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輝 8

「マリちゃ〜ん、俺に女の子の友達、紹介してよ〜」

焼き鳥屋の、4人がけのテーブル席。
篠塚がライムチューハイを片手に酔ったフリをしながら今日5度目になる懇願をしてる。

「私、友達ってあんまりいないの・・・だから難しいよ、ごめんなさい」
「え〜〜〜、頼むよ〜。伊藤はいいよなー。いつもこんな可愛い子連れてない?お前」
「篠塚。いつも、は余計だ!」

大和はちょっとムッとしながらも軽くいなしている。

――・・・次に仲山さんに会うときは、もっと緊張するかと思ってた。

またこの間みたいになるかも・・・と正直覚悟はしていた。
そんな覚悟をすること自体ものすごく、情けないんだけれど。
けれど二人きりではなくてこれだけにぎやかな場所で、篠塚と大和がずっと間をあけずしゃべってくれているからだろうか。
彼女を目の前にしてもそこまでには至らず、普通の顔で過ごせている、と思う。

その仲山さんは3杯目のカシスソーダを飲みながらニコニコ、篠塚と大和の話を聞いている。
いつもより服装が大人っぽくて目を引いた。
彼女の視界には入らないカウンターに座っている男性客二人が、チラチラこちらを伺うように見ているのが分かる。

(これじゃ、大和が妬くのも少し分かるなぁ)

俺でも少し、妬けてくる。
カウンターで盗み見をしている男たちにも、さりげなく彼女の椅子の背もたれに手を置いて"この子は俺のもの"をアピールしている大和にも。

大和はビールに砂肝をほおばりながら篠塚をからかったり、教授の悪口を言って笑いあったりしている。
その明るい調子に乗せられるように、篠塚も大和に恋愛指南を受けている。 篠塚にしては珍しく、神妙に大和のアドバイスを聞いているのだけど…。
でもそのアドバイスは「いーからやっちまえ!」などなど・・・時々どぎつくて、俺はそのたびに大和をたしなめた。

そこに店のハッピを着たギャル風の女の子が

「ほ〜い、これ私からサービス♪ここのトマトはマスターが自分で作ってて最高にうまいよ〜」

とトマトカットを並べた皿をドン!と机の上に置いた。
仲山さんが少しホッとした表情で微笑む。
かぶせるように「お、ミーちゃんさんきゅ〜!」と大和が言った。
(あぁ、これがミーちゃん・・・派手な子だなぁ)

と思ってみていたら、篠塚がそこでも懲りずにナンパしている。

「ねぇねぇ、お姉さんは鞠ちゃんの友達でしょ?フリー??」
「ざ〜んねん、彼氏いるよぉ。他当たって〜」

店でのナンパなどしょっちゅうなのだろう、まるで服に付いた綿ぼこりを払うかのようにサラリとあしらうと仲山さんにメニューを見せて

「ねぇねぇ、このカクテルもマジヤバイよ!あとね〜・・・」

といろいろ勧めている。
面倒見のいい女の子みたいだ。仲山さんも素直にしたがっていて仲が良さそうだ。

篠塚は「ちくしょー!」と机に頭をつっぷした。・・・こいつ本当にちょっと酔ってきたのかも。
でもそんなに弱いほうじゃなかったと思うんだけどな。

「あーーもう。世の中上手くいかねーなぁ」
「だから篠塚、そんなに上手くいくって思ってるのが甘いんだって」
「伊藤はうまくいってるじゃねーかよ」
「そりゃ〜ここが違う、ここが!」

と言って大和が腕をぱんぱん、と叩いた。
そんな態度でも、大和だと納得してしまうところがあるからさすがだ。
けれど、彼女に振られたばかりの篠塚には当たり前だけど充分嫌味になったらしい。

「けっ!・・・マリちゃん、こいつ大学では女どもに評判悪いよ〜?ホントにいいの?」
「そんなに悪いの?」
「もうマジでヤバい! 入学してきたときにさ・・・」

仲山さんは不安げな顔。
大和が腕で二人の間を遮りながら言った。

「はいはいはい、こっからその話有料な〜。俺のプライバシーの保護だ、5万いただくぞ」
「はぁ?!5万?お前ぼったくりすぎ!」

さすがに入学したときのタラシぶりを仲山さんに知られるのは具合が悪いだろうなぁ。
ヒカルは苦笑しながら「篠塚、もういいじゃん」となだめた。
篠塚も「ちぇ〜」と言いながらも本当に話をする気はなかったようで、すぐに話題を変えた。

