小さな歩幅で一歩づつ






少しづつ。少しづつ。

あの人との距離が縮んでいく。


ぐらぐらと足元の覚束ない車内、けして少なくない乗客人数。
それでもアタシは、あの人だけを見て、歩く。

電車の中の恋。
横顔しか見えないときもあったし、後姿だけってこともあったし、姿も見えなくて声だけ、ってことも。
でも、その彼と友達との会話から得られる数少ない情報が私の恋を育んでくれた。

あだ名が、オカヤン、くん。
理数系を専攻してる。
志望大学はR大の理工学部で、電車に乗るのは普通は雨の日だけで、今はその自転車が壊れちゃったから毎日電車に乗ってる。

HYとコブクロが好き。
テレビでボクシングの試合があった日はいつもよりテンションが高い。
友達はツッコミ代わりに何気に食らわされるパンチに涙目になってる。

そして今日が、19歳の誕生日だってことを聞いたのは先週。

『誕生日なんて彼女いなかったら心が貧しいもんだよなー』

親とケーキ食うだけだぜ?しかも丸いのじゃなくって普通に売ってるこ〜んなちっさいやつ。
そう言って手で三角を作って渋い顔をするのが、なんだか可愛かった。

甘いもの、好きなんだなぁ・・・・。

そのときはそう思っただけなんだけど。
学校について、それってものすごーーく、チャンスなんじゃないかって思ったの。

だって、私の特技は、お菓子作り!
クッキーだろうがアップルパイだろうが、もちろん丸いホールケーキだってどんと来い!

友達の恋を手助けするために使っていたこの技が、ようやく生かされる時が来たんだ。
手に持った袋の中には、昨日夜中に必死で焼いて可愛くデコレーションした生クリームのイチゴケーキ。

もちろん、ホールで丸ごと渡すの。
朝渡すのなんて迷惑かも、なんてそんなこと構ってられない。
だって朝しか会えないんだもん。
チャンスは今しかないの。


一歩、また一歩。

自分から近付くなんてこれが初めて。

最初に友達のほうが、大きな袋を持って近寄ってくる不審な私に気がついて、それから彼が振り向いた。


・・・・・・おたんじょうび、おめでとう!!








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