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大和 10

鞠とは土曜の夜以来会ってなかった。今日で3日目。
本当は今日会える予定だったのが

「家にミーちゃんが来てて一緒に夕ご飯食べることになったから、会うの来週ね」

と電話で言われてしまったのだ。

(はぁ・・・切なっ)

今日会ったらあれも言おうこれもしようといろいろ楽しみに思ってたのに。
でもやっぱ時間足りないかもなぁ・・・あいつ、またうちに泊まってくれないかな〜。
そしたら一晩中・・・。

俺は鞠にしたい、と思うことをまた考えはじめた。
鞠は、とにかく俺から見ればまだまだウブい。
けれど、そこをじっくりと色を染めていくようにして丁寧に責めてやると、どんどん我を忘れて熱くなる。
それを見ているのがたまらない。たまらなすぎて早すぎるのが問題・・・。

『どんどんHになっちゃう・・・』

と終わったあとに鞠が言ったことは間違ってない。
確実に鞠はHになっているし、俺がそうさせてるんだ。

(まぁいいや。今から一週間、鞠にすること考えて選りすぐろうっと)

俺は一人ウキウキして、中庭で食後の一服をしていた。
吐き出す煙の形すら鞠の体の形に見えるくらい、俺は相当入れ込んで考えていたのだが――。

「せんぱ〜い!」

黄色い声がし、最初自分のことじゃないと思っていたら、
横にチョコンと座られて「先輩、一人ですか?」と聞かれたのでさすがに自分のことだな、と思いその子の顔を見た。
ロングヘアーで、毛先はやわくふわふわに巻かれている。化粧は普通。まぁまぁカワイイ。

「・・・だれ?」

・・・が、まっったく、見覚えがなかった。

「ひどーい!2年の五十嵐です!この間実験手伝ってもらったときに会いましたよ!」
「あぁ・・・」
「全然覚えてないんですね?けっこうお話したのになぁ」
「ごめん」

そういや、実験の手伝いに行かされたときにこんな子いたかもなぁ。
手伝いなんてしょっちゅうだからかなりうろ覚えだけど。とりあえず、俺は謝った。

「まぁいいです。これから覚えてくださいね♪お一人ですか?一緒にご飯食べませんか?」
「あ、いや俺もう食ったから」
「えーーー?!じゃあ、明日、一緒に食べてくださいよ〜」

なんでだよ・・・。
と思いながらもその手口が、俺が鞠にしたものと同じなことに気がついて思わずプッと吹いた。

「なんで笑ってるんですか?」
「いや、ごめんごめん。悪ぃけど他当たってくれる?」
「え・・・?」
「俺、彼女以外の女の子と昼飯食う趣味ないんだ」

告白されることも、誘われることも。断るのは慣れている。
別に慣れたくてそうなったわけじゃないけれど、鞠のことを考えるとどこかそれすら後ろめたいのは何故だろう。

相手はというと、はっきり袖にされたことに気分を害したようで、じとっとした目でこちらを見てきた。

「・・・彼女、いるんですか?」
「おう」
「大学の子ですか?」

繰り出される質問とその聞き方に、しつこいというか粘着質なものを感じて内心うへぇ、と思った。
例え鞠の存在がなくても丁重にお断りしていたかもしれないな、とうっすら思う。

「それ、答える義理あるか?」
「あります。私先輩のこと狙ってますから」

堂々と『私、あなた狙ってます』宣言。
そこも俺と一緒かよ。ますます面白いな。

「なんで笑ってるんですかさっきから!真剣です、私は」
「悪ぃわりぃ。俺と、くどく手口が似てて面白くって」
「似てるんですか??」
「うん、最初に宣言しちゃうあたりなんかソックリ。誘ってくれてサンキュー。俺もまだまだイケるのね〜」

そう言ってタバコの火を座っているベンチのカドで消し、携帯灰皿に押し込んだ。
長話をするのも何だな、とっとと退散しようと思い
「さて、五十嵐さん?だっけ。そんじゃね」
と立ち上がって去ろうとしたらガシッ!と腕をつかまれベンチに戻された。

「ダメです!逃がしません!」
「何だよ〜。まだなんか用か?」
「お昼の約束をしてくれるまでは、用は済みませんから」
「・・・お前、しつこいな」
「先輩と一緒です」

