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全速力であなたの元へ 「ねぇねぇ、結局"オカヤン"とはどーなったの?」 ニマニマと話しかけてくる真澄。 近くにいた他のクラスメイトまでもがその質問の答えを知りたがって寄って来る。 「オカヤンってさー、ケーキ渡した子でしょ?」 「そうそう、特大ケーキを15分で食べきったツワモノ」 「15分?!何それ超すごいんだけどっ」 いたっていつものように会話しながら・・・じわじわと周囲を取り囲まれる。に、逃げられない。 こういうの、とっても苦手。 まず、これまではどちらかというと人の恋愛を横で眺めているだけだったから、慣れてない。 次に・・・・ 「・・・今日、デートしようって言われた。アタシが誕生日だから、って」 嘘をついたりごまかしたり、が一切出来ない正直者だから。 うぅ。なんであたしってばこんなに不器用なの・・・・ 当然のごとく『いやーっ!』とか奇声を上げて盛り上がる周囲に、ため息がこぼれた。 「もう決まりだねっ」 「き、決まってなんかっ・・・」 「だって向こうから誘ってくれたんじゃん?決まりだよー」 最初に質問してきた友人に乗っかるように次々に口を挟んでくる女の子達。 「うぅっ・・・、も、もういいじゃんっそのことはっっ」 この恋がどうなるかなんてそんなの私にも分かんないの! みんなにあれこれ言われると、頭がパンクしそう。 「じゃあねっ!」 「あーっ、ちょっと麻恵っ、待ちなさいっ」 きっぱりと、振り切るように走り出そうとした。 そうでもしないと逃げ出せないことくらいは過去から学んでる。 「ひゃぁっ!」 「逃がさないよっ、今日は絶対!」 けど今日はどこをどう掴まれたのか・・・あっという間にまた、女の子の集まりの中に戻された。 急に引っ張り戻された反動も手伝って、まるでほおり込まれたような形になる。 「お願い!離してよぉ、急いでるの!」 「麻恵、あたしたちは興味だけでこんなこと言ってるわけじゃないんだよ?」 その中の一人、多分私が一番"好きな人にあげるお菓子作り"を代行した真澄が私の両肩に手を置いて、そこにぐっと力を込めて言った。 「そうだよー。麻恵には今までたーくさん!お世話になったんだもん」 「今度は麻恵が幸せにならなくちゃ!」 授業も全て終わり、放課後に向けてグロスを塗り直した唇から口々に「次は麻恵の番だよ!」などと励ましの言葉がこぼれる。 「み、みんな・・・・」 そうだったんだ・・・・。 みんなただ騒ぎたいだけで聞いてきてるのかと思ったけど、そうじゃなかったんだ。 「当たり前でしょ!麻恵の幸せ願わないわけないじゃない」 私を取り囲む優しい眼差しに、うるる、と来たその瞬間。 「だーかーらー、麻恵ちゃ〜ん」 「きれいきれい、しましょーねー♪」 「へ、え、えぇーっ?いやーっっ!!」 細い腕が何本も私に伸びてきて、どこかに引っ張っていかれる。 あらがおうにもどこにそんな力が?と思うくらいのバカ力で、どうにもできない。 (じょ、女子高なんて、来なきゃよかったよぉぉ・・・・) ずるずると引きずられながら、すっかりみんなのオモチャにされてしまっている自分を恨んだ。 「はい、でーきたっ♪」 「可愛いじゃーん!真澄力作!」 「麻恵〜、いつもこれくらいしとけばいいのに〜」 どこをどうされたのか、鏡もない教室では何も分からない・・・。 それでも口々に「カワイイ!」「イイ感じ!」などと誉められればそこまで悪い気はしない。 「えへへ・・・ありがとー」 我ながら、すごい単純・・・・。 「さ、いってらっしゃい♪」 「うんっ」 髪や顔をいじくられていた間もずっと握りしめていた携帯を確認すると・・・・ 「きゃーっ、もうこんな時間っっ?!じゃ、みんなありがとねっ!ばいばいっ」 「あ、麻恵走っちゃだめっ、髪型崩れちゃうっ」 そんなこと言ってられない。 岡田さんは時間厳守なんだもん。 「いってきまーす!!!!」 ダッシュで教室を飛び出し消え去った姿を目で追いながら、友人達は呟く。 「あの子、今自分がどんだけ可愛くなってるか分かってないね?」 「そうみたいだねー」 「ま、いいじゃん?