NOVEL TOP

輝 13

篠塚の事件から一週間くらいたって、ミーちゃんから電話がかかってきた。
大学と短大の中間にある、俺からしたら随分値段の張るレストランに呼び出され「今日はヒカルくんのおごり!」とフルコースで注文され。
「ちょっとぉ〜、髪の毛乱れてんじゃんっ」
周囲の目線をものともせず、俺の頭をぐりぐりにいじくりこんなもんかな、と。
一体何がどう変わったのか全然わからないけど…。

「ちゃんと普段もセットしてるのぉ?」
「…してるよ」
「ホントにぃ?」

嘘だ。今日慌ててシャワー浴びて、それなりにいじくってきただけ。
セットするのはいいんだけど徹夜した次の日とか変にベタベタして扱いが面倒で、つい億劫になってしまう。

「ま、それはそーと…どーゆーことぉ?マリちゃんも詳しい話聞いてないって言うし、気になっちゃって仕方ないじゃん!」
「いや、まぁ・・・」
「私はごまかされないよ〜〜。吐けぇ!!」

…確かにごまかせるとは思ってなかったけれど、呼び出しをくらうほどとは思ってなかった。

「鞠ちゃんには言わないと約束できる?」
「なにそれ。話によるけど」
「なるべく言わないであげてほしいんだ。それが大和の方針というか、気持ちだから」

ギロッ、と見上げてきた目が相変わらず真っ黒に縁どられていて余計にビビる。

「だいたい何で、大和くんが篠塚くんの恋愛ザタと関係があんの?二股?」
「いや、違うんだ。実は・・・」

俺は仕方なく、本当のことを話した。
ミーちゃんは「えぇ?!!」と「マジでぇ?!!」を予想通りの言葉を連発しながら聞いてくれた。

「それじゃ、本当にヤバかったのはマリちゃんってことじゃん!!」
「そうなんだ。だから、大和もこのまま黙っておきたいって思ってるみたいで」

ほぇ〜。
感嘆なのかため息なのか分からない声を出して、ミーちゃんはようやく背もたれに背中をストン、と預けた。
「絶対モテるとは思ってたけど。大変だぁ〜、大和くん」
カッコいいってゆーのも罪よねぇ、などと一人頷いている。

「マリちゃんには言わないでくれる?」
「わかったぁ・・・でもその女、また狙ってくるかもよぉ?」
「大和の話によると反省はしてたって言うんだけど、俺も何だか心配で」

なんたって今も同じ大学に通っているし、研究室だって柵がしてあるわけじゃない。
会おうと思ったらいつだって会いに来れる。
何というか…あとは彼女の、五十嵐さんの良心の問題だ。

「だよねぇ。でも女は怖いよぉ〜?」
「そうだね・・・」

目の前の料理をパクパク平らげるミーちゃんを見ながら、俺はしみじみそう言った。

「なに?今のはどうみてもあたしを見て言ってたけどぉ?」
「い、いや。大学の子も、さ・・・」

慌てて話題を変えた。

「大学の子?あ、イメチェンしてからなんか変化あった?」
「前より声をかけてもらえるようにはなったけど、怖くて」
「あぁ、目でしょ?獲物を狙う目」

ミーちゃんはわざと目をギョロっとさせてヒカルを見つめて、それからにま〜っと笑った。

「・・・そう、かな?」
「急にターゲットに入れられちゃったんだねー。大変!」

あひゃひゃひゃ!明るい笑い声が響く。
「他人事みたいに言うなよ」と言うとますます声をあげて笑った。くそ、完全に楽しんでるな…。

「別に普通に話せばいいじゃ〜ん。大丈夫だよ、すぐに取って食いやしないって」
「まぁ、そうだろうけどさ・・・」

こっちは免疫ないんだから、対応に困る。
そう言うと、ミーちゃんは「違うね、それは」と妙にきっぱりと言い切った。

「何が違う?」
「だって、私と話してるみたいにすればいいじゃん?要はさぁ、マリちゃんと同じ位置に置こうとするから困るんでしょ?」
「・・・マリちゃんと同じ位置?」

じわり、と嫌な汗が出る。また話が好まない方向へそれていくのを感じる。

「あのねー、ごまかしたってムダ。ヒカルくんがマリちゃんを好きなのはぁ、飲みのときあの場にいたマリちゃん以外全っ員!分かってんの」
「・・・」
「マリちゃんの代わりを探そうとするからしんどいんだよ〜」
「う…」

言われること全てがおっしゃる通りで、ぐうの音も出ない。
「・・・・・・鋭いな、ミーちゃん」
というか皆が分かってたって、俺、そんなに分かりやすいんだろうか。

「ヒカルくんが分かりやすいんだよぉ。私に対してとマリちゃんに対して、全然態度違うよ?」
「うっ。ごめん・・・」
「まぁ別にそれは構わないんだけど。いまんとこマリちゃんは大和くんのことしか見てないし?大和くんも超ラブラブじゃん?勝ち目ないよね〜」

