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輝 5

こっそりと学校を休んで仲山さんと海に行っていた大和は、夕方フラッと研究室に戻ってきた。

思っていたよりも早い帰宅に驚いたが、ぼーっとしていたかと思うと急にメールを打ち始めて大事そうに携帯を机の前に飾った。
そしてPCを開いてネットで違う大学の研究発表を見ていた、かと思うと携帯のチェック。
いったん席を立ち、しばらくしてドーナツを手に持って帰ってきた。
また木下さんにもらってきちゃったみたいだ。
あの人、ドーナツを人にあげるの大好きだからなぁ・・・そしてドーナツを食べながらまた携帯のチェック。

そんなことをくり返しながら、始終そわそわ落ち着かない様子。
何やってんだろうと思いつつこちらもそれどころではないので集中して作業していると、しばらくして大和のほうから

「ヒカル〜、メシ行かね?」

と誘われたのでいったん食事をしに外にでた。

大学のそばの、安い早いの牛丼屋で定食を食い薄苦いお茶を飲むと、同じように食い終わった大和はハ〜ッ、と息をつきタバコに火をつけた。
心なしか、テンションと同様に肩も落ちている気がする。
その様子は大和が"やらかしちゃったかな〜オレ"と反省しているときのものだ。

「大和、仲山さんとなんかあったの?」
「あ・・・?あぁ、付き合うことになった」
「うまくいったんだ、じゃあよかったんじゃない」
「ま、ヒジョーによかったんだけどね、俺は」

肩をすくめながら嬉しそうに、それでも普段うるさいくらいのテンションで 仲山さんがどうした彼女がこう言ったなどと繰り返していたことから考えると、その表情はあまり冴えていない。
「俺は、って?大和だけ?」
男同士、大和が語らない以上はあまり突っ込んで聞くつもりもしていなかったが、 ポロリと口から感想のように質問がこぼれて、大和は自嘲を含んだ微かな笑みを浮かべ言った。

「ん〜・・・、手、出しちゃった」
「え?!今回はもう少し時間かける、ってこの間言ってなかった?」

驚いた。
思いついたら即実行、の大和だが何でもかんでも気まぐれに動いているわけではない。
一度決めたことがブレることはほとんどないといっていい。
"見かけにそぐわず真面目で融通が利かない、わがままな人"だと評価されることもしばしばあるようだけど、 俺にとっては尊敬に値する性質だ。

「なんかもうさぁ、ガマンきかなくてさ」

ははは、と大和はごまかすように乾いた笑いを俺にみせ、トントン、と灰を落とした。
落ち込んでいる大和をすこし励ます気持ちで、

「・・・思ったら突っ走っちゃうのは大和のいいところでもあると、俺は思うよ」

と言ってみたが。「いやいや、ぜってーお前今のお世辞だ」とズバリ一言で切り返された。

「今回は、そーゆーのとも、違うんだ」

そう続ける大和は、冴えないというか。
なんとも形容しがたい不思議な表情をしていた。

「どうなったの?」

これまで目にしたことのない、無防備に悩む大和の姿。
先を聞きたいわけではけしてなかったのに、いつの間にかそう聞いていた。
大和は、ん〜〜・・・・・と口の中だけで呟いて、ポツリポツリと話し出す。

「・・・・なんか、もう、ムチャクチャしてやりてー!っつーか」
「は?」
「でも、すっげー守ってやりてー、つーか」

相反する二つのセリフが同時に出てきて、俺のほうはやや混乱した。

「・・・大和、意味がわかんないんだけど」
「今の状況納得いかねーから、こうしよう!っていうんじゃねーのよ、もう。もう止まんないの。たまんないの。欲情?っていうのかね、こういうの」

(あぁ・・・そういうこと、なら)