「青木、お前論文進んでる?」
「う〜ん・・・まぁまぁ」
「今度さ、資料ちょっと見せてくんないか?ほら、お前の研究してることと俺のやってること似てる部分あるだろ?」
「いいよ。今度取りに来て。よかったら篠塚のも見せて」
「OK!あとマンガも貸して」
「いいよ。あ、そうだ仲山さん、この間のマンガ・・・」

仲山さんは酔ったのか、ぼ〜っとしていて上の空だ。
そういえば、さっき運ばれてきた5杯目のグラスももうすっかり空だ・・・。

「仲山さん?」
「おい、鞠、呼ばれてるぞ」
「えっ?・・・あ、ヒカルくんごめんなさい。なに?」
「ほら、この間話してたマンガ、部屋にあったんだけど気がついた?」
「え・・・」
「ヒカル、お前の部屋ははっきり言ってジャングルだぞ?そんなとこにあったってわかるわけないだろ」

呆れ顔の大和。

「あ、ごめん。でも一応袋に入れておいたんだ。レンタルショップのレジ袋だからすぐ分かると思うよ、探してみて」
「探してみてってお前、宝探しじゃねぇんだから・・・」

・・・一応、メモもつけておいたし通り道っぽいところに置いたつもりだったんだけど。
けれど自分の部屋が汚いことも掃除が苦手なことも事実なので、仕方ないとも思ったが。

「ありがとう、私も今度持って来るね」

そういって鞠は、ニコっと笑った。頬に赤みが差し、色の白さが余計に際立ってみえる。
本当に、綺麗な子だな。
ヒカルはそれまでの会話を忘れ、しばし見惚れてしまった。

そんなヒカルには一切気がつかず、彼女は「私ちょっとトイレいってくるね」と言って席を立った。
足どりがなんだかおぼつかない。

「・・・大丈夫?飲みすぎじゃない?」

大和にそう言うと、

「そうかもなぁ・・・。一緒に飲んだの初めてでわかんねーけど、ペース早い気はする」

ちょっと苦い顔をしてそういうので、それまでひそかに妬いていたヒカルも少し感心してしまった。

「やっぱ、ちゃんと見てるんだね」
「は?・・・あたりめーだろ?」

当たり前、と言いつつどこかムスッとして見えるのは、ヒカルに突っ込まれるのを嫌がってのことだろう。
お望みどおりに突っ込んでみようかな。

そこまで酔ってはいないが場の勢いも手伝い、ヒカルは大和をからかった。

「でも大和ってあんまりそういうの気がつかないほうじゃない?それで彼女に怒られるって前言ってた気がする」
「う、うるせぇ。気になるんだから仕方ないだろっ」

ぶ。
案の定というかやっぱりというか。
ムスッとした顔のままだが、かなり照れている。

「なんだなんだ?意外と骨抜きにされてるのは伊藤のほう?」

大いに照れている大和に気がついた篠塚も話題に入ってきて、そこからまた話が恋愛相談になって俺もなんとなく大和の講釈に聞き入っていると。

「お客様、大丈夫ですか?!」

という店員の声がトイレのほうから聞こえてきた。
その瞬間、俺が振り向くより早く大和がガタガタ!と立ち上がって即トイレに走っていく。

(早っ・・・)

そしてあっという間に、青白い顔をした仲山さんを抱えて戻ってきて席に座らせた。

「ごめんなさい、だいじょうぶ、ちょっと、フラっときただけだから・・・」
「大丈夫じゃねーだろ。ちょっと吐いたんじゃねーのか?」
「平気・・・」
「平気じゃねぇって、フラついてるじゃねーかよ」

