まるで、かたつむり






「あっあの、あのあのっ・・・・」
「何?」
「いえっ、何でもっ」

ぶ。
ガッチガチでやんの。
顔には出さずに腹ん中だけで吹き出した。で、おもむろにまた、目の前のケーキに集中する。

今日はリクエスト通りチョコレートのロールケーキだ。
丸々1本食いたい、って言ったらホントに作ってきてくれた。

バナナとチョコクリームがこれでもかってくらい入ってて、ココア生地がちょっとほろ苦くて。

「美味い」
「ほほほ、ホントっ?!」
「うん、絶品」
「よかったぁ・・・・」

リビングのソファに、思いっきり脱力。

「もー、なんにも言わないで食べてるから怖かったよぉ〜〜〜」

って、黙って食ってんだから美味いってことだろ、普通は。
なんかこの女、ズレてんだよなぁー。
最初っからちょっとどっかおかしいところがあった。

いや、だってな。
しょっぱな、朝の電車の中で初対面の女の子に

「お誕生日ですよねっ?おめでとうございますっ!」

って満面の笑みでデカイ袋を差し出されたときは、正直爆弾でも仕込まれてるのかと思ったんだ、俺は。
初対面で話したこともない相手が誕生日知ってるって時点で怖ぇじゃんか。

それに、俺、普段そんなにモテたりコクられたりしたことなんてねぇし。

(イタズラか?ドッキリか?)

そう最初は思ったんだけど、ダチも純粋に驚いてるし目の前の女の子の表情にはまるで嘘をついてる様子もなくて。
まぁ、とりあえず降りて話そうぜ、ってことになって、そのあと中身がケーキだって分かったのはいいけど、
それがまた通学前には相応しくない、爆弾に近いデカさで。

「おいおいおい・・・、どーすんだよ、こんなに」

箱を開けた俺と、隣にいたダチ、二人とも唖然。

かなり美味そうなのは美味そうだけど、これを学校に持って行って食えってゆーのか?
明らかにおかしいだろ、この女の発想。
そんでもって、俺らのその反応に泣きそうな顔になってるし。

「めいわく、ですか?ですよね、そうですよね、ごめんなさいっ・・・」

大体、迷わずこんなでっかいケーキ作って持ってきたって、俺が甘い物好きと知っての行動なわけ?
それって、迷惑とか以前の問題の気もする。
ちょっと気味悪くねぇ?って視線だけ寄こしてダチが俺をつついた。俺も、悪いがそう感じた。

・・・・・けど。

「あの、あのですねっ。私、料理部の副部長してるんです、なので、学校の冷蔵庫自由に使えるんですっ。
 だっ、だから学校が終わるまで、預かりますっ!」

名前も知らない女の子の、必死な涙目。
と、めちゃめちゃ美味そうなでっかいケーキ。

この二つに『気味が悪い』という感情はあっさり退散し。
じゃあそゆことで、と携帯のメルアドを交換して、その日の放課後に持ち込みOKのファミレスでケーキを食った。

そしたら・・・・・・・超〜〜〜!!!!、旨かったんだ。コレが。

『マジで手作り??』
『はいっ』
『すっげーうめー!!』

ハンパなく、美味い!
ふわっふわのスポンジ生地に、これまた甘すぎずちょうどいいくらいの生クリームとイチゴ。

『よ、よかったぁぁ・・・・・』

心底安心した様子の彼女が逆に不思議なくらい、そのケーキは美味かったんだ。
あっという間になくなっていくケーキと、比例して増える彼女の笑顔。

『また、会ってもらえませんか?』

俺は即答。

『またケーキ作ってくれるなら』
『はいっ!喜んでっっ!!!』

・・・・で、それ以来1ヶ月に2回くらいこうしてケーキを作ってもらってる。

「チョコレート、好きなんですね〜〜。よし、じゃあ次はチョコクリーム入りのシュークリームにします♪」

いい加減。
俺の目当てが甘い物だけじゃなくなってくることに気がついて欲しいんだけど。

・・・・・こいつ、お菓子作りの腕前はプロ級だけど、恋愛に関してはまるで、かたつむりだ。

ニコニコと上機嫌に微笑む彼女に見つからないように、俺はそっとため息をついた。








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