勝ち目・・・。確かにそんなものは最初っから、ない。
というよりそんなことを求めているのなら他の子を探すべきなんだろうけど―――。

「結婚したいとまで言ってたからね」
「結婚?!なんでまた?」
「…すごい、妬いちゃうからだって」
「あははははは!!!大和くん超ウケる〜〜〜!!」

机をバタバタ叩き、ケタケタ笑うミーちゃんを周囲の客がちらちら見てくるので
「本人は至って真剣だよ」
視線だけでちょっといなすと、へへ、と何も悪びれることなく笑ってごまかした。

「それが面白いんじゃん?どんだけハマってんの〜〜もう。でもさぁ、ヒカルくんはそんでいいのぉ?」
「まぁ、二人が幸せならそれで・・・」
「えぇー?!そんなの絶対ウソ!自分のほうにふり向かせたいとか思ってないのぉ?」

どうなんだろうか。
自分でも答えはまだ、見つけられていない。ただ…

「二人を引き裂いてまでとは、思えないよ」
「まぁねぇ・・・それは心苦しいよねぇ」

カラン、とグラスの中の氷が溶ける。
こちらの会話が落ち着くのを待っていたかのようにウェイターが「デザートでございます」とミーちゃんの前に皿を置く。

ふと自分の皿を見ると、まだ半分ほどトマトソースに絡まったパスタが残っていた。
フルコースで頼んで今デザートを食ってるミーちゃんに対し、俺のはこのトマトソースの魚介パスタのみ。
思ってたよりも脂っこい味付けも相まって食欲もあまりわかないけれど、とりあえず食べ進める。

「俺って、そんなに分かりやすい?」
「うん、マリちゃんは分かってないっぽいけど、多分大和くんは気がついてると思うなぁ」

ミーちゃんは上目遣いでそう思わない?と聞いてきた。

「そう、かな?」
「この間私に連絡取ってって動いたこともさ。普通そこまでしないじゃん?友達の彼女だよ?バレバレだって」

確かに行動を起こすのにとても迷った。かなりのおせっかいだと思ったから。
でもどうにも、ガマンできなかったんだよね・・・。

「それにさぁ・・・。大和くん、同じヤキモチでもヒカルくんにはキツイっていうかさぁ〜。
 うまくいえないけど、あれは気がついてるんだと思うよぉ。そんでマリちゃんもヒカルくんになついてるじゃない?」
「なついてるって、犬じゃないんだから・・・」
「マジで心配なのかもよぉ?大和くんも。」

眉根を寄せ険しい表情で、ミーちゃんはヒカルを見た。

「でも、あたしはヒカルくんの方が心配。ひとりで溜めこみそーなんだもん。」
「じゃあ。たまにメシ付き合ってくれる?」
「おごってくれる?」
「そのデザートとコーヒー分くらいなら、いつでも」
「OK!いつでも言ってきて。話聞くよ〜〜」

にっ、と笑う。
ちゃっかりしてるなぁと思う反面、面倒見のいい姉御肌の彼女にヒカルはいつの間にかすっかり気を許している。

「ありがとう。ミーちゃんと話してると、女の子と話してる気がしない」
「それ誉めてるのぉ?まぁ私も男と話してる気してないけど。あたしの話も聞いてねぇ」
「いいよ」
「じゃあ、早速。 彼氏最近冷たいんだよね〜、何でだと思う?」
「俺みたいなのを職場に連れてってカットさせるからじゃないの?」
「・・・やっぱ怒ってんのかな?」
「俺にちょっとぐちってた」
「やっぱり?」



(メルアド交換したの、内緒にしといたのは正解だったかもなぁ・・・)

ミーちゃんと別れた後大学に戻り、胸やけしたところにペットボトルの緑茶を無理やり流し込んだ。

あれからちょこちょこと、マリちゃんとはメールの交換をしている。
大和の様子をメールしたり、マンガではないが面白い本を見つけて貸したりしている。
そのときは部屋のノブにかけておいて取りにきてもらったのだが、大和はまだ気がついていないみたいで何も言ってこない。

そのうち彼女のほうもなんとなく、大和のことであれこれヒカルに意見を求めてくるようになった。
今のところ、それだけでヒカルはじゅうぶん幸せなのでこれ以上望むことはない。
妄想は相変わらず、だけど以前よりは落ち着いてきた・・・見ているだけだった頃と比べたら、今の状況は俺にとってはMAXに近い。

『俺ら、結婚したらどーなるかな?』という相談を受けたときは焦ったけれど、二人のことを邪魔するつもりはない。
『そうなったらいいね』と言ったのは本心からだった。
大和の中に鞠ちゃんの意思が入れられていないのは少し気になったけれど、鞠ちゃんにしても断る理由がないように思えた。
  

 

BACK  NEXT  NOVEL TOP  




Icon by web*citron  Background by Abundant Shine  Designed by 天奇屋