「けっこう歩いたね〜」
「何か疲れたな。コーヒーでも飲むか?」
「うん、カフェ探そ」
(確かさっき、可愛いお店があったんだよね。どこだったかなぁ…)
来た道を振り返りながら思い返している間、大和は携帯をチェックしていたらしい。
「うげっ、教授から着信の嵐っ」
という声で振り返ると、苦い顔をした大和が「ちょっと待ってて」と言い鞠から少し離れて電話をかけ始めた。
教授からの電話、は一緒にいるとよくあることで、鞠も最初は気にしてなかった。
「もしも・・・はあっ?警察?!」
(え、警察?)
「篠塚が?!大丈夫なんですか??………はい、すぐ戻ります!」
聞くとはなしに耳に入ってきた内容に驚き、更に大和がその場に座り込んでしまったので慌てて駆け寄る。
「どうしたの?大和、大丈夫?」
なにかあったの?と聞こうとするより先に、大和のほうが矢継ぎ早に話し始める。
「・・・篠塚が、女の子に刺されたらしい」
「えっ?!ケガしてるの?」
「いや、たいしたことないらしいんだけど・・・今すぐ戻るわ!」
何があったのかはまるで分からない。
けれど血相を変えた大和がとにかく大学に戻りたがっていることだけは分かったので、鞠は大和に一人で帰るから大丈夫だと告げた。
「いいのか?」
「うん、急いだほうがいいんでしょ?」
一瞬、目元が優しくなったように感じた。
手がマリの頬にかかり(え、もしかして…)と予感したのと同時に頬に唇が落ちてきた。
(……!!)
「悪ぃな、そうさせてもらうわ。夜に電話する」
まさか道端でキスをされるとは思わなかった…。
大和が走り去るのを見送り、恥ずかしさを振り切るように来た道を戻る。
(一体何があったんだろう?)
篠塚くんが女の子に刺されて、なんで大和が呼び出されるんだろう。
しかも、警察って言ってた・・・
周囲の事が目に入らないくらい動揺しているように見えた大和が心配だった。
乱暴な運転をして事故とかにならなきゃいいけれど…。
ただ駐車場までの直線の道を走っていった大和の姿があっという間に見えなくなったことに、妙に感心もした。
思い立ったら何でも早いのは、さすがだよね。
(夜、詳しいこと教えてもらえるのかな・・・)
とりあえず、バスの時間を確認しよう。
そう思いターミナルまで行ってみると、次のバスまで1時間ほど時間がある。
(せっかくだし、大和へのプレゼント買っちゃおうかな)
そぞろに歩きながら「これいいな」と大和が言っていた通りすがりのお店のショーウィンドウにあったキーチェーン。
シルバーで、鎖部分のデザインが凝っていてベルト通しにひっかけて使うタイプだった。
(どこだったっけ・・・たしか、このへんのお店だったんだけど・・・)
迷ってうろうろ30分ほど歩きまわり、やっとその小さなシルバー専門店を見つけた。
すぐにお店の人を探し、入り口においてあるショーケースの中のキーチェーンを指差した。
「あの、これください」
「贈り物ですか〜?」
「はい」
店員さんは黒いタンクトップを着て、腕にたくさんタトゥーの入ったムキムキのおじさんだった。
そんなおじさんがレジカウンターの裏側からパステルブルーとピンクの包装紙を2枚出してきて「どっちがいい?」と聞いてきた。
「あ・・・ブルーのほうで」
「はいよ〜、ちょっと待っててね」
そういっておじさんはチーチェーンを小さい箱におさめると器用に包装しだした。
慣れた手つきだけど、ごつい腕や指先やタトゥーにはそれがミスマッチな気がして、マリはちょっと笑ってしまった。
「じゃ、8500円になります。箱代はサービスしてあげる」
「えっ、いいんですか?」
「お嬢ちゃんみたいに可愛いお客さんは久しぶりだからね。いつもは鼻にピアスしてるのやら口にピアスしてるのやらしか来ないから」
「あはは」
「はい、おつりと商品」
「ありがとうございました!」
「また来てね〜」
(なんか、見た目よりすごくいい人だったな)
店長さんだったのかな?
かなり使い込んだデニムのエプロンをしていたし、自分で商品を作ってる感じがしたな。
(これもおじさんの手作りなのかなぁ)
小さい手提げ袋に入れられたプレゼントを大事に抱えながら、マリはターミナルまで急いだ。
どうにか乗ろうとしていたバスに間に合い、空いた車内で揺られながら大和からの連絡はないかな?と携帯を見る。
(ミーちゃんから着信がある。何だろう?)
今日は彼氏と久々にデートだってうれしそうに言ってたはずだけど・・・
とりあえずバスの中なのでメールをしてみよう、とメールボタンを押した途端に画面が切り替わり"新着メール 一件"の文字が浮かび上がる。
知らないアドレスからだった。
(誰だろう…)
元々メールをやりとりする相手も少ないし、もしかして迷惑メール?と思ったけれど。
よく見ると長いメルアドの文字列の中に"saru.luffy"とある。
(さる……ル、フィ…?ワンピースの、ルフィ?)