「・・・分かるような、気もする」
「わかるか?」
「うん、ムラッときたらさ、しなきゃおさまらないじゃない?」
「・・・お前、それはセンズリの話?」
「俺だって別に毎日とか毎週したいわけじゃないんだ。でも、ある日くるんだよね突然、ムラムラって」
「まぁね・・・。いやでもまぁ、近いのかもな」

大和はそう言って、ふーっと煙を吐き出した。
俺に話したことで自分の中の感情の整理が出来てきたらしい。さっきよりはすっきりした顔をしている。

「とにかく俺、女をムチャクチャにしたい!と思ったのは初めてだったわ」



研究室に戻ってからも大和はぼんやりしていて時折携帯の画面を見つめていたが、 やがて仲山さんに電話し安心したのか、すっかりいつものテンションを取り戻した。
俺は、すっかり元気になってまだこれから実験をしようとしている大和を残して、いつもの時間に自宅の部屋に戻った。

それでも心は、すっかり乱されていた。

"ムチャクチャにしたい・・・"

その言葉は最初SMプレイを思わせた。
AVの中の、女王様とそのしもべ。または縛られ無様に泣く女と執拗に責め続ける男。
けどそういうのとも違うみたいだった。
大体落ち着いて考えてみれば、そんなことを大和がするはずもないし俺に語るはずもない。

布団に寝転びたいして面白みもないテレビをつけたまま、ぼんやりと仲山さんのことを考えてみる。

あの子が今日、ムチャクチャにされちゃったんだ・・・大和の手で。
それがどういう状況かはわからなくても、それは少しショックだな。
いつか、近いうちにそうなることは予想していたはずなのに・・・

(なんかどうも俺、あの子をすごく神聖化しちゃってるな)

『おっまえ何してくれてんねんっ!!!』

そう思った瞬間テレビから聞こえてきた深夜バラィティの声。やけに騒々しく感じられて電源を落とす。

「は〜っ・・・」

誰に聞こえるわけでもない大きなため息。そして再び思考を戻す。

(多分、自分が好きな女優に似てるからってだけかも知れないけど)

ブラウン管から見る限りでは、その女優は色白で透明感があって、穢れを知らない女の子に見えた。
けど、女優のその子にしても仲山さんにしても普通の女の子だ。
彼氏くらいできるしSEXだってするだろう。その相手が大和だった、ってだけのことだ。

そうは思うものの、仲山さんがAVの中の女優みたいに喘ぐ様はどうしても想像ができない。
というより想像するだけで彼女を汚してしまうような、そんな気さえする。

でも、事実は違うんだよな。現に彼女は今日大和に抱かれたのだ。自分でそれを選んだのだ。

(ヤバイな・・・少しじゃないかも。だいぶ、ショックかも)

ちょっといいな、と思ってた女の子が今日親友に抱かれた。
それだけでこんだけ落ち込んでる俺ってなんかサエない・・・。うまくいくといいと願っていたのに。
冷静なヒカルはさらに自分で自分を追求し追いつめてしまう。

(こんなんだから俺、彼女できないのかな・・・)

中学のときに好きになった女の子は、俺の告白を丁寧に断った。
別にそれは仕方のないことだけど、後になってなぜかクラスの皆が知っていて、キモチワリイと言われた。
その頃からグングン身長だけが伸びだした俺は、ヘンに目立ってしまったのかもしれない。

高校ではボソボソ話すところをマネされからかわれたり、いじめられたりもした。
俺は元々、万人と仲良くできるタイプではない、と自分で思っている。
数人の分かってくれる友達がいればいいと思っているから特に気にはしていなかったが、 そういうのが、女の子を遠ざける原因にもなったことは自分でもよく分かる。
そのうちに、女なんていいやと開き直るまでになってしまった。

(大和みたいに、なってみたいよな)

俺の知らない6年の歳月を経て、大和はいわいるイケメンになって大学に入ってきた。
あぁいう風に一度はなってみたい・・・。どんな気持ちなのか。

 

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