仲山さんは支えようとする大和の腕を振りほどこうとするけど、それがないともうしっかり座ってられない感じだ。
ヒカルも心配になり、

「大和、もう連れて帰ってあげたほうがいいんじゃない?」
「・・・そうだな。誰かタクシー呼んでくれ」

そこに、女の子が心配そうにおしぼりを水を持ってやってきた。
ミーちゃん、だ。

「マリちゃんだいじょうぶぅ??飲みすぎちゃったぁ?あたし勧めすぎちゃったかなぁ?」
「連れて帰るわ。なぁ、タクシー呼んでくれない?」
「おっけ〜。ところで門限とかだいじょうぶかな?厳しいんでしょけっこう?親にも電話しといたほうがよくない?アタシしようか?」
「ミーちゃんさすが!頼むわ〜。鞠、携帯出せ」
「え・・・けいたい?カバンの、中だよ・・・」

大和の「送る」という言葉にすっかり安心しきってしまったのか、 もう仲山さんは半分眠りそうになっていて、携帯を探す力もなさそうだ。

大和は仲山さんのカバンをつかんでミーちゃんにそのまま渡した。

「探しといて、外にいるから」

そうしてから脇の下から腕を入れ仲山さんを抱え、「ほら、鞠。外の空気吸いにいくぞ」と店の外に連れ出していった。
ミーちゃんが

「あたしも行く〜!電話、マリちゃん出してって言われたらヤバいもん!マスター!タクシー呼んでおいてくださぁい!」

とその後を追っていった。
大きな声に周囲の客がなんだなんだ、と振り返る。

「なんだー、あんまり強くなかったんだなー」
「そうみたいだな」
「自力で吐いたみたいだから大丈夫だとは思うけどなぁ」

しばらくすると大和が戻ってきて

「すまん、先帰るわ。これ、金」

と机に財布から出した1万円をバン、と置いた。篠塚が目をむき、

「お前これ払いすぎだろ?明日返すからな」
「悪ぃ、頼む。正直苦しいし」

ニッ。愛嬌のある笑顔が、イヤでも男前だと認めざるを得ないほと整っている。
篠塚もそう思ったのかどうかは知らないが、大和にすっかり気持ちを許したことは確かなようだ。

「りょーかい。今日はさんきゅ〜な」
「その手の話ならいつでも聞いてやるよ〜。 あ、ヒカル。鞠、家に連れてくから。いいか?」
「え・・・?うちに泊まるの?」

急な話に俺は驚いた。
泊まるってことは・・・帰ってくるな、ってことだよな。

「うん、ミーちゃんに『このまま帰したらかえってヤバいかも、外出禁止クラスかも』って言われてさ。
 ミーちゃんちに泊まることにしてもらったんだ。明日バイトまで送ってく」
「・・・わかった。俺今日は帰らないでおくよ」
「すまん!そのかわりドーナツ食っていいから」
「何それ、いらないよ」

ヒカルが苦笑すると大和もニヤッと笑ってその場を去っていった。


「すっげー意外」

大和が去ったあと、篠塚が感心したように言った。

「何が?」
「いや、伊藤ってあんな奴だっけ?」
「相談に乗ってくれたこと? わりと面倒見はいいよ、あぁ見えて」
「いやいや、そーじゃなくて、女に冷たそうなイメージあったんだけど。あいつってやたらモテてたじゃん?」
「あぁ・・・。女の子に冷たかったかどうかまでは分からないけど」
「あの子、そんなにいいのかな? まー確かにかわいいけど」
「さぁ・・・俺に聞かれても」

そう答えながら、俺も実はそう思っていた。
あんな風に、女の子相手に照れたりしているところなんてこれまで見たことがない。

(本気で好きになったんだな・・・)

その後なんとなく篠塚とだらだら離していると「バイト終わった〜!一緒に呑んでい〜い?」といってミーちゃんが席に座ってきて、
さんざん篠塚と恋愛の話をして盛り上がっていたけれど、俺はずっと、仲山さんのことを考えていた。

(今家に帰ったら、仲山さんが家にいて、この間みたいに・・・・)

ヒカルはぶんぶんぶん!と大きく首を振り、その考えをなぎ払った。
けれどなぎ払ってもなぎ払っても、そのことばかりが頭をよぎり、焼酎のロックを何杯飲んでも、いつものように酔うことすらままならなかった。

 

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