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大和&鞠 5


 順番違っちゃったかもしんないけど。

 本気、だから。

 冗談とか、遊びでここ連れてきたわけじゃないから。

 大事にするから・・・俺の彼女になって。


初めて彼女を抱いた日、バカなオウムみたいに何度も繰り返したセリフ。
多分、今まで一度もそんな風に必死になって自分の想いを訴えたことなんてなかった。

今までの素行サイアク、しかも速攻ヤっちまうし、おまけに金もない。
そんなどうしようもない男を受け入れてくれた鞠に、俺は心底・・・感謝している。

夏休みが終わると、バイトはまた夜だけになって鞠と仕事をすることはなくなった。
とはいえシフトが一緒になってても、二人のことを知った店長のキビしいチェックが入ってきてそんなにイチャイチャはできなかったけど。
研究もいよいよ本詰めで、発表する場も増えるのでますます俺は忙しくて死にそうだ。
けれど、鞠に会うのは俺にとっては唯一の息抜き、癒しタイムだった。

まるまる1日会えることはまずほとんどなかったし、鞠も「あんまり無理しないで」と言うけれど たとえ1時間でも30分でも、俺は鞠に会っていたかった。
そして・・・触れていたかった。
すべらかな白い肌も、切ない甘い声もただひたすらに俺を癒してくれる。

当然そんな忙しい俺なので浮気なんてできるはずもなく・・・いや、忙しくなかったとしても鞠ひとすじ!だったろうと思う。
他の女なんか目に入らなかったし、鞠以外の女とどうこうするなんて、もう考えられなかった。

全てにおいて初々しい反応。
何を話していても、こちらが話し出すとすうっと引っ込む。
それは別に気を使っているわけではないみたいで、常に嬉しそうに微笑みながら俺の話を聞いている。
元々がそういう性格みたいだった。
つい引き込まれるように昔の彼女とのことまで話しそうになって、危うかったこともある。

今まで俺は、あまり女を信用していないところがあったと思う。
女自体は嫌いじゃない。
けどどこかいつも気を許せなくて、遊びで終わらせておくほうが楽だと思ってたから。
けれど鞠は違う。大切にしたいって、本当に思ってる。

完全に、俺は鞠にハマってる。


 *******************************************


あれから大和は時間を作って、鞠と会ってくれるようになった。
仕事終わりくらいに下で待っていてくれて、そのまま大和の部屋で会うこともあったし、 少し時間があれば買い物に付き合ってくれることもあった。

どんどん、大和を好きになっていくのを止められない。

最初は衝動的だったえっちも2度目からはそんなこともなくなった。
痛みはまだ残っていたけれど、すっかり・・・大和の思うまま声を上げ震えてばかりいる。
恥ずかしくって仕方なくて、アパートの隣の人に物音を悟られたくないのに大和に責めたてられ、どんどん、・・・いやらしくなっている気がする。

ただ、・・・挿れられるその時だけは大和は乱暴で、ベッドに肩が食い込みそうなほど腕で押し付けるようにしてくる。
まるで何かから強引に奪い取るかのように強引で激しくて・・・少しだけ怖い。
激しく求められていることを、強く感じる瞬間。

「慣れてきた?痛くない?」

それでも、そうやって気遣ってくれるからホッとする。

「うん・・・平気・・・だよ?」

正直、まだよく分からなかった。まだ少し裂けるような痛さもある。
大和が動くたびに、ぎりぎりぎり・・・みしみし・・・と中が広げられていくのが分かる。
かと言って動きを止めてほしい、やめてほしいとは思わなかった。

毎日何通もやりとりされるメールに、おやすみのコール。
惜しむことなく降り注がれる"好き"という言葉。そして、大好きな男の人に強く求められる喜び。
それまでの日常にはなかった、その全てに鞠は浮かれて舞い上がっていた。



付き合うようになって2ヶ月くらいたったある日。
その日はバイト上がりに二人で部屋でビデオを見ることになっていて、鞠は大和が好きなアクションものをひとつ選んで借りた。

仕事を終えて携帯をチェックすると、大和から「ごめん!」とタイトルのついたメールが入っている。
開いてみると

『ごめん!うまいこと抜け出せそうになくてちょっと遅れる。先に部屋行っててくれないか?すぐ行くから部屋の前で待ってて!』

という内容だった。

このところ、特にこういうのが多い。
余程忙しいのだと思うので、あまり無理しないでほしい、自分のことはいいので大学のことに専念していてほしい、 と頼んでいるのに「俺の楽しみを奪うな〜!」と言って聞き入れてはくれない。

(私、邪魔してるだけじゃないのかなぁ・・・)

そんな心配はあるものの、やはり会えないのは寂しい。彼なしではとても、いられない。
コンビニに寄って夕食代わりに、とおにぎりやサンドイッチをたくさん買って部屋に向かった。

コンクリの階段を上がり、部屋の前にたどり着くと(ふぅ・・・)と一息ついて袋からツナサンドを取り出す。
パッケージを開けて、中身をほおばった。
いつの間にか、そうやって大和の帰りを待つことが多くなっている。

けれど今日は、男の人の声で「仲山さん?」という声がして驚いて顔を上げると"ヒカルちゃん"が立っていた。
"ヒカルちゃん"と会うのはあのときぶりでちょっと緊張する。

