…以下、R18表現があります…
レンタルショップについて、家に夕飯がいらなくなったと電話しているとキュッ、と目の前に大和の車が止まった。
最初のときのように手招きをされ、助手席のドアを開け乗り込む。
怒られるのだろうか、と少しだけ身構えてしまった心を見透かされたかのように軽く微笑まれ、
「とりあえずヒカルともう一人は大学戻ったから。7時半に店で待ち合わせだからそれまで部屋にいよ」
とだけ言われた。
レンタルショップから部屋まではクルマで5分ほどの距離。
その間も、部屋に上がっても口数の少ないままの大和が、妙に気になった。
(まだ機嫌が悪いのかな、けれどそんな風にも見えないし・・・)
不安に思っていたら、ふいに目の前に何かを差し出された。
それは、とある有名なネコのキャラクターのぬいぐるみ。
「あ、チャーミー!可愛い!」
「は?チャーミー?」
鞠も好きなキャラクターだったので、思わずそう口に出すと、大和が怪訝な顔をした。
(あ、知らなかったのかな?よく似てるから間違っちゃうのも分かるけど)
「これは、ペットのチャーミーだよ?」
「・・・猫が猫飼ってんのか?」
「そうだけど、でもそういう設定なの」
大和にはちょっとよく分からないみたいだった。
確かに変な設定なんだけど。
「まぁ、いいやこれお前にやるよ」
大和が肩をすくめ、鞠の手のひらにそっとチャーミーを乗せた。
ぬいぐるみ特有のふわふわと柔らかい手触り。
「ホント?」
「うん、つってもコンビニで買ったやつだからたいしたもんじゃないんだけどな」
「ありがとう」
(そういえば、大和からプレゼントをもらうの、初めて)
そう思うと、パッケージから出すのももったいない感じがする。
じっとチャーミーを眺めていると、ふわっと大和の両腕が身体に巻きついてきて、そのまま抱きしめられた。
「鞠、ごめん・・・」
「え?」
耳元で聞こえた思わず聞き返してしまうほどの小さな声。
「俺妬いてばっかで、なんか悪りぃって思って」
「・・・」
「最初浮気しないでって泣いたのは鞠だったけど、今は俺が泣きそう」
「大和・・・」
急だったし驚いたけれど、大和の腕の中にいるのは好きなので、胸にそっと額をすり寄せた。
とくん、とくん、って大和の鼓動が聞こえてくる。
(あったかいなぁ・・・)
「今日、髪型違うんだな、いつもと」
「あ・・・うん。長くなったから、アップにできるようになって」
「かわいい」
抱かれている腕の力が強くなる。
チャーミーが、大和の間でつぶされそうになる。
「あ〜〜〜、怖ぇぇ・・・。鞠がどっか持ってかれちゃったらどうしよ、俺」
冗談めかした、でもきっと本音なのかなと思える弱気な声音。
「そんなの、ありえないよ」
顔を見せないようにして話すのもなんだかいつもの大和らしくない。
どうしたのだろう・・・。
「ありえるよ。怖ぇよ。俺、鞠が休みって聞いてめちゃくちゃ想像しちゃったんだ。鞠が他の男と手つないでるのとか、いろいろ」
「・・・」
「そしたらもう怖くてダメだった。だからさっき言いすぎた。鞠は俺のこと考えて黙っててくれたのに。ごめん」
「ううん、私もダメだったの。ミーちゃんと買い物って、ちゃんと言えばよかったのに言わなかったから」
(そうか・・・連絡せずにいると、大和はそんな風に思っちゃうんだ)
大和からこんな風に謝ってくるなんてきっと初めて・・・。
改めて、正直に言って出かければよかったなと鞠は後悔した。
少しだけ腕の力を緩めてもらって、大和の顔を覗き込んだ。
何だか、とても落ち込んでいるというか、悲しそうな顔をしている。
イタズラが過ぎて怒られた小学生の男の子みたいだ。
「それに大和のヤキモチ、イヤじゃないよ」
「・・・」
「大和がヤキモチして怒るたび、大和が私のこと好きだってすごく分かる。
この間のHのときもすごく怖かったけど、でも、大和の気持ち嬉しい。だから平気だよ?」
「うん・・・」
頷いてはくれるものの、大和の考えがあまり変わったようには思えなかった。
(元気、出して)
大和にそんな風に落ち込んで欲しくない。
それに・・・不思議と、大和に激しく妬かれても鞠はそこまで困ったことだとは思っていない部分がある。
強すぎるその気持ちが返って、それまで頑なだった鞠の心を溶かしてくれるようで嬉しい気持ちにもなる。
「私も怖い。大和が学校でどんな生活してるか知らないから。
