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鞠 9

家に帰った後も、体の奥にはまだズキズキと彼からの刺激が残っているようだった。

(やっぱり、痛かった・・・)

今日あった様々な事を家族の誰に言えるわけでもなく、一人部屋で思いだす。
思い出すたびに、自分の体を全てさらけ出した行為に身が縮む思いがするものの。

彼が・・・果てるのを感じることができた。
荒い息を吐き夢中になって声を上げていた大和くんを不思議なほどとても愛おしく感じて、それがとても幸せな気持ちに繋がっていく。
終わった後も、鞠が動けるまで腕枕をし髪を撫でずっと抱いていてくれた。
好きだから、大事にするから、と繰り返し言うその優しさが嬉しくて、その胸に顔をうずめ泣いてしまった。

日焼けと涙でグチャグチャになった頬は少し赤く腫れ、それを見た母親はすぐに化粧水を含ませたコットンを持って走ってきた。

「もう、肌弱いんだからちゃんと日焼け止め塗りなさいって言ったでしょ!」
「塗ったんだけど・・・ごめんなさい」

鞠は子供の頃から肌が弱く、子供の頃は日焼けをするとまるで火傷のように赤く腫れることが多かった。
大人になりずいぶんマシになったものの母親は気が気ではないらしい。

「もうちょっと仕事のことを考えなさい。人前に出る仕事なんだから」

そう言って、自分が使っている保湿効果の高い化粧水とパックをくれて「今日はお風呂入ったあとこれ使うのよ」と言った。
赤く腫れた原因が日焼けだけではないと分かっても、あえて何があったかは聞かないようにしているみたいだ。
使った弁当箱は洗ってふせておいてね、とだけ言い残すと自分の部屋に戻っていった。

お風呂に入り、少しぎこちない足取りで自分の部屋に戻る。
目と鼻と口のところだけ穴の開いた顔型の紙に化粧水をたっぷり含ませ、それを顔に乗せて馴染ませると、 ベッドに寝転びながら携帯をチェックした。 海で会いメルアドを交換したミーちゃんと、大和くんからメールが来ている。


ミーちゃんですなんですぐ帰っちゃったの〜さみしかったよ!

海に戻るとき車ですれ違ったんだよ〜気がついた?

彼氏はよくサーフィンしに来るの?また会えるといいなぁ

マリちゃんと話してると中学とか高校んとき戻ったみたいで、すごい楽しかった!

彼氏抜きでもまた会いたいです、今度、バイト先のぞきに行こうかなぁじゃあね

みく



(みくちゃんって言うんだ・・・カワイイ名前)

すぐに返信を打ち始めた。


ごめんね。あの後、ちょっといろいろあって、先に帰っちゃいました

私もお昼からまた話せるって思ってたからさみしかった

みくちゃんって言うんだね、すごく可愛い名前

私もまた会いたいです。バイトは、火曜日以外の昼間ならいつもいるよ

会いに来てくれたらすごくうれしいです ☆鞠☆



それから、ドキドキしながら大和くんのメールを読んだ。


> もう体は落ち着いた?ごめんね、今日はあそこまでするつもり、本当になかったんだけど。

鞠が可愛すぎてガマンききませんでした。反省してます

でも後悔はしてないぞ!いつかはああしたいと思ってたからね。ちょっと早くなっただけの話じゃ〜!

今度いつ会える?ってがんばって時間作らなきゃいけないのは俺のほうかもしんない

あ〜でも早く会いたい!時間できそうなら、またする!

そんでダメなときはするから、必ずとってな!

でないと俺、嫉妬に狂いそう・・・



(なんで電話取らないだけで嫉妬するんだろう・・・?)

不思議に思いながら、メールの返信をしようとキーを押したとした瞬間に着信したらしく、 呼び出し音もならないまま、大和くんの「まりぃ〜!!!」という声が聞こえてきた。

「あっ、もしもし?大和くん?」

慌てて返事をすると、

「トゥルルル〜、も言わずに電話とるなんてやっぱ愛の力がスゴクね?」

と受話口から大和くんの嬉しそうな声が聞こえた。

「違うの、今ちょうど大和くんからのメールに返信しようとして、それで・・・」
「それ言うなよー!今気持ち盛り上げてんだからさ〜」
「あっ・・・ごめん」
「でもまぁ、俺へのメールだったんならいいか。何してたの?」
「さっき、ミーちゃんからもメール来てて。また会いたいって。それでね・・・」
「で。俺のより先に返事返したの?」
「うん、先に来てたから」
「へぇ〜・・・」

彼のトーンが下がったのを感じて、何かマズイことをしたかと考えを巡らせた。
が、何も思い当たる節はない。

「え、なに?」
「俺は鞠を家に送ってからも〜鞠のことしか考えらんなくってすぐにメールしたのに、ミーちゃんのほうが先ですか・・・あ〜っそ。」
「そんなこと言われても・・・」
「今だっていつまでたっても返事来ないからしびれ切らして電話したのに・・・あ〜そう、鞠はその程度しか俺のこと好きじゃないんだ、ふ〜ん」

(もしかして、ヤキモチ?ミーちゃんに?)

鞠は内心吹き出した。
帰る道すがらも大和は、離れたくない学校に行きたくないと散々ごねて、こんな風にスネた口をきいていた。

「そんなことないよ!大和くんのこと!・・・いっぱい、好き」
「ん?聞こえな〜い?もう一度お願いします」
「いっぱい・・・好き」

何故か車中の会話の途中から、大和がごねるたびに鞠は「大和が好き」と言わなければいけないことになってしまっていた。
言わないと更にゴネてしまうので、仕方なく従う。
嘘をつくわけではないのでいいのだけれど、声に出して言うのはまだかなり恥ずかしい。

「もう一回!」
「もうやだよ〜!」
「なんでよ〜」

本当にスネたみたいに話してくる。
口を尖らせているのが想像できるようで口元がふふ、と緩んでしまう。

「だーめ、もう一回言ってくんなきゃ俺、ヒカルの過去の恥ずかしい話いっぱいするから」

奥から、なんで俺のなんだよ、という声が聞こえとうとう、ぷっ、と吹き出してしまった。

「青木くんもいるの?」
「うん。今大学からかけてんの。えらいでしょ俺。こんな時間まで大学来てお勉強してんだぜ」
「そうだったんだ・・・おつかれさま。え、じゃあ今の私の言ったこともしかして青木くんに聞こえてたの?」
「ん?な〜にがぁ?」
「・・・なんでもない」
「なんだよ〜、言ってよ〜」

だんだん悪ノリしてきた大和くんを、青木くんが何か言ってたしなめたらしい。
わ〜ったよ、女がいないやつはヒガんじゃってうるさいわ〜・・・、という声が聞こえる。

「さて、ヒカルがうるせーから勉強に戻るわ。鞠元気そうだしよかった」
「あ・・・うん、だいじょうぶ。電話ありがとう」
「いえいえ。で、"くん"はもういらねぇから。んじゃまたメールするわ、おやすみ〜」
「うん、大和・・・。おやすみなさい」

(そうだ、『くん付けだと距離感じるから禁止』だったっけ・・・
 心配して電話してくれたんだ・・・それにちょっと、ホントにやきもち妬いてた?)

クスッと笑って携帯を充電器にさし、パックを外した。
髪を乾かし、まだ寝る時間でもないのに布団にもぐってみる。
けれど大和、と大和が今日自分にしてくれた全てのことで頭の中はいっぱいで、その夜はなかなか、寝付けなかった。

 

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