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輝 14

俺の中にある気持ちに大和が気がついていることに対しては、既に覚悟は出来ていた。
けど、それを言葉に出すのと出さないのでは全然、違う。

(相当こらえてくれたんだろうな・・・)

殴られると思っていた。
それくらいは受け止める気持ちでないと話す事は出来なかった。

なのに「告白すればいい」だって?
そんなこと言われるとは予想してなかった。これじゃ、余計迷いが増えただけだ…。

鞠ちゃんが俺を選ぶはずはなかった。
そんなことは明らかだ。
それでも大和はこんな俺でも脅威に感じてる。

(それだけ…、本気で鞠ちゃんのことを)

寒くはないのに首筋がぞくっとした。
心が。
これから自分がしようとしてることに、早くも怖気づいている。

(馬鹿だ、俺)

結果は分かっているのに、それでも今、俺は彼女に気持ちを言うべきだって思ってる。
大和の本気の思いに圧されて?いや、違う。

…最初はただ、ごくたまにすれ違うだけだった。
心を閉ざしている人特有の暗い空気をまとわせた彼女の横顔を、ただ盗み見るだけだった。
どうこうなりたいだなんて、思いつきもしていなかった。

今は。
彼女から来るメールの着信を知らせるランプを見るだけで心が躍る。
今までの日々にそこだけ色が足されたように彩られて見える。
彼女のことを知るたびに魅かれる心を、俺は止めることはしなかった。出来なかった。

手のひらにはいつの間にかきつく握っている、外せないストラップの痕。

これまでの気持ちを全て彼女にぶつけられたなら。
大和の言うとおりすっきり出来るかも、しれない。

(あ、ヤバい…忘れてた)

鞠ちゃんのメルアドを知っていることを大和に話すのを忘れていた。
でも今更言うより、いっそのこと電話番号も聞いて電話した方がいいか?
いやでもメールで伝えるほうが衝撃は少なくて済む…?

頭を抱えた。
どうしたらいいのか全然分からない。怖気つきそうだ・・・

留学は9月だった。今は1月末、時間はある。
けれど大和のためには早くしてやったほうがいいのだろう。

俺は携帯で時間を見た。11時。
…まだ、起きているだろうか。

おそるおそる、震えそうな指でメールを打った。



こんばんわ。勉強、すすんでますか?大和も俺も追い込みで、ほとんど家には帰っていません。相当汚い・・・

発表の日、終わった後話したいことがあるんだ。できれば、電話で。いいですか?

いやならかけてきてくれても構わないんだけど・・・電話番号、入れておきます」



こんばんわ、ちょうど勉強してて分からなくて大和に聞いていたところだったの。

やっぱり忙しいんだね・・・悪いことしちゃってるね、私

電話番号、そういえば知らなかったね。書いておきますでは、風邪引かないように



(逃げ場がなくなったな・・・)

返信されたメールに書かれた電話番号を「仲山鞠」のところに登録する。

言えば、おしまいになる。
今まで静かに築いてきたこの関係も。

けれど、言わなければこのままだ。
海外に行って、向こうで二人の幸せを聞くことになる。
きっとそのほうが苦しいだろう・・・。

(発表が、終わったら。全てを、話そう)




発表の日、ヒカルは昼前には全ての出番が終わった。
何のトラブルもなくとどこおりなく終え、「休憩を挟み、次は2時から再開します」の声を聞いて俺は外へ出た。
だいぶ歩き、人気のない校舎裏で呼吸を整えた。

電話帳から「仲山鞠」を探し出す指先が冷たく、震えてくる。
画面が上手くスライドできない。

(うわ・・・マジできついかも・・・)

結果が分かってる告白をするのは、こんなにしんどいものなのか。
ヒカルはその場に座り込んだ。
コンクリの上に直に座り、仲山鞠のページを開いたまましばらくじっとしていた。

・・・・・・

何分くらいたっただろうか。
ヒカルは顔を上げ、おそるおそる通話ボタンを押した。

プッ、プッ、プッ・・・プルルルル・・・プルルルル・・・プルルルル・・・

「はい」
「・・・鞠、ちゃん?」
「ヒカルくん・・・?」

小さく、弱々しい返答。
それに引っかからなかったわけではないけれど、とにかく気が急いていた。
「うん・・・あの、あの俺・・・」
そう言いはじめた俺の声なんて聞こえていないかのように、受話器から聞こえたのは。
「助けて・・・」
「えっ?」

(たすけて?)

「ヒカルくん、助けて・・・」

自分の中で思い描いていた流れとはまるでかけ離れた言葉は、2度目はきちんと脳みそに届いてきた。
「どうしたの?何があったの?どこにいるの?」
少し間があって、やはり小さな声で返事がある。

「・・・・・。部屋の、前」

部屋?
俺と大和が住む、アパートの前にいるのか。
容易に想像できる、いつもの待ち姿。
けれどいつもよりも寂しげに、それはヒカルには思えて。

「とりあえず、行くよ。そこにいて」
「うん・・・」

電話を切ったあとヒカルはやや、呆然と今の会話を反芻していた。

(なにがあったんだろう・・・)

『助けて・・・』

鞠は確かにそう言った。
何故俺?何故大和のところじゃないんだ?たまたま俺がかけたから?
よくわからない。
けれど、耳に残るのは小さく弱々しい声。

(よく分からない、けど…急ごう)



彼女は・・・部屋の前ではなくてアパートの入り口にうずくまっていた。

「鞠、ちゃん?」

声をかけるとハッと顔を上げた。
驚いたことに泣き顔で、俺は相当焦った。

「ど、どうしたの?」

話そうと口が動く。
けれどどう話せばいいのか分からない、というように口を閉ざす。
哀しげに潤んだままの瞳から涙がぽろり、とこぼれた。

(…!)

何も言えずただただ驚くヒカルの耳に「・・・大和が・・・」と微かに届く。
「大和?大和と何かあったの?」
そう聞いた瞬間、またはらはらとこぼれる涙。

「大和が、キスしてた・・・女の子と」
「え・・・?」

まさかそんな、と言いかけた俺に畳みかけるように鞠ちゃんは言った。

「見たの。大学の正門のところで、大和が、女の子の腕引っ張って・・・」
「・・・・・・見間違い、ってことはない?」
「反対側の歩道からだよ?ほとんど、目の前にいたの」
「・・・」

俺は何も言えず、ただ鞠ちゃんを見つめたままだった。
鞠ちゃんは一気にそう話した後うつむき、その情景を思い出すように話しだす。

「何か、話してたの。大和は、キスしたらどこかへ行っちゃったの。私と、待ち合わせしてたのに」
「連絡は?」
「さっきから・・・電話が・・・でも・・・」

そこに着信音が鳴り響いた。
けれど鞠ちゃんは画面を確かめることもなく、電話を受けようともしない。

「出た方が、いいんじゃない?」

そう言っても、首をぶんぶんと左右に振るだけ。
あとは何も話そうとしない。
俺はどうしたらいいのか分からず、とりあえず彼女を部屋に案内することにした。

アパートの階段を上りながら・・・ふと、思い出すことがあった。
部屋に入り、鞠ちゃんを座らせ、ヒカルは目の前に座った。
まさか、でもそれ以外に思い当たる節がない・・・・。

「鞠ちゃん。その女の子、髪長かった?」
「うん・・・」
「背も高いほうじゃなかった?」

少し、悩んだけれど。

「ヒカルくん、知ってるの?」
「・・・うん。多分」

俺から話すことではない。
でもこれを話さないと、この誤解は解けないような気がした。

「鞠ちゃん、その子はきっと・・・篠塚の元カノだ」
 

 

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