「あっ・・・ヒカ・・・青木くん!」

と焦って返事をすると、

「ヒカルでいいよ、何してるの?大和待ち?」

ヒカルちゃんは驚いたようにそう言った。

「うん、遅くなるって・・・」
「あぁ、そういえば教授に捕まってたかもなぁ」
「え、また?」

思わずポロッと出てしまって、しまった、と思っていると

「うん、また」

そう言ってヒカルちゃんはクスッと笑って「あいつ懲りないから」と言った。
・・・笑うとくしゃ、となるその顔は黙っているときより優しく見える。

(やっぱりこの人、いい人だな)

その笑顔に初対面に近い人と話す、独特の緊張がとれた。
「ちょうど資料取りに戻ってきたんだ」 ヒカルちゃんはそう言って鞠を部屋に入れてくれた。

・・・

「部屋の鍵あげたいんだけど、俺と大和が持ってるので二つしかなくって」

ヒカルくんが資料をそろえている間。
鞠は、彼が出してくれた比較的キレイな座布団の上にいた。
「あ、ううん、いいの! 待つっていってもそんなにかかんないから」
手を左右に振ってそう言うと、眼鏡の奥の瞳が一瞬訝しげにこちらを見つめてきた気がした。

「待ってる間、いつもあんな風にご飯食べてるの?」

緊張はとけたとはいえ、あまり表情のない彼と話すのはちょっとだけ戸惑う。
それでも問われるまま答えた。

「あ、うん・・・。待ってても何もすることなくて、つい・・・」
「合鍵作ってもらったら?俺は全然構わないよ」

相変わらずの低い声。
だけれど、さっきからかけられる言葉はとても親切で思いやりを感じる。
元々がこういう人なのかな、と思うとまた少し安心する。

「うん、ありがとう・・・。ヒカル、くんは優しいね」
「え?」
「だって前に・・・助けてくれたでしょ?」
「あぁ・・・あれは、大和が悪い」

合っていた視線がふいに逸らされた。
たぶん、前感じていた通り人見知りする人なんだと思う。
自分もそうなので、何となく気持ちが分かる気がしていた。

「うん・・・あのときはすごく怖くて」
「でも、あいつ悪い奴じゃないでしょ?」

資料を探したまま、そんな風に言うヒカルくん。
最初、見かけも言動も派手な大和と、間逆に見える彼がなぜ一緒に暮らしていて仲がいいのか不思議だったけれど。
大和から聞くヒカルくんの話、そして今、ヒカルくんから聞く大和の話の両方から、二人がすごく信頼しあってるんだって分かる。
二人ともはっきりとは言わないけれど・・・

(大切な友達、なんだろうな)

「うん」
「大事にしてやってね」
「うん、分かった」

深く頷いた鞠を見て、安堵したように頬を緩めるヒカルくん。
鞠は自分の考えが間違っていなかったことを知って、本当に、大和と大切に付き合いたいと思った。

(ただでさえ、私にはもったいないくらいの人だもん)

再び散らかった部屋のあちこちを探っているヒカルくんの背中をぼんやりと追っていると、積んである本の中に見覚えのある背表紙が混じっていることに気がついた。

「・・・あ、これ"王家の紋章"?」

指を差し示してそう呟いた途端。
ヒカルくんの顔が、恥ずかしそうになった。

「知ってるの?」
「うん、面白いよね。読んでるの?」
「・・・実は今、研究室で昔の少女マンガが大ブームで」
「研究室って男の人、多くなかった?」
「そうなんだけど、元々マンガ好きが多くて誰かが"エースをねらえ!"を持ってきたんだよね。そこから火がついて」
「大和からそんな話、聞いたことない・・・」
「あぁ、大和はヤングジャンプやサンデーばっかで、こっちにはあんまり首突っ込んでこないよ。
 "王家の紋章"みたいな歴史モンは少女マンガでもとっつきやすいほうだと思うんだけどね」

ヒカルくんから聞く研究室の話は大和から聞くものとはまた違っていて、不思議な感じがした。
と言っても、大和が話す研究室は『とにかく静かで皆暗い』という文句も多かったのだけれど。

「そうなんだぁ、じゃぁ・・・"サラディナーサ"って知ってる?」
「あ、知ってる。前に読んだ」
「あれも面白いよね」

嬉しそうに古い少女マンガの話をする鞠が不思議だったのだろう。
ヒカルくんは苦笑に近い微笑みでこちらの話を聞いている。

「詳しいね。漫画好き?」
「一時期マンガ喫茶ばっかり行っていろんなの読んでたの。少女マンガじゃないのも読んでたし」
「へぇ。例えば?」
「う〜ん・・・やっぱり一番好きなのはワンピースかなぁ」

あとはHUNTER×HUNTERと・・・と言いかけた鞠を遮るように。
パッ、とそれまでの表情から一転して、ヒカルくんの眼鏡の奥の瞳が輝いた。

「あ、俺も好き」
「そうなんだ。ルフィがすごくかっこよくて、憧れなの」
「俺も、ルフィ好き・・・」
「ホント?一緒だね!」

その後、息を切らした大和が部屋に入ってくるまで、鞠はヒカルくんとワンピースや他のマンガの話で盛り上がっていた。
ヒカルくんは、あんまり自分からは話さないと聞いていたけれど好きなものの話はするようで、二人の会話は途切れることなく続いた。
今度マンガを貸し借りする約束をし、仲良くなれたことがうれしいな・・・と思っていると、何故かその報告を聞く大和の機嫌が悪くなっている。

(なにかあったのかな・・・)

ヒカルくんが去った後、それを気にしつつもビデオをセットし再生ボタンを押した鞠を、急に床に押し倒してきた。

 

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