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大和&鞠 1

ギャル風の女子が鞠ちゃんに声をかけ、ずうずうしく隣に座るのを俺は海から見ていた。

(女にナンパされちゃってるよ・・・)

男に声をかけられるよりはマシだけど、ギャル女がヘンな男を呼び込まなきゃいいなと心配でずっと観察していた。
隣にいた知り合いがからかってくる。

「久しぶりに来たわりには全然波見てないな、彼女ばっか見てんじゃねーよ」

と笑って言ってくる。 そんなつもりはなかったが、思っていたよりずっと長いこと俺は彼女とギャル女を見つめていたらしい。

(だめだ、落ち着かねぇわ)

彼女にヘンな虫がつかないかと気が気じゃない。

「うるせ〜、ありゃ俺の大事なハニーなんだ、たとえ女でもナンパは容赦しね〜よ」

俺はそう言い返して、いったん浜に戻ることにした。

「あはは!ハニー?お前どんだけ惚れちゃってんのよ?あっはっは!」

海の上で爆笑された。

(ほっとけ、今どっかにかっさらわれたら俺は一生後悔する)

「ただいま〜」

俺が目の前に立つまで、鞠ちゃんはギャル女と話していてそれに気がついてくれなかった。
ギャル女のほうが早く俺の存在に気付き、

「あ、こんちわ〜初めまして彼氏さん?あたし"ミーちゃん"、彼女借りてまぁす」
「ど〜もぉ、大和っていいます」
「うっわ〜!めっちゃカッコよくない?マジヤバイ!いいなぁ〜マリちゃんうらやましいぃ!!」

鞠ちゃんは恥ずかしそうに、でもどこか楽しそうに「だから、彼氏じゃないんだってば・・・」とミーちゃんに言ってる。
その通りだけど、俺心配して戻ってきたのになぁ・・・そうやって否定されるの悲しいんだけど。
ミーちゃんだけはあっさりと、そんな鞠ちゃんの否定をかわしている。

「もうそればっか!もういいじゃんそういうのぉ〜。いや〜ん、TOKIOの山口くん系じゃない?言われない??」
「あ〜、高校のときに言われたかも」
「やっぱりぃ!似てるぅ〜!」
「そ?俺は長瀬って言われたほうが数倍うれしいけど?」
「え〜?そりゃ長瀬くんもかっこいいけどさぁ〜」

(よくしゃべるな〜コイツ・・・)

俺はちょっと辟易って感じなんだけど、大人しい性格の鞠ちゃんはこれくらいしゃべってくれるタイプのほうがかえって楽なのか、 嬉しそうにそのしゃべりを聞いている。
まぁ、鞠ちゃんが楽しいならそんでいいんだけどさ。

少しの間3人で話した後、ミーちゃんが

「ちょっとあたしトイレ行って来るね〜またね、大和くん!」

と席を立った。

「ぉ〜、スッキリしてきて〜」
「あはは!大和くんマジウケる!」

ケタケタケタ、と明るくミーちゃんが去った後、俺は鞠ちゃんの横に腰掛けて「楽しそうね〜」と言ってみた。
すると

「うん、なんか同い年の女の子と話したのって久しぶりでうれしくって」

と、何だかいつもよりすこし浮かれている。
・・・カワイイじゃねぇか。さっきの"彼氏じゃない"も許す!って感じだ。

「あ〜、バイトで鞠ちゃんがほぼ一緒にいるのって主婦の小山さんだけだもんなぁ、あとはムサイおっさんばっか」
「あはは、小山さんも店長もすごくみんないい人だけどね。ミーちゃん、大和くんの近くの短大に通ってるんだって」
「あ〜、○女?あそこあ〜いう派手な子多いもんな〜」
「だから大和くんの大学の人とはしょっちゅうコンパする、顔知ってるかも〜って」
「いやいや、俺の大学何人いると思ってんの?現に初対面だったし」
「そうみたいだね」

いつも以上にくだけた表情でこっちを見つめてくるのが嬉しくて、ちょっとからかってみたくなった。

「それよか"彼氏"、だって」
「え?」
「彼氏!だって」

途端に下を向いて俺の視線から逃れようとするのを、むりくり顔を覗き込んで見つめる。

「どうします?もう否定しないでこのまま言っちゃったら?彼氏で〜すって」
「・・・」

また黙って顔を赤くするのをじ〜っと見つめて、

「俺は、否定しないからね、彼女?って聞かれても。さて、もう1時間は波待ちするからそれからメシにしよ〜」

そう言い捨てて、俺はまた海へ戻っていった。
後ろは振り返らなかったけど、彼女はきっと俯いたままだろう。

(もうあと一押し・・・いや、半押しだな)

この恋は少し、少しだけゆっくり責めよう。なぜかそんな気持ちが俺には働いていた。


 **************************************************


去っていく大和くんの後姿。
広くて浅黒い背中が遠ざかっていくのを、ぼ〜っと眺めていた。

(大和くんが、彼氏・・・)

それまでそんなことはない、と否定してきたけれど、ここにこうして来てみるとなんだかそれがすごく誇らしいことのように感じられる。
それくらい、大和くんは海が似合う。

(毎日来てると似合うようになるものなのかな?すごく、かっこよく見えるや・・・)

来るまでだってお弁当を作ろうと思ったくらいだから・・・気になる存在ではあったけれど。
バイトのときとはまた違う雰囲気に、いつも以上にドキドキしていた。
日に焼けて締まった体を見てしまったせいだろうか・・・。