どんな人と会って、どんなことしゃべって笑ってるのか、知らないから。
でも、大和が好きだって何回も言ってくれたり、抱いてくれたり、ヤキモチやいてくれるとすごくホッとするの。
よかったって。同じ気持ちなんだなって、思うの。だから・・・」
「だから?」
「怖がらなくっていいよ。私も、怖い。一緒だよ」
鞠は大和の首に抱きついた。
つま先を伸ばして、大和の髪を撫でる。軽くセットされた固い髪。
「大和、大好き」
そう、きっと、大好きだから許せてしまうんだと思う。
大和は黙って、鞠をベッドに押し倒してきた。
あわてて押しつぶされそうになる前に身を離し大和の腕の中からすり抜けてチャーミーを机の上に置いた。
そしてベッドの上で寝転んだままの大和の元に戻り、頬をなでる。
「なんだよ〜、俺よりチャーミーかよ〜・・・」
大和が少しブスッとした顔で鞠を見た。
それもまた男の子みたいで可愛くて・・・・・触れたいな、と思った。
そっと、そっと。
恥ずかしい気持ちよりも上回った愛しい感情のままに、初めて自分から大和にキスをした。
大和が最初そうしてくれたように、最初は軽く、二度目は長く・・・
少し乾いた感触の唇。その間から恐る恐る、舌を入れてみる。
最初、慣れたタバコの味がした。
自分の心臓がバクバクと音を立てていることを意識しながら、さらに奥へと忍ばせる。
大和は鞠の唇が触れた瞬間、ピクッと体を緊張させたように思えた。
けれどそのうちに舌はからめとられ、すぐにまたひっくり返されて押しつぶされる。
「んっっ・・・」
お互いの舌を絡めあい吸い付き合う長いキスを終え唇を離し鞠の前髪や顔をなでながら大和が言った。
「あー!!めちゃくちゃにしてー!!」
「めちゃくちゃ・・・?」
「あぁ、めちゃくちゃ!鞠がちゅ〜してくるから・・・、もう、とめらんねぇかも」
そこで、初めて自分の太ももに当たっている大和の、・・・堅いものに気がついた。
(めちゃくちゃって・・・Hするってこと?あとでヒカルくんに会うのに?イヤ・・・ただでさえ恥ずかしいのに!)
堅い感触にそれまで潜んでいた羞恥心がぶり返し、それ以上にその後のことを考えるともう落ち着かなくて慌てて大和を止めた。
「で、でもっ・・・今から、友達と会うんでしょ?」
「まだ、時間ある」
そう言ってキスしてこようとするのを強く押し返す。
「いやだよ、そんなことしたあと大和の友達に・・・ヒカルくんに会うの、恥ずかしい」
「なんでよ?関係ないよそんなん」
への字口。けれどベッドに押し付けてくる腕の力はそれほど強くはない。
「いやだぁ、顔見れなくなっちゃうっ!」
「・・・そんな鞠も見てみたいけど」
「だめ!!」
きっぱり言い切ると、渋々、といった体で大和は鞠を解放した。
強引なように見えるしそういうときもあるけれど、嫉妬しているとき以外であればちゃんと話を聞いてくれるし、案外素直に言うことも聞いてくれる。
鞠のしたいように、と言ってくれる。
「ちゅ〜してくるから、すっかりその気だと思ったのに違うのか」
それに、ちぇ〜、と口で言いながらも実はそれほど怒っていないのが分かる。
分かりやすくはないけれど、大和は優しいと鞠は思う。
(それに・・・)
「うーん、大和が可愛いって思った、から?」
「かわいい??」
心外。
言葉にするとそういう感じなのか、ムクれてしまった。
「うまく、言えないけど・・・。大和があんな反省した顔で謝ってきたの初めてだったからかな」
半分くらいは本気でそう言ったらますますムクれてしまった。
「何だよお前。せっかく人が本気で謝ったっていうのに。やったやつ返せっ」
「やだ、これチャーミーだもん」
「どっちでもいい、猫返せ!」
「やだぁ、さっきくれるって言ったもん。返さないっ」
(だって最初のプレゼントだもん)
あわててチャーミーをカバンにしまった。
「ったく・・・そんなに気に入ったか?」
ムクれ顔が、苦笑いに変わる。「うん」と言うと、完全に笑った。
・・・よかった、元気になってくれたかな。
「あはは!素直だな〜。よかったわ。大事に飼って」
「なんかもったいなくって、パッケージも開けられない」
「は?」
意味が分かっていない大和に、ぎゅっと抱きついた。
「コラ、しないんならくっつくなよ。ガマンしてんのに・・・俺で遊ぶ気か!」
と叱られるまで何度も大和の首に抱きついて心の中で、大好き、と繰り返し言った。