行けば分かることだし」 「麻恵にも春が来るといいね〜」 「来るよー。大丈夫♪」 ・・・ はぁ、はぁ、はぁ・・・・・足が・・・足がもつれそう。 そういえば私、走るの遅かったんだ・・・いくら急いだって、無理。 このへっぽこな鈍足じゃ、待ち合わせ時間には間に合わない。 「う〜・・・・怒られるぅ」 その場にへたり込みたい気分だけどこんな道端じゃそんなわけにもいかないし。 今日のお菓子がクッキーだったのがまだ救いかも。しっかり梱包してきてよかった。 「おい、何やってんだよこんなとこで」 「へっ・・・あ、お、岡田サン」 「遅いから迎えに来た。お前、走ってたの?」 くぅぅ。いつもながら、この、ちょっと冷たい言い方がいいんだよぅ。 岡田さんの高校の制服は紺色ブレザーに白いシャツ、そして細かいマドラスチェックのズボン。 赤に近い臙脂色のネクタイはニットっぽい素材だから、普通のネクタイよりも生地がたらん、と柔らかくて、 きっちり締めてるよりも、岡田さんみたいにシャツのボタンを2つくらい開けてルーズに着こなしてる人が多い。 シャツから覗く首筋が、ゴツゴツしすぎてなくって、キレイ。 鞄を肩に担ぐみたいに持ってる手も、すぅっと長くて素敵。 何より、耳からアゴにかけてのラインが、超キレイ。 あぁ・・・酸素が足りなくてちょっと霞んで見えるけど、岡田さん、かっこいいなぁ・・・・ 「・・・話聞こえてるか?」 「あ、は、はいっ!すみません、えっと、友達に髪、とか結んでもらってて・・・遅れるって思って」 「メールくれりゃいいのに」 あ・・・・、そうでした。 この間『連絡してくれりゃ怒らない』って言われたとこでした・・・ 「何のためにメール交換したんだか分かんねぇじゃん、それじゃ」 ・・・・ごもっともです。 「抜けてんのな、どっか」 ・・・・誠に、おっしゃるとおり。 「うー、スミマセン・・・」 「別にいいけど。今度からはメールくれればそんでいいし」 「はいっっ、って・・・・え?」 今度って・・・また次あるってこと・・・? 「ほら、行くぞ」 「ははははっ、はいっっ」 ぽかん、としてて慌てて返事したらニッ、って笑った・・・ 「ひゃぁぁぁ・・・・」 笑うと超カワイイんだよぅ。 ちょっと切れ長の目がさ、すぅって細くなって、冷たい感じが一瞬溶けるの。 「なに奇声発してんだよ・・・行くぞ」 「あ、はいっ」 でもこっちのラブ目線には一向に気がつかない。無反応。 そんな岡田さんが好き。 「何が欲しいか決まった?」 「え、あ・・・う〜〜〜ん・・・・」 「まだ決まってねぇのかよ、考えとけっていったじゃん」 「だって・・・」 いつもの御礼に誕生日プレゼント買ってやる、なんて。 棚からぼたもちどころか、それこそクリスマスケーキが転げ落ちてきたみたいな幸運。 ・・・どう対応していいのか、全然分からないっ。 「・・・しゃーねぇなぁ、じゃあ俺が考えてたのでもいい?」 「はいっ」 「なら行こうぜ」 「はーいっ♪」 えへへ。 多分、私に尻尾があったら思いっきりブンブンしてたと思う。 不精不精、だけど優しい岡田さんがふて腐れたようにポケットから出した手のひらを、こちらに差し出した。 指の節々がゴツくて、でも男の人にしては細くてスンナリとした綺麗な手。 好きになると、何気ないこんなパーツまで素敵に見えてしまう。 「・・・手、出せ」 何をされているのか、自分がどうしたらいいのか。 命令されたことに思考が辿りつくまでには、かなりの時間が必要だった。 「・・・・・・・」 言葉も全然出てこなくって、差し出された手のひらにそっと自分の手を乗せた。 既に緊張で指先が冷たくなっていて、岡田さんの手に触れた瞬間、触れたところだけがまるで見えてるみたいに過敏になる。 想像してたとおりのゴツゴツした感触と、でもほんのり暖かくて優しい心地。 もしかしたら。 今日くらいは、奇跡とか信じても、いいのかな? 繋がった分だけ少し暖かくなった指先を感じながら、私はすっかり乱れてしまったであろう髪を、手ぐしで整えた。 「行くぞ」 「はい」 ちょっとだけ握る力を強くしてから、岡田さんがまた、今度はふんわりと優しく笑った。 |
