光よりも速く






「誕生日?明日?」
「はい」
「おっまえ何で早く言わねぇんだよ」

え?とトボけた顔で俺を見返してくる。口がぽかーんと開いてて結構マヌケだ。
まぁ、可愛くないわけじゃないけど。
しかし、そうか誕生日か。
俺にとっても、けっこうなイベントじゃん。

「・・・祝ってやる」
「へ、へぇっ?!」
「なんだよ?不満か?」

ぶんぶんぶんぶん。
タケコプターか?空飛びてぇのか?くらいのイキオイで頭が左右に振られる。
突然の俺の提案に完全に動揺しまくっている。申し訳ないけど面白い。面白いからどんどん質問してしまう。

「何欲しい?」
「な、なんでも」
「何でもいいはナシ」
「うー・・・じゃあ、オカヤン、の大学合格の通知・・・」

欲ねぇなぁ・・・。
こんだけケーキ作って貢いでる男に対して見返り期待しねぇのかよ。
こんなときに金の話するのもイヤだけどさ、材料費とか超かかってんじゃねぇの?
いくらかかったか聞いても答えないから仕方なくそのままにしてるけど、少なくとも俺が女なら言うぞ。

「それは俺が努力してナンボのもんだから却下。でゆーか明日渡せなかったら意味ねぇし」
「そんなぁ・・・」
「そんなぁって、プレゼント貰うほうがそんなこと言うか普通?」
「だって、だってだって、それじゃまるでなんか」

泣きそうな目をして、こちらを見上げてくる。
ここは電車の中だっていうのに・・・・すげー、キスしたい。

「なんだよ?」
「いえっ、何でもっ」

"まるで、なんか?"

・・・その続きをちゃんと言えよバカ。
そう思いつつも俺にだってそこまでの勇気、すぐは出てこない。

そう。
常にかしこまって俺の隣にいる彼女は残念ながらまだ"彼女"じゃない。
だから、お祝いにかこつけてそうなってもらう、つもり。

「何でもいいのか?」
「え、あ、はい、何でも・・・」
「分かった。考えとくから。今日はもう帰るぞ」
「じゃあ、決まったらメールします」
「あぁ」

ぽすっ、と頭を優しくたたくとようやく安心したのか、息をついてからニコ、と笑った。

「よかった〜」
「何が?」
「岡田さん、怒ってるのかと思った」
「なんで今の会話の流れで怒らなきゃなんねぇんだよ・・・」

おかしいだろ。
奢るとか、怒りながら言うことじゃねぇじゃん。

「えー、だって。目つき強いし、言い方も時々強いし・・・」
「・・・悪かったな」

確かに俺は、男友達にさえ時々『目つき悪いよオマエ』とか言われる。
まぁ確かに目はつり目でそんなでっかくはないし、可愛い顔だと思ったことはないけど。
もちろん、イイ男だとも思えないけど、

『加えて愛想がナイ!』

と言われるのはちょっと不服だ。別にそんなつもりないし。
ただ誰とでも気さくに話せるほどに性格が出来てないだけ。だと自分は思ってる。

「自分が付き合いたいヤツとだけつるんでいればそれでいいじゃん。それってオカシイのか?」
「そうですねー・・・おかしくはないですよ」

例によってファミレス寄ってからの帰りの電車の中で、俺がそう聞くと。
彼女は俺のほうを見て微笑んだ。

「ムリににこにこしてることは、ないですよね」
「あぁ」

ちょっとだけ考えてから、彼女は紡いだ言葉を文字にするように指先で目の前の空気をなぞる。

「あ。でも・・・う〜ん」

考えてることが行動に出たり、そうやってちょこちょこ動きながら考えながら話すのが彼女はすごく多い。
見たまんま、正直モノって感じでそういうところも結構ツボ。

「でも、好きな人とばっかり話してても、それで終わっちゃうんじゃないですか?」
「え?」
「たまには"この人と相性悪そうだなー"って人と話してみるのも、面白いですよ〜」