思ったとおり粘着質だ。しかも口も早いと来てやがる。

「・・・てめえ。んじゃ言う。ぜってー、食・わ・ね・ぇ」
「ひどぉい!」
「しつこくするのは持ち味だけどされるのはキライなんだ。離せ」

俺が少し本気でイラッと来たのが、相手に伝わったようだった。

「・・・はい」

五十嵐はやっと俺の腕を離した。
そして勝気そうなかわいい顔をゆがめて、心底悔しそうな表情を浮かべた。

「先輩、やっぱり手ごわいですね」
「はぁ?」
「女慣れしてる感じがしました。私のこと眼中にないのも分かったし。でも、一目ぼれだったんです」
「・・・」
「あきらめません!」

そう言ってバッと立ち上がり、スタスタスタ!と足早にその場を去っていった。
キビキビした足取りと、風になびくスカートのふわふわした動きが反比例していて妙に目に焼きついた。


俺は去っていく後姿をポカーンとしばらく眺め、

(俺の女版ってあんな感じなのかぁ・・・?怖いししつこいし、かわいくね〜)

でも見た目はかわいい部類だな。
ちょっとキツイ感じもするけど黙ってりゃ篠塚くらい即だませそうだ。
確か篠塚もその場にいたんだし、どうせなら現在彼女にフラれてフリーのあいつのとこにいってほしいもんだな。
世の中うまくいかないな、マジで・・・

(しかし俺も落ち着いたもんだな・・・ホントに鞠以外は目に入らねぇや)

やれやれ・・・。俺は立ち上がって、研究室へ戻っていこうとした。

「伊藤!!!!」

背後から、今度は男の声で叫ばれる。
やれやれ・・・しかし今度は間違いなく自分だと思ったので振り向いた。
すると、そこには今思い出したところの篠塚がもんのすごい顔をして立っていた。

「おう篠塚。どうした、なまはげみたいな顔して」
「お前・・・彩香に手出したのか?」
「彩香?今の子の事か?」
「お前のせいか?あいつが俺と別れるっていったのは・・・」
「・・・ん?」
「伊藤・・・お前やっぱり女たらし・・・」

会話がおかしい。
というか、篠塚がまったくこちらの言葉を聞こうとしていない。
唇をかみしめプルプル震え、大和を睨みつけている。

(何を怒ってんだこいつ・・・)

女の子との修羅場は何度かあるが男との修羅場は経験がない。
けれど篠塚のこの空気。このままでは一発ぶん殴られそうな気が。

「いや待て、ちょっとこっち来て座れ!お前がいろいろ誤解してる上に俺は話が読めねぇよ・・・」

ブチ切れている篠塚をとにかくベンチに座らせ、どうどう、となだめた。

「なんだ、あの五十嵐って子はなんなんだ?」
「俺が、この間フラれた彼女だよ」
「あいつが?!」

この間の飲み会でこいつが散々未練があると騒いでた女が、あれか?

「お前、やっぱ女の好み分かりやすいな・・・」
「うるせぇよ!1年半付き合ってて急に『好きな人が出来たから別れて』って言われてさ、誰か聞いても言わないし・・・お前のことだったのかよ」
「・・・どうやらそうみたいだな」
「伊藤。まさか二股じゃねーよな?」
「まさか!俺は鞠しか見てねーよ!この間の飲みのときで分かっただろうが。なんなら今断るのにちょっと苦労したぐらいだ」
「―――だよな」

篠塚は深く、ため息をついた。
飲み会での話、そしてそのため息のつき方だけで、篠塚があの女に首ったけなのがじゅうぶん分かる。
分かるだけに。

「なんか、俺もうどう言っていいかわかんねーんだが」
「いや、何も言わなくていい。・・・仕方ない。そうだろ?」
「そうだな・・・」

さすがの大和も、それ以上はかけられる言葉がない。

「彩香、欲しいものは手に入れないと気がすまない子だから・・・気をつけたほうがいいかもしれない」
「わかった・・・」

もはや男のプライドだけで立っているような精神状態で、それでも篠塚が語ってくれた五十嵐彩香の数々の女王様なワガママエピソード。
その話だけでうんざりするほど、俺は

(どうも、変な奴にとっつかまったな・・・もうそういうのいいっつーの)

とげんなりしていた。

 

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