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鞠 19




「え〜と、これ田舎で親父が作ってる米です。それとこれはお菓子です。みなさんでどうぞ」
「あら〜〜!!そんなにたくさん!ごめんなさいねぇ、そんな気を使わせてしまって」
「いえ、米はいつも余るんで食べてもらえるとこっちがありがたいくらいで。どこに置いたらいいですか?」

1月5日のお昼過ぎに、大和が家に来た。
昨日は実家に帰っていたからと一俵分のお米をかついできたので、すごくビックリしてしまった。

「そうねぇ、えと、じゃあとりあえず廊下にでも」
「あー、はい」

慌てふためく母親が指差した階段横のスペースに、どさっ、と無造作に降ろされた大きすぎる茶色の袋。
「かなり重いんで、またいい場所見つかったら運びます」
大和が持っているときはそんなに重そうに見えなかったのは、きっと運び慣れているからだろう。

「お父さんは農業をされているの?」
「いや。今は自分たちで食う分くらいで」
「そうなの〜、買うと高いのよ?こんな量。ありがたいけど本当に申し訳ないわ」

家で聞く母親のよそ行きの声が、何だかウキウキして聞こえる。

「そうっすね、一人暮らししてスーパー行ったときあんまりにも高くてビビりました。俺にとっては米はタダと同じだったんで」
「うふふ、うらやましい話!ね、お父さん」

さりげなく母親が、それまで黙っていた父に話を振った。
それに対して"今気がついた"ように「あぁ。そうだなぁ」と顔を上げる父。
本当は一週間くらい前からそわそわしてたのに、格好つけちゃって、もう…。

「君のお父さんはもう働いていないのかい?」
「はい、3年前に定年退職して今は米と野菜作るのが生き甲斐で。母親はパートに出てますけど」
「君は今大学生なんだって?」

君は、だってぇ。と姉が茶化すのも聞こえないふりの父。
「え〜っと、研究生です。教授の下に1年ついて、研究したり手伝いしたりしてます」
姉の発言に苦笑いし、それからちらりと鞠を見た視線は少し迷った様に見えた、気がした。

「今年の2月に研究発表して一応終える予定で。そうしたら地元帰って農協に勤めます」
「え?大和就職決まったの??」
「うん、親父が世話してくれて。4月からは農協の営業マン!」
「聞いてなかった・・・」
「ごめん、ちゃんと決まってから言おうと思ってて。何のかんの言ってもやっぱコネで入ったようなもんだから恥ずかしくて」

悪ぃわりぃ、って軽い感じで謝られる。
鞠も家族の手前そこまで拗ねるわけにもいかず黙ってやり過ごした。

(もう、大事なコトはいつも後回しなんだから)




大和はソファに座って父親のお酒の相手をしている。
父親の、酔いが回るにつれて話の中身が難しくなっていくところが鞠は少し苦手だが、大和はそうでもないらしく普通に返答している。

そのうち甥っ子の惣ちゃんを近くに呼び寄せて一緒に遊びだした。
もうすぐ5歳になる惣ちゃんは、男の人が遊んでくれるのがやっぱりうれしいみたいですぐに夢中になっている。

「これ、ひこうき、かっこいーでしょ?」
「おう、かっこいい。貸して」
「やだ」
「ケチだなお前〜、どうやって遊ぶの?」

大和と惣ちゃんがおもちゃの飛行機の取り合いをして遊んでいるのをダイニングテーブルで眺めていると、
姉がつつ・・・と寄ってきた。「あんたって面食いだったのねぇ。えらいいい男ね」とにやにや。

(言うと、思った…)

「別に、カッコイイから選んだわけじゃないよ」
「でも好きでしょ?あれを抜きにはできないはず。お父さんも気に入ってるみたいだしよかったじゃない」

そこに母親も加わってきた。

「イケメン、よねぇ。お母さんも驚いちゃった」
「あ、お母さんもあぁいうのタイプ?」
「う〜ん、お母さんはもっと真面目そうな人がいいけどなぁ」

今日の大和の服装はグリーンがかったブルー、水色、濃紺のチェック柄のシャツにブラックデニムのパンツ。
カジュアルだけどくだけ過ぎてはいなくて、いつもの服装より落ち着いて見えるし、きっと当人もそのつもりでいるはず。
けれど、大和から醸し出される"チャラそうな"雰囲気はどうしても伝わってしまうのだろう。

でも、あれだけ緊張すると言っていた割に人懐こく鞠の家族と話す様子からはそんなことを微塵も感じさせはしないところはすごい。
本番に強いタイプってきっと大和みたいな人のことを言うのだろうな、と鞠は思った。

「何それ?つまんないー」
「つまんなくないわよ、真面目な人が一番」
「はいはい、お父さんみたいな人が、一番ですよねー?」
「当然です」
「あーっ、もう、やんなっちゃうわラブラブ夫婦め」

冗談ではなくて、半ば本気でそう言っている母親に対して姉は肩をすくめあきれ顔。

「さて、惣ちゃんそろそろおいとましよっか〜?」



名残惜しそうな惣ちゃんに大和が「また絶対、遊ぼうな」と約束してくれて。
姉と惣ちゃんは家に帰って行った。
その後父親と鞠の3人で談笑していると、大和がちょっと眉間にシワを寄せた。
そして鞠のほうをまた、ちらっと見る。ここにきて、初めて緊張したような感じを見せるので鞠が不思議に感じていると。

「ちょっと、お話が・・・」
「ん、なんだい?」

父親もその雰囲気に少し構えの姿勢を見せた。

「今、すぐではないんですけど。あとこれは俺だけの意見で、彼女にはまだ聞いていないことなんですけど。
 いつか、鞠さんをお嫁にもらえたらって考えてます」
「えぇ??!!」

鞠は思わず大声を出してしまった。

「俺もちょっといろいろ考えて、せっかく挨拶に来させていただいたんだし仕事も決まったので、
 ちゃんとハッキリさせるべきかなって思って。本当に、すぐではないんです。ただそういう気持ちでいるってことをお伝えしたくて」

…シン…と静まりかえった部屋で、父親が言った。

「判ったよ。鞠、お前の問題だ。ちゃんと考えてお返事しなさい」
「・・・は、い・・・」

(結婚って・・・)

 

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