。
「お姉ちゃんすごく大変そうだったんだから・・・」
「そうか、鞠の姉ちゃんデキ婚だったな。今のうちにちゃんと経験談を聞いとかないとな〜」
俺としては思ってるままを口にしてるだけなんだけれど、鞠がどんどん無口になっていく。
寝転がったままというのがマズいんだろうか。
よっこらしょ、と身体を起し不安そうに、そしてやや不信そうに唇を結んでいる鞠に俺は言った。
「だいじょうぶだよ。今までの俺から考えたらありえないくらい、避妊はバッチリしてます」
「前はそうじゃなかったの?」
(そう来るか〜)
何で女の子っていうのは過去を気にするんだろうか。
根掘り葉掘りとまではいかないけれどわざわざそんなことを聞く気持ちは、俺にはよくわからない。
けれど適当に流すとそれはそれでちょっとモメたりするのでなるべく誠実に対応。を、心がけてる。
「正直、違いました」
「えぇ・・・大丈夫、だったの?」
すると急に鞠は真剣な面持ちに。
自分とは縁もゆかりもない俺の過去の女にまで気を使っている。これも、いつもながら俺には分からない思考回路。
でもまぁ、そういう変に真面目で優しい部分が逆に俺には新鮮で、安心もする。
「大丈夫だったね〜。今考えると怖いわ。何かに守られてたね。都合よく考えると死んだ母ちゃんかなぁ」
「え…。お母さん??この間電話かかってきたって言ってなかった・・・?」
(あ。まだこいつに話してなかったっけ・・・)
「悪い。話すの忘れてた。あれは二人目の母ちゃんで、本当の母ちゃんは俺が小学校のときに交通事故で死んじゃったんだわ」
「そう、だったんだ…」
知らなかった。
そう呟いて下を向いてしまった鞠の頬を、手の平で包むようにした。
こういう反応をするんだろうなという予想そのままの態度に、不謹慎ながらちょっと笑ってしまう。
せっかく時間を作って会ってるからには出来ればこういう顔は見たくなくて、つい大事な話を後回しにしてた。
そんな自分勝手を謝るように、俺は親指でくいくいっと鞠の頬骨を擦った。
「お前が落ち込むことないって」
「うん…そうだね、ごめん。ビックリしちゃって…」
「そんな不幸なわけじゃないぞ〜。本当の母ちゃんが死んで、すぐ今の母ちゃんがお手伝いさんみたいに家に来てくれて、
本物の母ちゃんと同じようにずっと一緒にいてくれたからな。俺にとっては二人とも、大事な母ちゃん」
だから気にすんな。と言ったわけじゃなかったが、どうやら伝わったらしい。
ホッとしたように笑顔を見せる鞠。俺もホッ。
(そうそう、そうやって笑っててくれたらいんだって)
「そうなんだぁ・・・。なんかすごいね、今のお母さん」
「すげーよな、俺も最近になってしみじみそう思う」
「うん」
あ。
俺は、そこでこの間母親にいわれたことを思い出した。
「そういやお前に会いたがってた」
「私に?」
「おう。今度こっちに顔出すって言ってたからそんときにでも会ってみるか?」
「・・・うん、ちょっと、緊張するけど」
「大丈夫だよ。俺が言うのもなんだけどすげーサッパリしたいい人だから」
「嫌われたりしたらこわいな」
「多分それも大丈夫。自信持て」
「うん・・・」
鞠はちょっとうつむいて、それから空の弁当箱を片付けはじめた。
風になびく髪が頬にかかり、そっと耳にかける仕草。
ふいに、あの薄くて柔らかな曲線の部分を舌先で辿るときを思い出す。
「ねぇ、大和」
「ん〜?」
聞いていいのか迷ってるんだろう目線はベッドの上で見せる戸惑いのそれと、さして変わらない。
本人は気が付いてないだろうけれど、つかむしろ俺がエロ気分になってるだけなんだろうけど、ひとつひとつの所作がそれを指しているように見えてしまう。
ダメだな、俺。相当の重症。
「本当に子供できても、困らないの?」
「うん、まったく。なんで?できた?」
無邪気に聞いたら、もうまたそんな簡単に、と怒られる。
「できてないけど。だって大和は学校行かなきゃいけないし、就職が決まってるわけじゃないし、本当に困らないのかなって」
「どっちかいうとその条件で困るのは鞠の方だと思うけど?だから避妊の方向でがんばってるんですけど?」
「大和だってそれは同じじゃないの?」
「俺は平気だなー。鞠がいて、子供が産まれて・・・そんな状況想像しただけでうれしくて仕方ない」
「楽天的・・・」
「違うっ!鞠がいりゃ怖くねーってことだっ!」
いよいよ呆れられてしまいそうだったので、我ながらクサいセリフだと思いつつそう言うと。
「・・・ありがとう」
何でもまともに受け取る鞠は、さすがに照れたらしい。
頬を染めて俯いて、小さい声でそう言った。
可愛い。がんがんエロいことしてやりたくなる。
しかし我ながらさすがにベタ惚れすぎて悔しかったので突っぱねてみた。
「感謝されても。つってもちゃんと責任が取れる立場には今俺はいないから。苦労はさせるよ?」
「うん・・・。それは、平気。がんばれると思う」
「よし、いい子。できたらすぐに教えてね」
鞠の頭をくしゃくしゃと撫でると「やっ、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうよー」と言いながらクスクス笑ってる。
それに合わせてへへへ、と笑いながら、今日はこれくらいで勘弁してやるよと心の中でごちた。
これでも、恥ずかしがりで真面目な鞠に合わせて俺はだいぶ欲望をセーブしている。
(もっと試したいこといっぱいあるからな〜〜。あ、今度って言やぁ・・・)
「ご褒美に誕生日プレゼントを買ってやろう。来月だろ?何がほしい?」
「なんでもいいよ」
「なんでもいいじゃ分からん!」
「だって、もらえたらそれだけでいいもん」
…こいつは意識せずにこういうカワイイことを言うから気が抜けない。
「んじゃあ俺があげたいもんでもいいの?」
「うん。でもあげたいものってなぁに?」
「ん〜・・・アクセサリー系かなぁ?ずっとつけてられるようなさ、ネックレスとか、ピアスとか。穴開ける気はない?」
「それって病院でしてもらえるの?」
「確かそう。俺は自分でパチン!だけど」
「痛そう・・・」
「痛い!そして失敗したらヤバイ!なので病院をお勧めします。多分整形外科とかでできるんじゃね?」
わかった。開ける。
少し悩んで、でも鞠には珍しく即断。
きっと俺がピアスをしてるから自分も、と思ったんだろう。
そう考えると余計に愛しい。
「んじゃピアスね。あーでもお前金属アレルギーっぽいなぁ。カバーもいるなこりゃ」
「カバー??」
「いやいや、俺に任せておきなさい」
「はーい。楽しみにしてます」