・・・side 辰則
彼女は軽く気を失いかけただけみたいで、慌てて支え起こしたらすぐに気がついてくれた。
けどさ、告白受けて倒れるか?普通。いや、急かした俺が悪いのかなこの場合・・・。
「・・・すみま、せん」
上目遣いで、すまなそうに謝ってくる。
「いや、目が離せねぇな、やっぱ」
そう言ったらまた一気に赤くなった。
・・・すげー可愛い。
けどまた倒れたりしないか心配だ。これじゃ返事もロクに聞けやしない・・・。
「・・・・・・・あの」
「なに?頭とか、痛い?」
「・・・・・・いえ。あの、せんぱい・・・かのじょ、さんは?」
カッスカスの声。精一杯の勇気を振り絞って、声を出してる。
そんな感じだ。
「別れた。・・・つか、俺の中ではすでに別れてたんだけど、ちゃんと、別れてきた」
「・・・そ、なんですか・・・」
「ごめん。それを先に言うべきだったよな」
緊張してて、告白する順番を間違えてた。
あからさまに安心した顔をしつつもどこか困惑してる彼女の表情に焦りが湧いてくる。
もしかして、俺のこと好きってゆーのは勘違い・・・?
だとしたら俺、超恥ずいヤツじゃんか。
しかもこんな住宅街のど真ん中で、好き?嫌い?とか聞いちゃってるし。・・・あ、もしやそれがマズイのか?
「えーと、とりあえずどっか座れるとこある?」
「・・・・・・あ。えっと、そっちに、小さい公園みたいなところ、が」
彼女が"公園"と言った場所は、小さな敷地にあるゲートボール場だった。
申し訳程度に小さな滑り台とさびついた鉄棒があるだけ。
それでもコートはよく整備されているのか、雑草ひとつ生えていなくてきれいな長方形。
対照的に芝生が生い茂ってるコート脇のボロボロのベンチに腰掛けると、ガタ、と軽く椅子が俺のほうだけ傾いた。
「この時間は、誰も、いないので」
「うん。けっこう落ち着くかも、ここ」
特に景色がいいわけでもない。
何の変哲もない、本当に小さな小さなスペース。
でも嘘をついたわけじゃない。隣に樋口さんがいるから、そう思うだけかもしれないけど。
「・・・はい」
隣に座る彼女は嬉しそうに微笑んだ。
どうやら、ここは彼女のお気に入りの場所みたいだ。
そう思うと俺にとってもこの場所が特別なものに感じる。
んー・・・、と大きく伸びをして、芝生の匂いを嗅いだ。
「・・・・・・・先輩と」
「ん?」
急に話しかけられて彼女のほうを見ると、真っ赤になって俺を見つめていた。
「先輩と、ここに座れたらいいな、って思ってたんです」
恥ずかしそうな、小さな声だった。
それでも俺の耳にはちゃんと届いて、俺の心にも、ちゃんと届いた。
「じゃあ・・・これから毎日来ようか?」
「好き?』のかわりの言葉に、彼女はようやく真っ赤な顔をして頷いてくれて。
また、微笑んでくれた。俺の大好きな、天使の微笑みで―――・・・。
・・・
「・・・送ってくださって、ありがとう、ございます」
「いーや。明日の朝またここに立ってるから」
おなじみの場所、電柱の横を指差すと、はい、と前と同じ素直な返事が返ってきた。
「あと今週の日曜って、何か用事ある?」
「・・・いえ。図書館、行こうかなって・・・」
「図書館かぁ。勉強?」
「・・・えーと、読書、も兼ねて。先輩も、一緒に行きますか?」
恥ずかしそうにはにかみながらも誘ってくれる。
せっかくの日曜の初めてのデートが図書館で勉強、なんてあまり乗り気しないけど
そんな初々しい誘われ方をされると、ちょっと断りにくい。
「じゃあそうしようかな。あ、昼飯も一緒に食おうよ」
「・・・はい」
ものすっごい、嬉しそうなワクワク顔で俺を見上げてくる。
たかが図書館で勉強するだけだぜ?なのにそんな嬉しいんだ?・・・なんか、マジで可愛いんだけど。どうしよ。
「あの、先輩」
「ん?」
「・・・やっぱり。なんでもないです」
くるくるくる、と左右に首をふって言いかけたことをムリヤリやめてる。
「なにそれ、すげー気になるんだけど」
俺が笑いながらそう言うと、さっきよりもずっとずっと恥ずかしそうに、彼女は言った。
「・・・・・・おつきあい、するのって」
「うん」
「やっぱり、好き、な人じゃないとだめですね」
「あぁ、まぁそりゃそうだね」
「・・・やっぱり、一緒に遊んだり、お出かけしたり・・・とか、するの・・・先輩とが、いいかなって」
・・・告ってきた同級生の男と、比べたりしてんのかな?
そんなことを考えてた俺を超ハイパー喜ばせるセリフが彼女の口から漏れて、否応なしにテンションが上がった。
そっと、彼女の長い髪に触れた。
その流れのまま肩に手を置いて、顔を近づける。
・・・嫌がられたらやめなきゃな。
キスくらいはいいじゃん、と思う反面俺はそう考えてた。
今までそんなこと思いもしないで行動に移してたけれど、好きな子を大切にする、ってきっと、こういうことなんだろう。
ドキドキしながらも、興奮しながらも、俺の中はそんな初々しい気持ちでいっぱいだった。
だけど唇まであと数センチのところで・・・・・
「先輩?なにか、顔についてますか?」
目も、閉じてない。
恥ずかしそうな顔も、してない。
ただ不思議そう〜〜〜〜な顔、の彼女が目の前にいた。
・・・もしもし?
「・・・いや、なんでもない」
「そう、ですか?・・・じゃあ、また、明日」
俺の手から彼女の肩がするっ、と逃げた。
「・・・うん、またあした」
半ば呆然としながら、戸の向こうに消えていく彼女を見送った。
肩に置かれていた手だけが、バカみたいにそのままで。
えぇっと。
もしかして。
「・・・今俺が何しようとしたか、わかって、ない?」
マジですか?
もしかして、理解してもらえるまでおあずけ状態?
しかも理解した途端またフリーズ?いや心臓とか普通に止まっちゃうんじゃねぇの?
ありえる・・・。
「そりゃねーよー・・・・」
知らず知らず独り言がもれる。がっくりと肩が落ちる。
ある日見つけた、極上の天使・・・・・けどその正体はかなりの天然。
そんな天然に惚れた俺が悪い。悪いんだけど、さ―――。
・・・けど、まぁ。
「仕方、ねぇか」
待つか。
彼女が分かってくれるまで。
「でも、まぁ、なるべく早くしてほしいけど」
俺は彼女が消えていった玄関に、手を合わせた。
彼女が早く分かってくれますように。
そして、彼女をずっと、大切にできますように・・・。
今思えば。
そのときの俺は日和見過ぎた。
このとき無理矢理にでもキスしとけば、・・・もうちょっと、楽だったかもしれない。
そんな俺の"泣ける話"はまた、今度にでも―――・・・。