けれどミーちゃんが戻ってきて「マリちゃんの彼氏マジヤバイ!ちょ〜いい!」を連発するところを見ると、そう感じるのはどうも鞠だけではないらしい。

「彼氏じゃ、ないんだけど・・・」

本日10度目の"彼氏じゃない"発言。するとミーちゃんは

「何でよ〜?いい雰囲気だったじゃん! まだコクられてないのぉ?」

と呆れたように言った。
いい雰囲気、と言われ頬が少し熱くなるのを感じた。

「ううん。好き・・・とかはしょっちゅう言われてるんだけど・・・」

彼のアプローチはあっけらかんと、まるでお天気の会話のように気軽に降って来るので意識はしないで済んでいるけれど。

「んじゃ問題ないじゃん!もったいないよ〜あんなかっこいいの!」
「うん・・・」
「まぁでも。踏ん切りつかないのもわかるかな〜? モテそうだもんねぇ〜」

(う・・・。その通りかも)

「・・・そうなの」
「わかるよ〜!あんだけかっこいいと不安じゃない?一緒にいてさ」

胸の奥がドキリ、とする。
本音の部分をはっきり見透かされて、そしてアイラインで囲まれた瞳の奥から素直でまっすぐな光が届いてきて、 吸い込まれるようにポロポロと本音がこぼれた。

「すごく、心配なの。なんか、遊ばれちゃってるだけじゃないかって・・・」
「そ〜だよねぇ!また話も上手いもん!女慣れしてるっていうかさ、あれは相当昔からモテてたよ!」
「・・・ちょっと話しただけなのに分、かるの?」

ミーちゃんはうんうん、とかなり強めにうなずいた。

「わかるよ!なんかヨユーだもん!こっちが、手の上で転がされちゃってる感じ?」
「余裕・・・うん、そうだね、すごく、余裕ある」

鞠がどんな反応をしても、その場を笑顔に変えてくれる。
そういう人だから一緒に海に来れた。
けれど小さなことでいちいち恥ずかしがったりしている自分は、いつか飽きられてしまうんじゃないか・・・
そんな不安が常に鞠に付きまとっていた。

「あたしだって今まで彼氏いたから経験ゼロってわけじゃないしぃ?
 それに今の彼氏大好き!だから、そんな簡単にはなびかないつもり。
 けどあんなカッコ良くてヨユーで会話されちゃうとさぁ、なんかホロッていっちゃいそう〜」
「・・・うん」
「あ、でも心配しないでねぇ? あたし人の彼氏に手出したりしないから!」

ばばば、と顔が自分でもそれとわかるほど真っ赤になった。

(あぁ、またやっちゃってる。こんなんじゃまた嫌われちゃう・・・)

落ち込んでいく気持ち。更に煽られる不安。
けれどミーちゃんはそんな鞠の気持ちごと全部を、カラカラと笑い飛ばした。

「マリちゃんってさっきからいちいち真っ赤になって、マジカワイイよね〜」
「・・・あ・・・」

(この子、私が顔赤くても全然怒ったりしないんだ・・・イヤがったりしないんだ・・・)

ホッとした。
そして心の奥底にずっとわだかまり絡み付いていた不安が、ミーちゃんの笑い声で少しだけ取り払われたような気がした。
中学以来ずっと忘れていた、もしくは家族や店長といった年上の人にしかできなかった、"素直に人に気持ちを話す"ということ。

(今日初めて会ったし、名前しか知らないけどこの子なら・・・平気かもしれない)

それでも頬が染まってしまったことが恥ずかしくて下を向いていると、ミーちゃんが肩をポンポンと優しく叩いてくれた。

「でもさ、いんじゃない?そういうのも?」

にんまり笑い、海を見つめる視線が優しくて温かい。その先にはきっと、彼がいるのだろう。

「あたしの彼氏もさ、まーまーかっこいいんだよ?だから心配だけど。好きだもん、しょーがないよ」
「しょーがないの?」
「だって好きなんだも〜ん!浮気もされたしイヤなこともあったけど、好きなんだもん!」
「・・・そっか」

好きだから、許せる。
簡単にそう言うけれど、きっといろんなことがあったのだろう。
ミーちゃんの言葉にはそういう重さがあった。

「そうだよ〜!惚れちゃったほうが負けだって!あでも、ちゃんと向こうから謝るまでは許さないけどね。
 ところでマリちゃんってさぁ、相当テレやだね。」
「え?」
「彼氏のことまともに見れてなくない?せっかく心配して戻ってきてくれた感じだったのに、あたしのほうばっか見てたよ?」

え・・・あれは、心配して戻ってきてくれたんだ。

全然気がつかなかった。
でも、よく考えればそうだよね。
海から見てて、急に知らない女の子が横に座ってたらビックリするよね。
ミーちゃんは初対面なのに、すぐにそれが分かったんだ。すごいな・・・。

そう考えていた鞠は、ミーちゃんから見るとぼんやりと呆けているように思えたらしい。

「ちょっとー。聞いてるぅ?」

肩を揺さぶられてハッと我に返った。

「だって・・・えっと。その。裸、だし」

遠目からなら何とか耐えられるんだけど、近くだとちょっと・・・どこに視点を置いていいか迷う。

「え〜〜〜?!!裸って言ったって下はいてるじゃん!」
「そ、そうなんだけど!」

子供っぽいことを言っているのは自分でも分かってるつもりだ。
けれど・・・

「・・・恥ずかしい、見れないよ」

ぽつんと呟く鞠に、ミーちゃんはぷーー!と吹き出した。

「マリちゃんって超ピュア〜!ねね、メルアド教えてよ?また会お?」

 

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