・・・そうか?
提案してくれるのはいいけど、どうもそうは思えない。

「気が合わない相手と話してて面白いか?」
「あー・・・えとですね。この間読んだ本に、そう書いてありました」
「受け売りかよ」
「あははっ、そうですー」

あっさりと認め、照れたように笑う。

「あ。本で思い出したんですけど。この間図書室で勉強してたらですねー・・・」

そして、さりげなく話題をそらした。

あー、こういうとき。
我ながらちょっと大人気なく反論しちまったかな、なんて反省する。

本に書いてあった、なんてきっとウソだろうなと思う。
彼女なりに"それはよくないですよ"って言いたくて、でも俺が反撃しそうだったから引いたんだろう。

気がつかせないように、気を遣わせないように。
きっと誰にでもそうなんだろうな。お人好しなんだろうな。
本人が言うには『学校の友達にもおもちゃにされて遊ばれてる』だけど、そういうのって、からかうほうも気を許してなきゃ出来ないことじゃないか?
いい子だって思うから、信じてるから出来ることだろ、やっぱ。

俺は、誰とでも気さくには話せない。
それは女子に対してもそんなに変わらない。
あんましキャーキャーうるさいのは好きじゃないし、大人しすぎても何話していいか分かんないし。
人を好きになることはあっても、そういう関係になるまでにはどれも至らなかった。
いいな、と思って例えばデートとかまでこぎつけても結局だめになってしまう。

『なんでそんな冷たい言い方するの』

そう言われても、これが地なんだから仕方ない。
ヘタに取り繕ったりとかしたくないから、ってだけなんだけど結局それが相手と居る空気を悪くして、居心地も悪くしてしまう。

でも、彼女の隣は心地いい。
きっと誰でもそうなんだろうけど・・・・けれど。



・・・



遅せぇ。
待ち合わせの時間、もう15分過ぎてんだけど。
って、彼女といるとこんなの当たり前だから別にいいんだけど、この間『遅れるときは連絡して』って言ったとこなのに。
なんかあったのかな。

「あ〜、もう・・・」

遅れてくることに苛立つより先に、心配になるから連絡してほしい。

彼女の高校は、この地域ではちょっと有名な"お嬢様学校"だ。
四年制の女子大学の付属の高校で偏差値もそこそこ高いからか、有名企業の社長の娘なんかもいたりする。らしい。

彼女自体は"別にふつーの家庭です"とか言ってたけど、彼女の言う普通が俺の普通と同じかどうかは自信ない。
だってあいつ、ちょっとトボけてるし・・・。
それに、そのトボけたとこに付け入る輩がいたら嫌だな、と思う。

「・・・行くか」

多分彼女のことだから、こっちに向かって走ってる。そんなに早くもない全力疾走で。
こっちから歩いていけば、きっとどっかでぶつかるだろう。高校から駅までは確か一本道だったと思うし。

心がはやる。
彼女に会ったら、今度こそは素直になろう。
格好つけずにちゃんと言おう。

早く、速く、彼女に会いたい。

神様に祈るように強く思った瞬間、向こうから駆けてきて・・・・すぐに立ち止まってぜーぜーいってる、姿が目に入る。
声をかけようとして、いつもとは違う姿に上げた手が怯んだ。

いつも、ストレートに下ろされただけの髪は緩く巻かれていて広がり、二重の目元は縁取られた長い睫毛の力を借りてくっきりして見える。
荒い息を吐き出す唇のグロスが艶っぽく光り、そんな姿だとは想定していなかったこちらをドキリと欲情させる。

「・・・何やってんだよこんなとこで」

心を奪われたことで、自分が口に出すセリフが一層冷たく響いて聞こえる。
今こうしてしゃべっているのが自分じゃないような、そんな錯覚が起きる。

「手、出せ」
「え・・・・・」

実はずっと繋ぎたかったその手をぎゅっと握りしめたら、彼女は応えるように握り返してくれた。







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