…以下、R15表現があります…
どうして私なの?と聞いたときの彼女は、ゴミ親父に泣かされたときの涙以上にたやすく俺をノックアウトした。
「浮気ほんとにしない?」
と泣くのがあまりにも可愛すぎて、"今回はスローペースで行こう"と決めていた自制を確実にぶちこわされた。
(しかし、いつの間に泣くほど俺のこと好きってなってたんだろう。分からん。女は、わからんな・・・)
そんなことを考えながらキスをしていた。
唇を押し当てたそのときだけ、ぴくり、と拒否をするように顔が動いたような気もしたけれど、ほぼそれと同時にぐっと深めに口付けると急にすっと力が抜けたようだった。
それでも彼女の動きや反応はぎこちなくて、初めてだってことがひしひし伝わってくる。
キスだけで終わらせるつもりだった。
"俺のもの"っていう、ハンコのようなもの。見えないそれを彼女に押す、それだけのつもりだった。
けれど。
キスを終えて身体を離して、改めて彼女を見てすぐ彼女がぼうっ、となっているのが分かった。
少し遠くを見ているような、けどどこにも焦点があっていないような潤んだ瞳がこっちに向いている。
半開きのままの唇が、妙に色っぽい。
日焼けなのか興奮したのか分からないけど紅潮した頬も、流した涙のあとも、白いシャツから透ける白い肌も。
(なんだろこの、ぐちゃぐちゃに、むちゃくちゃにしてやりたい・・・って感じ・・・)
全て、自分のものにしてしまいたい。
そうしないともう、ダメだって気がした。
他のやつには、渡せない・・・。わけもなくそう思った。
俺は黙って車を発進させ、車道に戻った。
家に帰るのとは、違う方向へと曲がっていく。
彼女はしばらくそれを眺めているだけだった。
が、周囲がどんどん帰り道とは違う景色になり、色とりどりのホテルの群れが目に飛び込んでくるようになって、初めてシートから身体を起こしてこちらを見た。
でも言葉にはできないようで、ただ、呆然と俺を見つめている。
そんな彼女には一切声をかけずに、適当にチョイスして車を滑り込ませる。
一階が車庫、2階が部屋になっている。一番他のカップルとすれ違わない作りになっている、古臭いタイプ。
多少淫靡な空気なのは否めないけれど・・・早く彼女を抱きしめたくて、俺の中でそれだけが先行していた。
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大和くんは。
車を降りるとどうやって操作したのかシャッターを下ろして、それから助手席側に回ってきて半ば硬直している鞠をゆっくり車から出した。
無理に引っ張り出す、というような仕草ではなかったけれど、他に手段がない、これしかない、そう堅く思っているのが分かって、何も言えなかった。
(するんだ・・・今から、するんだ・・・どうしよう)
母親のいうことが現実になって、少し、体が震えてくる。
それでも彼と手を繋ぎ、一段一段階段を上った。
幅の狭い、建物の概観からは想像もできない鉄骨のサビた階段を大和くんが先に、鞠が後ろになって上っていく。
階段がなくなると行き止まりのようになって、目の前の金具がついた少し立派なドアを彼が開けた。
(わ・・・)
わざとなんだろうか、外の陽気とはまったく正反対の、薄暗い照明の空間が現れる。
覗き込むと、そこは意外にも外国の部屋のような・・・でもどこかおもちゃの部屋のような白くて可愛い空間で。
白い壁には細かい花模様がプリントしてあり、一人がけのソファが二つ。猫足の白い机と、奥に大きな白いベッドがあった。
ベッドの上にはお揃いのピンクと水色の浴衣みたいなものがあり、そこだけが少しミスマッチでいやらしい感じがした。
「まり」
部屋の造作を眺めているうちに、背後に立っていた大和くんに引き寄せられる。
「きゃっ・・・!」
驚きの声が出る。けれど、腕の熱さに胸が締め付けられて足が動かない。
初めて男の人に抱きすくめられている・・・緊張と興奮で息もつけない。心臓が止まってしまいそう・・・。
心が・・・胸が、ぎゅっとなる。
「・・・だめだ俺」
大和くんは、息を吐くようにそれだけ言うと、私を抱いたままベッドに腰掛けそのまま横に倒れた。
さっきの浴衣が私の背中の下でつぶされ、くしゅ、となった。
息がかかり、熱い身体にすっぽりと包まれている。それに腰が砕けそうなほど緊張してしまう。
「鞠・・・。ここでイヤって言われたら俺はしない。言わないなら・・・」
それだけをやっと搾り出すように話した大和くんは、顔は見えないながらも、苦しそうにしているようだった。
鞠の右肩に頭を押し付け、答えを待っているようだった。
本人はきっと、力が入ってることも気がついていないのかもしれない。
そう思うほど強い力でマットにぎゅうぎゅうに押し付けられノドがつまって苦しくて仕方ない。
目の前にはさっきまで見つめているだけだった、がっしりとした肩。
ずっしりとしたその重み、経験したことがないのに"彼が男性である"ことを刻み付けるかのようで。
けど、・・・・嫌じゃない。怖く、ない。
初めて男の人に強く求められている・・・・・・それに私も、大和くんが、好き・・・。
「・・・いいよ」
やっとのことで、声を出すことが出来た。苦しくて、恥ずかしくて、小さくかすれてしまった声。
大和くんはビックリした顔でガバッ!と身体を起こし私のほうを見つめてきた。
顔の周りから重みが消え、急に軽くなったような錯覚に一瞬気をとられたけれど。
「いいの?・・・初めてじゃないの?ほんとにいいの?」
真摯なその目を見て、はっきり言った。
「いいよ」