幼なじみの島谷郁は、なんてことない普通の女子だ。
たぶん、一般論からすると。
男の話題に上ったりすることもなけりゃ、かといってブスだのなんだの言われたりもない。
不もなく可もない。
せいぜい『髪がキレイだよな』とか、その程度だ。
けれど俺の中では、そんな貴重な誉め言葉さえもその言葉が出た男の口をひねり潰してやりたいと思うほどに、愛しい女の子だ。
そんな自分の中にある気持ちに、俺は中学のときまでは気がつかなかった。
俺はなんか知らないけど、昔から平均以上に女の子にモテていて、
ファーストキスも興味本位で小学生のときに終わってるマセガキだった。
だから、っていうのもヘンだけど当然のように中学1年になってすぐに学年一と名高い可愛い女の子に告白された。
で、即付き合うことになって、即初体験も済ませた。
・・・気持ちよすぎて、毎週末その子の部屋でそういうことをしてた。
それが、付き合うってことだと勘違いするほど俺は夢中になってて、だから最初気がつかなかった。
郁が少しづつ俺と距離を置こうとしていることに。
俺と郁は幼稚園のころから一緒で、住んでる場所もマンションの隣同士で、
郁は当然ずっと一緒にいるものだと思ってたし、これからも会いたいときは会えるもんだと思ってた。
時たま学校の廊下で郁とすれ違うときに、そんな調子のまんま声をかけてたら、
どんどん郁の反応が悪くなっていくことに俺は最初、ものすごい反感を覚えた。
コイツ、俺のこと無視してる、って。
学校が終わった後部活もそこそこに俺は、郁の部屋をノックしてた。
郁は中学のときは帰宅部だったし靴が玄関にあったから部屋にいるのは分かってた。
返事がしてドアを開けると、案の定仏頂面をした郁がベッドで寝転がったまま俺を見上げてた。
「郁」
「なによ?」
「お前今日、廊下で会ったとき完全シカトしたろ?」
「・・・・あんたこそ、自分の彼女のことなんだと思ってんのよ」
「はぁ?そんなのお前に関係あるかよ」
「かんけーあるわよ。こっちは大迷惑してんのっ」
・・・・・何言ってんだこいつ。
ますますふて腐れる俺に、郁がイヤイヤながら言う。
「あのねぇ・・・京子ちゃんから言われたの。あんたと仲良くするなって」
「はぁ?なんでそんなこと京子ちゃんが言うんだよ?」
「あんたバカ?付き合ってるんだから当然でしょ?あたしだって腹立つわよ、好きな男の子が自分以外の子と仲良くしてたら」
「・・・・・」
郁があまりにも整然と「当たり前」だと言うその感情。
そんなもんがあるなんてことを知らなかった俺は黙りこくるしかなかった。
「そういうわけだから、あんたも学校であたしに馴れ馴れしくしないでよね」
「なんでだよ」
「大体あんたはモテるからすっごい迷惑なのよ、こっちは」
・・・意味がまったく分からない。
郁はそんな俺に呆れ顔で、でも丁寧に分かりやすく説明してくれた。
女の子っていうのは、すごくシット深いイキモノで。
自分の好きな男の子が仲良くしている女の子に対してとても厳しい、ということ。
そして、今までどれだけ自分が憂き目にあってきたかということ。
「と、言うわけだから。これからはくっついてこないでよね、うっとうしいし」
その言い方とトーンで、さすがの俺も気付いてしまった。
郁にとって俺は単なる幼なじみで、それ以上でも以下でもない、ってこと。
けどそんな郁に対して、俺はモーレツに、寂しさに似た苦しい感情を持ってた。
それがなんなのかってことは、もう郁に聞かなくても分かった。
俺が欲しいのは、学年一可愛い京子ちゃんの・・・よりも、郁だ。
それから6年。
避けよう避けようと頑張る郁に対して、必死で追いすがってきた俺。
「口が裂けて耳にまで届いたとしてもあんたにだけは言わない!」
と絶対に教えてくれなかった志望校も郁のお袋さんにこっそり聞き出して、一緒な高校に通うことにも成功した。
上手く時間を合わせて、毎日ではないけど登下校を共にすることもあるし、
郁がどんなに毒舌になっても、さらっと笑顔でかわす。
俺が怒って自分から離れればいいと思ってわざと言う辛辣な言葉に、長い付き合いの俺が惑わされるわけがないだろ。
郁は、超面白い女だ。
いじっぱりだし、負けず嫌いだし、何より全然素直じゃない。
鼻っ柱も強くて、俺が郁に付きまとってることでかなり周囲の女子から非難を受けてるみたいなのに、それをおくびにも出さない。
俺に泣きついてきてくれればどうにかできるかもしれないのに、絶対にそれはしない。
ただ「ついてくるな、私にかまうな、迷惑だ」その一点張りで。
そんな郁を横で眺めているだけで、俺はすごく幸せなんだ。
俺は相変わらず女の子には不自由しなくっていい思いも何度かしたけれど、
だから郁が余計に責められてる事もあるって分かってたけれど、
特定の誰かと付き合うことは絶対にしなかったし、好きだ、と思うことも言うことも絶対になかった。
女の子から見たら身勝手な言動だろうけど、そこは何が何でも貫いてた。
だって、どんな可愛い女の子だって、郁の面白さには敵わない。
「彼女なんかいないもん。聡真さん、彼女いないって言ってたもん!」
郁が、兄貴を好きなのは知ってた。
郁が兄貴を見る目はガキのころからずーっと、ハートマークだったからな。
けど反対に、兄貴が郁のことを妹くらいにしか思ってないのも俺は知ってた。
負けず嫌いなくせに、俺の前で涙を流すなんて相当悔しいだろうに、郁の涙は止まりそうにもなくって。
傷つけるつもりはなかったのに・・・
そう後悔する俺に対して、郁は怒って怒鳴りつけてきた。
「透真のばかっ!何で、何で言っちゃうのよっ」
「・・・え?」
「知ってたもん!彼女いること知ってたもん!
何で言っちゃうの?言わなかったら、聡真さんのとこずっと遊びにいけたのに!」
・・・・・・やっぱり、郁は面白い。
タダでは転ばないっていうか意地っ張りというか・・・すげ、潔い。そんでもって、かわいい。
あんまり可愛いからキスしてやった。そしたら今度は照れまくってやんの。
下僕でも何でもいーよ。
ケーキだろうがなんだろうが金がある限りいつでも奢ってあげる。
やっと、俺のこと"男"だって、分かってくれたんだ。見てるだけじゃもう足りない。
いつかは必ず彼氏になってやるんだから、そっちこそ覚悟しとけよな―――・・・。
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