もしかして、とそのメールを開く。
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ヒカルです。突然ごめんね。メルアドはミーちゃんから聞きました。 篠塚のことで大和が興奮して戻ってきたから、もしかしたらどこかで置き去りにされていないかなと思って ![]() ああいうときの大和の勢いはすさまじいから・・・振り落とされてやしないかと心配で。 詳しいことは僕の口からは話せないけれど、心配することはないよ。篠塚はケガもたいしたことないらしいし。 ところでお母さん、いい人だったでしょ?俺も子供のときよくしてもらった覚えがある ![]() お父さんはガンコで大和そっくりだけど、とても頼りになるいいおじさんなんだ。 また、みんなで飲みに行きましょう! ![]() |
(やっぱりヒカルくんだ・・・)
わざわざメルアド聞いてまでメールくれたんだ。
やっぱり、すごくいい人だ。
もしかしてミーちゃんもそのために電話してきてくれたのかな?
(みんな、優しいな・・・)
心がジンと熱くなって、持っていた携帯をぎゅっと抱きしめた。
早くメールの返信をしなくちゃいけないけれど…
どうしよう、すごく嬉しくて、涙が出そう。
(友達になってくれて、ありがとう…)
結局バスの中では嬉しい気持ちが溢れすぎて言葉にならなくて、結局バスを降りてからミーちゃんに電話をした。
「もしもし、ミーちゃん?」
何コールかした後に「あ、マリちゃん?今どこぉ?」といつもの明るい声が響く。
「バス降りて、家に帰るところ。ごめんね、なんか心配かけたみたいで」
「ううん〜、私は事情もよくわかんないしさぁ」
「うん、私も何が何だか・・・」
電話の向こうで、えっ、と驚く声。
「マリちゃんもぉ?もー、今度ヒカルくん問い詰めてやる!次会うときはおごってもらわなきゃね」
女を振り回すなんて、等々呟く声が聞こえて、思わずマリのほうが謝っていた。
「ごめんね、デート中だったのに・・・」
「あはは!覚えてたぁ?ほんとヒカルくん空気読まないわ〜。でもマリちゃんが無事に家帰ってるんならそんでいいよー。んじゃねー」
「うん、バイバイ」
ミーちゃんも何にも分かんないのか…ヒカルくんも俺からは言えないって書いてあったし、やっぱり大和からの電話待つしかないかな。
その夜のお風呂上りに大和から電話があった。
「今日はごめんな」
もっと疲れているかと思ったけれど、案外元気そう
。
「ううん、でも本当に、なにがあったの?」
「いや、・・・篠塚が元彼女とちゃんと切れてなかったみたいですったもんだと・・・」
「でもなんでそれで大和が呼び戻されるの?」
「うんまぁそれは・・・いろいろ。一応同級生だし?」
何故かあまり話したくなさそうな大和に、マリも無理には聞くことができなかった。
「そっか・・・。篠塚くん大丈夫なの?」
「あぁ、俺もまだ会ってないけど。すぐ学校来れるような状態らしいし大丈夫だよ」
「なら、よかった」
一体、何があったんだろう。
(あ。ヒカルくんからのメール、返事しなきゃ!)
メールありがとう 今さっきやっと、大和と連絡がつきました![]() ヒカルくんの読みどおり、でも私も大和が急いでいる風だったのでそのまま駅からバスで家に帰りました ![]() 詳しいことは大和からも聞けなかったけれど、篠塚くんが大丈夫ならいいです。 心配してくれてありがとう。 すごくうれしかった ヒカルくんには本当に心配かけてばっかりだね![]() ケーキを作ったからヒカルくんにもと思って 今日大和から渡してもらおうと思ったんだけど、まだ手元にあります ![]() 明日部屋のドアノブにかけておくので、よかったら食べてね ![]() ![]() 大和のお母さん!本当に素敵な人で、会えてよかった ![]() ヒカルくんは幼なじみだもんね。お父さんも知っているんだね。私も会ってみたい、大和とそっくりのガンコお父さん ![]() またのみにいきたい ![]() ヒカルくんともいろいろ話したいな。では、おやすみなさい!![]() |
少しして、マリが布団にもぐった頃に返信があった。
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篠塚のことちゃんと話せなくてごめんね。でも大和も悪気があるわけじゃないから。信じてあげて下さい。 ケーキ楽しみにしてます。甘いもの好きなんだ ![]() 大和がさっきから「もらい忘れた〜!ちくしょ〜!」ってうるさくて、 明日ドアノブにかかってるはずだよと言いたいんだけど、またヤキモチをやきそうなので黙ってます ![]() なので、このメールのことは内密に。 俺も、いろいろ話してみたいです。鞠ちゃんとは話が合いそうだし。では、またね、おやすみなさい ![]() |
人柄が伝わってくるような丁寧な文章に、ヒカルくんらしさを感じる。
『ちくしょ〜!』と叫ぶ大和の様子が目に浮かぶようでマリはおかしくて、布団の中でいつまでもクスクス笑った。