「センパイっ、お願いしますっ!もう先輩だけが頼りなんですっっ」
2コ下の後輩たちが、ものすごく暑苦しく私に迫ってくる。
ここは確か手芸部だったはずなのに、何で誰もミシンふんでないの?針と糸すら持ってないわけ?
つか部員じゃない子までいるんだけど。どーゆーことっ。
「めんどくさいからイヤだって言ってるでしょ〜。自分たちで何とかしてよ」
「だってぇ。緒方センパイ、写真嫌いすぎですもん・・・」
「だったら私が撮ろうとしたって無理じゃないの」
「郁ちゃんセンパイなら大丈夫ですよ〜、なんたって幼なじみなんですから!」
「・・・あのねぇ、透真の写真嫌いは筋金入りなの。幼なじみだったら出来るなんて思わないでよ。つか絶対無理」
「そんなぁ〜〜〜」
口々に漏れる残念そうな声。けどまだ全然諦めてないのは目つきで分かる。
ギラギラしてて、嫌がおうにも2コ下の若さをヒシヒシと感じてしまう。
・・・ウザい。ウザすぎる。
透真はいつもこんなのに囲まれて、何がうれしいんだろう。
――幼なじみで、腐れ縁。それが緒方透真(おがたとうま)。
昔からとにかくやたらモテて騒がれるヤツで、時おりこんな風にこちらにまでその火の粉が降りかかってくる。
高校は絶対に別のところにしてやると決意してたのに、気がついたらまた一緒なところにいた。
しかも3年になった今は同じクラス。・・・ありえない。
陸上部のエース。成績もボチボチ優秀。元生徒会副会長。
きれい系の顔立ち。まつ毛バサバサ。色白だったらそこらの女子より美人かも。
陸上部で年中ランニングを欠かさないせいか残念ながら肌は浅黒いけど、それでも。
「郁ちゃんせんぱぁい・・・お願いですよぉ〜」
「お願いします〜!どしても、緒方センパイの写メ欲しいんです!」
こんな風に女子が固まりで集まってきてしまうくらい、モテる。
「・・・・成功する確率は低いわよ?」
「いいんですっ!それでも他の人よりは郁ちゃんセンパイのほうがチャンスは多いんですからっ」
「そーですよー。だっていつも一緒じゃないですかー」
「・・・あいつがくっついてくるからね。勝手に」
「ぶ。結局押し切られてやんのー。郁は頼まれたらイヤと言えないのよねぇ〜」
「うるさいっっ」
親友で手芸部の部長でもある真沙子は、くくく、と意地悪い笑みを漏らす。
「でもさぁ、実際難しいよねー。緒方君ってホント写真キライじゃん。卒業写真もブッチしようとしてたし」
そうなのだ。
なぜか、透真は写真というものが大の苦手で。
それだけモテてても、ちゃんとした写メを持ってる子は誰もいないみたいで。
以前見せてもらった「これが今1番上手く撮れてるんです」という写メは、横顔で遠くからの隠し撮りだった。
近付くとその俊足を思う存分生かされてブレた写真しか撮れないらしい・・・そこまで逃げなくても。
とはいえ、最近のカメラ付き携帯は性能がいいから、隠し撮りのでもけっこうよく撮れてると思う。
だけど女子の欲望に限りというものはないらしくって。
さらに部活を引退し、そろそろ3年は卒業するという間際になってその欲望は膨れに膨れ上がって、
私のところでガツーン!と破裂した。
住んでるマンションも、隣の部屋。
おまけになんか知んないけど透真自体がしょっちゅう私にくっついてくるし。
私と透真が付き合ってると思い込んでる人もいて、呼び出されてあーだこーだ言われるのもしょっちゅう。
迷惑!とキレまくっていたころが懐かしく感じられるほど、そんなことにもすっかり慣れっこ。
慣れっこになったらなったで今度はこれだもの。いい加減飽き飽きしてきた。
「どうにかしたいのよ、私としても」
「ホントに付き合っちゃえば?」
「ありえません、それだけは」
「ホント拒否るよね〜そこは」
透真はただの幼なじみ。
私が好きな人は・・・・透真の8歳上のお兄さんの、聡真さんだ。
いつも落ち着いていてシルバーフレームの眼鏡の奥の瞳は柔らかく優しい色。
子供のころから何を言ってもしつこくつきまとっては、つまらないイタズラばかりを仕掛けてくる透真から私を守ってくれた。
小さいころからの、憧れの人。
今は社会人で、エリート銀行マン。
家を出て近くのアパートで1人暮らしをしてる。何度か押しかけで遊びに行ったこともあるんだ♪
突然でも聡真さんは常に優しくて「郁だから仕方ないな」って・・・うふふっ。
「・・・もしも〜し」
はっ・・・また、やっちゃった。
聡真さんのことを考えてるとつい、トリップしてしまう。
「私、帰るわ。なんか疲れたし」
「んー、いい仕事してこいよー」
「やかましいっ」
なんであんなのの写メを私が撮らなきゃいけないわけ?
とにかく、1枚か2枚無理にでも撮ってそれをバラまいてもらったらいいんだ。
そうしたらもうこんなことには煩わされないですむし。
そうだっ、聡真さんの写メも撮らせてもらおうかな?
待ちうけにしておけばいつでも聡真さんに会えるじゃない。
バカだな〜、なんで今まで思いつかったんだろう。
聡真さんのことだもの。写メくらい即OKしてくれるに決まってる。
『じゃあ、一緒に郁も撮る?』
なんてことになったりして・・・きゃー♪
私は半分以上透真のことなんて忘れて、廊下を歩いて玄関にたどり着いた。
「郁ーっ!」
・・・・あぁ。
元凶の声が聞こえるけど、無視無視・・・。
「郁ってばっ」
「きゃあっ!髪の毛引っ張るなっていってるでしょっ」
痛みもあったから睨みつけるため仕方なく振り向くと、聡真さんに似た切れ長の瞳がキラキラ輝いていた。
おとしめるためにわざとローテンションで一言呟く。
「くそがき」
「るせーよっ。郁がさっさと返事してりゃこんなことしねぇよ」
それでも私がちゃんと会話に参加し始めたことがうれしいらしくて、ご機嫌麗しい様子の透真。
頭わいてるわ、コイツ・・・。
「郁ぅ、帰るの?」
「・・・見りゃ分かるでしょ」
「んじゃ一緒に帰ろ?」
「イヤだっつってもついてくるんでしょ?」
「もちろん♪」
そうして、いそいそと自分の下駄箱から指定のローファを出して履き替えている。
私は知らないふりをして1人で玄関を出た。
「待てよぉ、一緒に帰ろっつったじゃんかー」
「勝手についてくるヤツを待つほど優しくない」
「ったく相変わらず冷てぇんだから。なぁなぁ聞いてよ、今日俺さ、すっげいいタイム出しちゃった!」
「まだ部活行ってんの?」
「たまにグラウンドを走りたくなるんだよ。そんでさ、自己新出したんだぜ自己新!超うれしーっ!」
・・・テンション高っ。相当ご機嫌だわこりゃ。
でもいつも一緒に帰るときはこうやって1人でベラベラしゃべってるんだけどね。
「よかったね。毎日ランニングしてる甲斐があるってもんじゃないの」
「うんっ」
子供のように無邪気に微笑む透真は、私から見る限り幼稚園のころから何の変化もないのだけど。
本当に、いったい皆、こんなのの何がいいんだろ・・・。
続く >>>>>>
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